天幕てんと)” の例文
彼等は獣皮の天幕てんとを張り、それで夕陽を遮り乍ら、その日の仕事の分前を——諸方で盗んで来た品物を男達は互に分け始めました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「サァ明朝あすは早いぞ、もう寝ようか」と、狭い天幕てんと内へゾロゾロと入り込んだが、下は薄いむしろ一枚で水がジメジメとうして来る。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
砂漠の虎だって、情を解しないものではない——天幕てんとに照る月、兜に置く露、この長の年月、ただの一日もあなたを忘れたことはなかった。
先日来の雨で、処々に水溜みずたまりが出来て居るが、天幕てんとの人達が熊笹を敷き、丸木まるきわたしなぞして置いて呉れたので、大に助かる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よ、ほか人一個ひとひとりらぬ畑中はたなか其所そこにわびしき天幕てんとりて、るやらずのなかる。それで叔母達をばたちるとも、叔父をぢとも此所こゝとゞまるといふ。
赤熊百合しやぐまゆり、王の御座所ござしよ天幕てんと屋根飾やねかざり、夢をちりばめたしやく埃及王ばろ窮屈きゆうくつな禮服を無理にせられた古風こふう女王ぢよわう
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ブドリたちは、天幕てんとの外に出て、サンムトリの中腹を見つめました。野原には、白百合しらゆりがいちめんに咲き、その向こうにサンムトリが青くひっそり立っていました。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
どうしても、「アラビヤ人の天幕てんと」は詩人の夢である。演出者は安価な感激や和製の技巧をすてて、せめてその刹那だけでも心からの詩人になろうとしなければならぬ。
ダンセニーの脚本及短篇 (新字新仮名) / 片山広子(著)
「まだ蒙古人もうこじん天幕てんと使つかふフエルトももらひましたが、まあむかし毛氈まうせんかはつたところもありませんね」
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ふッと眼が覚めると、薄暗い空に星影が隠々ちらちらと見える。はてな、これは天幕てんとの内ではない、何で俺は此様こんな処へ出て来たのかと身動みうごきをしてみると、足の痛さは骨にこたえるほど!
ああかの暗い隧路の向うに、天幕てんとの青い幕の影に、いつもさびしい光線のただよひゐる。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
大江山酒天童子おおえやましゅてんどうじ電気人形、女剣舞、玉乗り、猿芝居、曲馬、因果物、熊娘、牛娘、角男つのおとこ、それらの大天幕てんと張りの間々あいだあいだには、おでんや、氷屋、みかんすい薄荷水はっかすい、十銭均一のおもちゃ屋に
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ななめに見た標札屋ひょうさつや露店ろてん天幕てんとの下に並んだ見本は徳川家康とくがわいえやす二宮尊徳にのみやそんとく渡辺崋山わたなべかざん近藤勇こんどういさみ近松門左衛門ちかまつもんざえもんなどの名を並べている。こう云う名前もいつのにか有り来りの名前に変ってしまう。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そんな天幕てんとの間からおれはふらふらやつてきた仲間の一人だ
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
にぶき、幽鬱いううつ毛織けおり天幕てんと
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
明るき緑の天幕てんとを空に張り
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
三、四十分も掛かってようや天幕てんとを張り終り、むしろを敷いてそこへ覚束おぼつかなくも焚火を始めた頃、水汲み隊は息を切らしヘトヘトになって帰って来た。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
今日は斗満の上流ニオトマムに林学士りんがくし天幕てんとう日である。朝の七時関翁、余等夫妻、草鞋ばきで出掛ける。鶴子は新之助君がおぶってくれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なにない。——ないけれど面白おもしろい。疲勞ひらうしては天幕てんとり、菓物くわぶつひ、サイダをむ。いきほひをてはまたりにかゝるが、はなはだしくなにない。
またのものは尼寺あまでらちひさき芝生しばふうへに百合の紋章打つたる天幕てんとを張りたる如し。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
花柳氏一派及び友田氏一派が共に「アラビヤ人の天幕てんと」を選んだのはエズナルザが程よい役である為もあろうが、日本語に移して、あの脚本の夢と詩が傷つけられることを私は恐れている
ダンセニーの脚本及短篇 (新字新仮名) / 片山広子(著)
長老哲別ジェベ、その雲往きを察して、追い立てるように将卒一同を引き取らせる。そして手早く合爾合カルカ姫を案内して、成吉思汗ジンギスカン天幕てんとへ伴れ去る。成吉思汗ジンギスカンは辺りをめ廻したのち、つと天幕へはいる。
幸徳秋水のいへまへうしろに巡査が二三人づゝ昼夜張番はりばんをしてゐる。一時は天幕てんとを張つて、其なかからねらつてゐた。秋水が外出すると、巡査があとを付ける。万一見失ひでもしやうものなら非常な事件になる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ここへ天幕てんとを張りたまえ。そしてみんなで眠るんだ。」
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さうして砂原へ天幕てんとを張り
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
色にぶき毛織けおり天幕てんと
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
儂は儂の住居が水草を逐うて移る天幕てんとであらねばならぬことを知らぬでは無かった。また儂自身に漂泊の血をもって居ることをいなむことは出来なかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そこで剛力を二人雇い、写真器械だの、天幕てんとだの二日分の糧食だけを背負わせたところ、重い重いとすこぶる不平顔。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
おまけに小雨こさめさへしたので、一先ひとまあやしき天幕てんとしたに、それをけてると、うしろはたけにごそめくおとがするので、ると唯一人たゞひとり、十六七の少女せうぢよが、はたなかくさつてる。
最長篇「神々の笑い」の中に皇后おうこうと侍女たち及び三人の貴婦人が出て来る「女王の敵」に女王及び侍女が出る「アルギメネス王」に四人のが出て来る「アラビヤ人の天幕てんと」にジプシイの女が出る
ダンセニーの脚本及短篇 (新字新仮名) / 片山広子(著)
そのさま、暴風雨あらしした天幕てんとに似たり。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
色にぶき毛織けおり天幕てんと
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)