嫉視しっし)” の例文
ただ難点はあまりにここは理想的でありすぎた。もしこういう場所を占有したなら、周囲から集る羨望せんぼう嫉視しっししずまる時機がないのである。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
同族の嫉視しっし陰謀がいかに悲しむべき流血の惨事を招いたか、上宮太子の信仰はその切なる体験に発したものであることはすでに述べた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その頃からワグナーの権力は劇場支配人の嫉視しっしを買い、新聞を敵に回して一歩一歩救うことの出来ない難境に踏み込んでしまった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「これでも、今の時代は宗教がさかんだといえるだろうか。旧教の仏徒から、嫉視しっしを受けるほど、勃興していると見られている念仏門が——」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半三郎が逐われたのは教官の嫉視しっしからで、詰るところ彼自身の学問に対する良心と、ぬきんでた才腕があだとなったわけである。
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一つは昔の嫉視しっしから出てきたものだった。(幼年時代のそういう熱情は、虜囚が忘れられたときにもなおその力が残存しているものである。)
よしがしげつて渡場わたしばの邪魔になり」といふかの川柳においても想像せらるる如く、時には互に反目はんもく嫉視しっしせるや知るべからず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
徹頭徹尾謹厳だといわれたがっているように見られた庸之助は、或る意味の嫉視しっしと侮蔑から変物扱いにされていたのである。武士道の遵奉者であった。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そのため他の諸侯がたから、嫉視しっし反感をうけるようなことがあっては、という賢人の賢慮から、わざと身軽で扈従こじゅうするのがいつもその定例なのでした。
女性間の嫉視しっし反目(しゅうとめと嫁、妻と小姑の関係はいうまでもあるまい。私はよく婦人から同性中に心を許し合うことの出来る友人のないことを聞かされる)
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
倨傲にして遂に世界の嫉視しっしを受け、如何いかに絶世の勇を奮っても多数の拳固のために袋叩きにされてしまったとすれば、ここに目覚めたる独逸ドイツ国民は、必ずや
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
つづめて言えば、人類の交際は明白な直道で、いじけたものでもなく、曲がりくねったものでもないのに、何ゆえに日本はこんなに外国を嫉視しっしするのであるか。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それが当年六十路むそじあまりのおばアさんとは、反目はんもく嫉視しっし氷炭ひょうたん相容あいいれない。何ということ無しにうつらうつらと面白く無い日を送って、そして名の知れない重い枕にいた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
一人の女性を渇仰かつごうする青年達が、類を以て集った、そのグループの中の一員として、おたがい嫉視しっしし乍ら近づき合ったということが、より重大な動機を為していたのだった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
長崎屋の表情に、あらわに嫉視しっしのようなものがうかぶのを、雪之丞は見のがさなかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それ故に神尾主膳らが、能登守を忌み嫌うというのも単に感情の問題のみで、仕事の上では嫉視しっしを受けるような成功もしなければ、弾劾だんがいを受けるような失態もしていませんでした。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
既に到達せる者に対する途半ばなる者の不正な嫉視しっしを抑圧せよ。労働の貸金を数理的にかつ友愛的に正せよ。子供の成長に無料の義務教育を添加し、学問をもって壮年の基礎とせよ。
毎日石造りの陰鬱いんうつな大きな部屋に通って、慣れない交換台に向かって、加入者の罵声ばせいを浴び、仲間からは粗末な服装を嘲笑ちょうしょうされ、両親から譲られた唯一のものである美貌びぼう嫉視しっしされて
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
残念さ、嫉視しっしねたましさ! すべての悪の根源をなす修羅しゅら妄執もうしゅうであったろう。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
これは素晴らしい麒麟児きりんじだ。まるで鬼神でもいていて言語行動させるようだ……ははあ、それで弓之進め、この少年の行末ゆくすえを案じ、朋輩先輩の嫉視しっしを恐れ、にわ白痴ばかを気取らせたのであろう。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
互に嫉視しっし、反目して、雌は雄を呼び、雄は、ただ半狂乱で歩きまわる。
嫉視しっし、迫害、批難攻撃は二人の身辺を取りまいた。抱月氏の払った恋愛の犠牲は非常なものだったが、寂しみに沈みやすいその心に、透間すきまのないほどに熱をきつけていたのは彼女の活気であった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
梶はそんなに反対の安全率の面から探してみた。絶えず隙間すきまねらう兇器の群れや、嫉視しっし中傷ちゅうしょうの起すほのおは何をたくらむか知れたものでもない。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「…………」親鸞はかろくあごをひいて苦笑した。さてこそ、ここにも小人の嫉視しっしかと、はえのようなうるささを感じるだけだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親子のあいだにさえ好悪や嫌厭けんえんがある、まして個性を持った他人どうしに、嫉視しっしや敵対意識や、競争心や排他的な行動のあるのが当然じゃあないだろうか。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
クリストフを嫉視しっししてる芸術家らがドイツにいた。彼らは必要に応じていろんな武器を作り出しては、それを彼の敵へ供給した。フランスにもそういう奴らがいた。
日本人間に嫉視しっしが激しいので、サンフランシスコでの事業の目論見もくろみは予期以上の故障にあって大体失敗に終わった事、思いきった発展はやはり想像どおりの米国の西部よりも中央
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
上宮太子が御幼少の頃よりのあたり見られたことは、すべて同族の嫉視しっしや陰謀、血で血を洗うがごとき凄愴せいそうな戦いだったのである。一日として安らかな日はなかったとっていい。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
清浄を嫉視しっしする夜陰やいんの尼なる魔界の天使。
その点、秀吉からゆるされて毎日塚原小才治つかはらこさいじの道場に通っている虎之助が、たれからも嫉視しっしまととされていたのは無理もない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして各人が自分の家に閉じこもっていた。そういう嫉視しっし的な個人主義は、たがいに隣り合って数世紀間暮らしてきたあとにも、衰えるどころかかえって強くなってるかのようだった。
平和とは内攻した血の創造の日々である。対外的には静謐せいひつであろうと、一歩国内の深部に眼をむけると、そこには相変らぬ氏族の嫉視しっしと陰謀と争闘があり、煩悩ぼんのうにまみれた人間の呻吟しんぎんがある。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
たとえ、嫉視しっし、迫害、排撃、あらゆるものがこの一身にあつまろうとも、範宴が講堂に立つからには御仏みほとけ偽瞞ぎまんきぬにつつむようなわざはできぬ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また味方のうちにすら嫉視しっしはいも尠なくない——いわゆる人生の嶮路けんろにさしかかっている彼として——竹中半兵衛をたのむことはなおさら切実であった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ、才蔵さいぞう一身いっしんに一嫉視しっしはのこっても、のちに現出げんしゅつしたような、意外いがいな大事にはならなかったであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも自分は、周囲の白眼と嫉視しっしの中におかれているが、ともかく、主君家康より信ぜられ、岡崎の城を預かり、一家眷族いっかけんぞくも、それぞれ、食と所は得ているのだ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日までのどんな場合の憎悪の嫉視しっしよりも、このせつなほど又八は、友の姿を悪魔に見たことはない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
驍勇ぎょうゆう並ぶ者なきあなたと、伝国の玉璽を所有して、富国強兵を誇っているところの袁家とが、姻戚いんせきとして結ばれると聞いたら、これを呪咀じゅそ嫉視しっしせぬ国がありましょうか」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これはちと急変すぎる。新田殿の嫉視しっしのほども恐ろしい。そちたちは、どうこれをる?」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「貴公も、そう思うか」と、曹操に対して、同じ嫉視しっしの思いを、口汚く云いだした。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに今、自分の身が、天下の群雄から、嫉視しっしされ羨望せんぼうされているかをである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、このことある前から秀吉を軽んじたり嫉視しっししていた人々の先入主せんにゅうしゅである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
破格な優遇といってよく、ために、多少、藩内の嫉視しっしもかったようである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸藩げいはんの片田舎に、貞節な春水未亡人として暮している彼女には、都会の様子も、複雑な社会人争闘の戦法も、男同士の女よりもつよい嫉視しっしも、反目も、分らなかった。一図な心配も無理ではない。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼に忠誠なる腹心の部下をのぞく以外は嫉視しっし反感あるのみだった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに又、彼に対する、嫉視しっし、中傷の反動も挙がらずにいない。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それぞれ多分な嫉視しっし反感をふくんだ声であった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という一般の嫉視しっしであった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)