夜伽よとぎ)” の例文
当主はそれから一年余り後、夜伽よとぎの妻に守られながら、蚊帳かやの中に息をひきとつた。「蛙が啼いてゐるな。井月せいげつはどうしつら?」
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
雨が降ると仕事がはかどらぬし、手伝に来て下さる人にも気の毒やけど、こんな天気になつて、嬉しやな。——死ぬ時でも、三日四日も夜伽よとぎ
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
島川というのは、奥勤めの中老で、折りふしは殿のお夜伽よとぎにも召されるとかいう噂のある女であるから、人々は又おどろいた。
百物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「どうも腎臓が悪うございましてね、今晩も夜伽よとぎに来てくれた方が、寒いからあたたかい物で、酒を出すと云っておりますよ」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜がけるにつれ、夜伽よとぎの人々も、寝気ねむけもよおしたものか、かねの音も漸々ようように、遠く消えて行くように、折々おりおり一人二人の叩くのがきこえるばかりになった。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
蒲団引きおうて夜伽よとぎの寒さをしのぎたる句などこそ古人も言えれ、蒲団その物を一句に形容したる、蕪村より始まる。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
く息さえも苦しくまた頼もしかった時だ——「鬼よ、羅刹らせつよ、夜叉の首よ、われを夜伽よとぎの霊の影か……闇の盃盤はいばん闇を盛りて、われは底なき闇に沈む」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
それから青眼先生は紅木大臣夫婦に、今夜からは自分一人で夜伽よとぎをして、悪魔の正体を見届けたいから、何卒どうぞ自分に任せて下さるようにと熱心に願いました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
居士の枕頭に鷹見氏の夫人と二人で話しながら夜伽よとぎをして居られたのだが、あまり静かなので、ふと気がついて覗いて見ると、もう呼吸いきはなかったというのであった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
この弥一右衛門は家中でも殉死するはずのように思い、当人もまた忠利の夜伽よとぎに出る順番が来るたびに、殉死したいと言って願った。しかしどうしても忠利は許さない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
遊びに来て下さるもし、夜伽よとぎとおっしゃるも難有ありがたし、ついでに狐狸こりたぐいなら、退治しようも至極ごもっともだけれども、刀、小刀ナイフ、出刃庖丁、刃物と言わず、やり、鉄砲
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後陽成天皇ごようぜいてんのう中宮ちゅうぐうの院に召しつかわれていて、よく宮中で夜伽よとぎのおはなしをしたことがある。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
病室の窓はすっかり黄色い日覆をおろされ、中は薄暗くされていた。看護婦達も足を爪立てて歩いた。私は殆んど病人の枕元に附きっきりでいた。夜伽よとぎも一人で引き受けていた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この残虐ざんぎゃくの歴史は、やがて、家族の夜伽よとぎを通じ、昔噺むかしばなしさながらの興をそえることになるのだが、ルピック夫人が、ここでその説明をしている間、にんじんは眠り、そして夢を見ているのだ——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
わしの夜伽よとぎをする様になったのは十七の時だったろうか。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
池田 そちの妻を夜伽よとぎに——と言われたら?
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「何ともはやお気の毒でござりまするが、いくら遊女でござりましょうと、ほかに二世かけたかわいい男のある者が、そうそう大勢様にいい顔なぞ見せられる筈がござりません。夜伽よとぎは元より、呼ばれましても座敷へ出ぬ時さえたびたびでござります」
彼女は若い女たちに向って自分の夜伽よとぎをしろと命じたが、その方法の淫猥、醜虐、残忍は、筆にも口にも説明することが出来ないばかりか
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて親戚や近所の人達が、あつまって来て、彼地あちらでいう夜伽よとぎ東京とうきょうでいえば通夜つやであるが、それがある晩のことはじまった。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
蒲団引きあふて夜伽よとぎの寒さをしのぎたる句などこそ古人も言へれ、蒲団その物を一句に形容したる、蕪村より始まる。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
七八日前にはお前、早やもう死ん/\になつてのう、親類のものが寄つて二晩も夜伽よとぎまでしたれど、又少し快くなつたわいの、これでそんなことが三度や。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
その後でもまだ起きているのは九時前後から夜伽よとぎをする看護婦の甲野ばかりだった。甲野は玄鶴のまくらもとに赤あかと火の起った火鉢を抱え、居睡いねむりもせずに坐っていた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おい、そこいらに蓑蟲みのむしるだらう。……な。」「はツ。」とつた昨夜ゆうべのお夜伽よとぎからつゞいてそばた、わたしは、いきなり、には飛出とびだしたが、一寸ちよつとひろにはだし、もいろ/\ある。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
引き取った時枕頭に在った母堂は折節共に夜伽よとぎをせられていた鷹見氏の令夫人を顧みて「升は一番きよさんが好きであったものだから、なにかというと清さんにお世話になりました。」
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かつて佐渡が、今夜のような夜伽よとぎの——君臣団欒まどいの折に、ふと
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おゝ/\わるがきがの……そこが畜生ちくしやうあさましさぢや、澤山たんとうせいよ。ばいて障子しやうじければ、すぐに人間にんげんもどるぞの。」と、ばあさんは、つれ/″\の夜伽よとぎにするで、たくみ
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さもなければ夜伽よとぎ行燈あんどうの光の下で、支考と浮世話に耽つてゐる際にも、ことさらに孝道の義をいて、自分が師匠に仕へるのは親に仕へる心算つもりだなどと、長々しい述懐はしなかつたであらう。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夜伽よとぎの人々があつまってる座敷の方へ、フーと入って行った、それが入って行ったあとには、例の薄赤いの影が、漸々ようようと暗くかげって行って、真暗になる、やがて暫時しばらくすると、またそれが奥から出て来て
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
夜伽よとぎ近習きんじゅうなどに洩らすこともあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くじとりて菜飯たかする夜伽よとぎかな 木節ぼくせつ
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
貴方あなた御逗留ごとうりゅうというのに元気づいて、血気な村の若い者が、三人五人、夜食の惣菜ものの持寄り、一升徳利なんぞ提げて、お話対手あいて夜伽よとぎはまだおだやかな内、やがて、刃物切物、鉄砲持参
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「洋ちゃん。お前今夜夜伽よとぎをおしかえ?」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その時、後を閉めようとして、ここに篤志とくし夜伽よとぎのあるのを知って一揖いちゆうした。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くじとりて菜飯なめしたたかす夜伽よとぎかな 木節
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夜伽よとぎをするんじゃ、大分悪いな。」と子爵が向うから声を懸けた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
現に、夜伽よとぎをして、あの通り、あかりがそこに見えるじゃないか。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜伽よとぎじゃないか。」と民弥が引取ひっとる。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)