天晴あっぱ)” の例文
「それは殿のお言葉が、恐れながら順当で御座ろう。とやかく申しても当、上様は御名君のう。天晴あっぱれな御意……申分御座らぬ……」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ヘロデ王にしかられるとべそをかく、褒賞ほうびをもらうと押し戴く、ディヤナには色目を使うという工合で、天晴あっぱれ一役をやってのけました。
「さすがは運慶だな。眼中に我々なしだ。天下の英雄はただ仁王とれとあるのみと云う態度だ。天晴あっぱれだ」と云ってめ出した。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天晴あっぱれのあなた様のご決心、同志一同感謝いたすでござろう。では菊女殿明日ともいわず、今夜忽ちに二つの手をもって……」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そっと手から手へ渡すという仕組みなのさ……実に敵ながら天晴あっぱれ、赤外線を使ったのは間諜スパイ戦はじまって以来是が最初だろうよ
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「手張りをしちゃいけないと言うのも要するに結果論さ。儲ければ、親父だって、サッと斯う日の丸の扇を開く。天晴あっぱれ/\!」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さても出来でかしたり黄金丸、また鷲郎も天晴あっぱれなるぞ。その父のあだうちしといはば、事わたくしの意恨にして、深くむるに足らざれど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
すっきり端然しゃんと構えたる風姿ようだいといい面貌きりょうといい水際立ったる男振り、万人が万人とも好かずには居られまじき天晴あっぱれ小気味のよき好漢おとこなり。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
或いは刀は良いけれども腕が怪しいと言われてしょげるもあり、刀はさほどでないが腕の冴えが天晴あっぱれと言ってめられるものもありました。
ポートサイドでレモンの皮のはいった塩水でうがいをしてスエズ運河の両岸の夜景に挟まれて身の丈を長くした妾は天晴あっぱれ一人前の女になったのです。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
歩いても近き場所なるを贈物が大切とて車を雇い、心には天晴あっぱれお登和嬢を悦ばせんと期して急ぎ中川の家へおもむきたり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
まゆを破って出たのように、その控え目な、内気な態度を脱却して、多勢おおぜいの若い書生たちの出入りする家で、天晴あっぱれ地歩を占めた夫人になりおおせた。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
天晴あっぱれ武門の柱石ちゅうせきと任じております。勝とう勝とうは武門の空念仏からねんぶつ。ひとりぐらいは、負けかたの良ししを考える御家臣もあってよろしいでしょう」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気の毒だが、敵ながら天晴あっぱれとは言えないのだ。私から見ると、この場合、日本のその陶工のほうが一枚も二枚も役者がうえである。一境地に達している。
それにつけても肥後守ひごのかみは、——会津中将は、あおい御一門切っての天晴あっぱれな公達きんだちのう! 御三家ですらもが薩長の鼻息うかごうて、江戸追討軍の御先棒となるきのう今日じゃ。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
天晴あっぱれ衆人の嘲笑と愚弄の的になりながら死ぬまで騎士の夢をすてなかったドンキホーテと、その夢を信じて案山子かかしの殿様に忠誠を捧げ尽すことの出来たサンチョと
雑記帳より(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
したがって、天晴あっぱれの気性者。その上、身の働きの素早さは、言語に絶し、目から鼻へ抜けるような鋭い機智で、どんな場合にも、易々やすやすと、危難のふちを乗り切るのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あわれこの人男子と生れて太棹ふとざおを弾きたらんには天晴あっぱれの名人たらんものをとたんじたという団平の意太棹は三絃芸術の極致にしてしかも男子にあらざればついに奥義おうぎ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
秀吉は適当に食慾を制し、落付払ふこと、まことに天晴あっぱれな貫禄であつた。天下統一といふ事業のためなら、家康に頭を下げて頼むぐらゐ、お安いことだと考へてゐる。
黒田如水 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
まことに天晴あっぱれな進退で、僕らはすっかり気を呑まれて、ただ茫然と見送っているばかりでした。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「何が、間違いです。誰が間違いだと云いました。とんでもない、天晴あっぱれじゃありませんか。」
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百右衛門こそ世にめずらしき悪人、武蔵すでに自決の上は、この私闘おかまいなしと定め、殿もそのまま許認し、女ふたりは、天晴あっぱれ父のかたきしゅうの仇を打ったけなげの者と
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は、妻の、その天晴あっぱれ美事な心境に、呆然ぼうぜんとしてしまった。彼はもう涙が出なかった。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
広い邸内を、唯ひとり血刀ちがたなを下げて相手を求めて歩き廻っていたところは、天晴あっぱれな若武者ぶりだったとある。もっとも、がんどう頭巾というやつ、あれをスッポリかぶって眼だけ出していた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その恩に感じて南蛮キリシタン宗に帰依きえし、ハビアンと名を改め、カテキスタ(同宿)として天晴あっぱれ才学をうたはれたも束の間、一朝にして己れがインテリゲンシヤにおぼれ、増長慢ぞうちょうまんに鼻をふくらし
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
天晴あっぱれ人類に偉大な貢献をすべき人物に見えてくる……偉大なる貢献をね! そうなったらもう、僕独特の堂々たる哲学体系が出現して、君たち仲間はみんな、虫けらか微生物みたいに見えてくる。
女人と言えども天晴あっぱれな御同行の一人じゃぞ
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「中々、天晴あっぱれな者で御座ります——」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
しかしです、貸すに二週間の時日をもってせられるならばです、質実剛健、思想堅固天晴あっぱれ、天下無双の猛牛トオロオに仕立てて御覧にいれますヨ
時に五七の句調など用ひて、趣向も文章も天晴あっぱれ時代ぶりたれど、これかへつて少年には、しょうしやすく解しやすからんか。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
敵ながら天晴あっぱれと褒めたくなるほどの、真に神妙な早業で、しかも充分のネバリをもって、石火の如くに行なわれては、ほとんど防ぐに術が無い
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
せっかく汝も望みをかけ天晴あっぱれ名誉の仕事をして持ったる腕の光をあらわし、欲徳ではない職人の本望を見事に遂げて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あいやま時代のことなんぞは口に出すのもいやがって、天晴あっぱれのお部屋様気取りですましていることは、思えば思えば業腹ごうはらでたまらないのであります。
そうして極めてスペシァルなアカデミックな教育を受けて天晴あっぱれ学士となり、そうしてしかも
何やかや指図して大の男を使ひこなしてゐる様子は天晴あっぱれ姐御であつたが、さういふこの人は私の心を動かさなかつた。私は笑ひを追ひつゞけた。それはひどく高潔だつた。
篠笹の陰の顔 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
どうにも融通ゆうずうのきかねえ人間だった。——それにひきかえ、この三蔵は、親に似気にげなき天晴あっぱれ者と、きのうも直々、池田入道勝入さまから、お褒めのことばを頂戴し……さ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小説家よ!……天晴あっぱれ、と一つあおいでやろうと、扇子を片手に、当時文界の老将軍——佐久良さくら藩の碩儒せきじゅで、むかし江戸のお留守居と聞けば、武辺、文道、両達の依田よだ学海翁が
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世の青年子弟が一の学校を卒業すれば天晴あっぱれ自ら何の事もべしと信じ、無経験の身を以て大胆なる事業にあたり遂に失敗して世をうらみ自ら苦むもの比々ひひとしてなこれなり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
式部の秘蔵のひとり息子で容貌ようぼう華麗、立居振舞い神妙の天晴あっぱれ父の名を恥かしめぬ秀才の若武者、いまひとりは式部の同役森岡丹後の三人の男の子の中の末子丹三郎とて十六歳
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
現在天晴あっぱれの精神科学者を兼ねた名探偵となって御座るわけだから、その力でこの記録を読んで行かれたならば、徹底的にこの事件の真相を看破して、ギャフンとまいる位の事は
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同じ場所から攻め入った柳川の立花飛騨守宗茂ひだのかみむねしげは七十二歳の古武者ふるつわもので、このときの働きぶりを見ていたが、渡辺新弥、仲光内膳なかみつないぜんと数馬との三人が天晴あっぱれであったと言って、三人へ連名の感状をやった。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昨日きのうまで舞台に躍る操人形あやつりにんぎょうのように、物云うもものうきわが小指の先で、意のごとく立たしたり、寝かしたり、はては笑わしたり、らしたり、どぎまぎさして、面白く興じていた手柄顔を、母も天晴あっぱれと
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敵ながら天晴あっぱれだと思いますよ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
世にも名高いニースの花合戦に加わり、一等を争って敗れたのでございますもの。天晴あっぱれ華々しい最後と申してよろしゅうございましょう。
天晴あっぱれ見事なお腕前、それに不思議な構え方、お差し支えなくばご流名を、お明かしなされてはくださるまいか」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
両国の女軽業師の楽屋へ来て、お角を待っている福兄ふくにいなるものは、御家人崩れの福村のことで、巣鴨の化物屋敷では、天晴あっぱれ神尾主膳の片腕でありました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
次第に成長するにつけ、骨格ほねぐみ尋常よのつねの犬にすぐれ、性質こころばせ雄々おおしくて、天晴あっぱれ頼もしき犬となりけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
天晴あっぱれ立派に建ったるかな、あら快よき細工振りかな、希有けうじゃ未曽有みぞうじゃまたあるまじと為右衛門より門番までも、初手のっそりをかろしめたることは忘れて讃歎すれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何やかや指図して大の男を使いこなしている様子は天晴あっぱ姐御あねごであったが、そういうこの人は私の心を動かさなかった。私は笑いを追いつづけた。それはひどく高潔だった。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「いやいや、最前とくとお見受け申すに、法はずれながら其許そこもとの切尖には、云うに云われぬ天質の閃きがあるやに存ずる。必ずとも一念にご出精あれば、天晴あっぱれなお手筋になられましょう」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)