たし)” の例文
さかうへ煙草屋たばこやにて北八きたはちたしところのパイレートをあがなふ。勿論もちろん身錢みぜになり。舶來はくらい煙草たばこ此邊このへんにはいまれあり。たゞしめつてあじはひならず。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
出席婦人会員のたしなみの為ということになって居りますが、恐らく阿夜子夫人の異常な嫉妬のためだろうと言われて居りました。
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
なんといううらやましいおたしなみだろう、あきつは忘れていた自分の家へでも帰ったような、殆んど懐かしいと云いたい気持でそう思った。
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくしは唯霞亭が酒をたしんだことを知つてゐる。酒を嗜むものは病に抗する力をがれてゐるものである。急病に於て殊にさうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
其が、赤彦のたしむ古典のがっしり調子と行きあって、方向を転じて了うたが、『氷魚』の末から『太虗集』へわたる歌口なのだ。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
旧幕時代には、藩の山廻り役なども時々やってきたけれど、武士でもその頃の人は、やはり慎しみもたしなみもあって、山で野放図な事などけっしてしなかった。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
福岡ふくをかうつつてからもなく、御米およねまたいものをたしひととなつた。一度いちど流産りうざんするとくせになるといたので、御米およねよろづ注意ちゆういして、つゝましやかに振舞ふるまつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いいえ、そんな涙っぽい種じゃなくて、たしかあの人には、死身のたしなみと云うのがあったのだろうね。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
純真な男性の血を好んでたしなむ怪物である。夫人の良心に訴えて、少しでも彼女を、いゝ方に改めさせてやろうと思ったのは、悪魔に基督キリストの教を説くようなものであると思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たしまねどあたため酒はよき名なり
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
就中なかんづく茶山は菜蔬をたしんだので、其買入を伊沢の家に託した。本郷の伊沢の家と、神田の阿部邸との間には、始終使の往反が絶えなかつたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「いえ御酒はおたしなみやあしゃらねえのでござりますか」「酒か、うん、——酒は飲まない」旦那はこう仰しゃった
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かねて煙草はたしまぬから、これは母親の枕辺まくらべにあったのだろう、お夏はこの得物を取りに駆込んだのであった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
福岡へ移ってから間もなく、御米はまたいものをたしむ人となった。一度流産すると癖になると聞いたので、御米はよろずに注意して、つつましやかに振舞っていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竹亭の子松宇は名を頼寛らいくわんと云つて、俳諧をたしんだ。松宇の子兵助は喜多七大夫の門に入つて、能師となつた。兵助の子が即ち我客幸作さんである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私は詩や書や煎茶せんちゃたしなむ父のそばで育ったので、からめいた趣味を小供こどものうちからもっていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ていしきりふたゝんことをほつしてつひ如何いかんともすることあたはず。侍中じちうすゝんでいはく、だつ鯔魚しぎよたしむ、ねこにまたゝびとうけたまはる。しんねがはくはこれくせんと、いたゑがいて兩生りやうせい鯔魚しぎよをどらし、きしけてみづうかゞふ。
聞きたるまゝ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
中にも弥一右衛門の二男弥五兵衛はやりが得意で、又七郎も同じわざたしむところから、親しい中で広言をし合って、「お手前が上手じょうずでもそれがしにはかなうまい」
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
われは早稻田文學と共に戲曲をたしみ、早稻田文學と共に叙事中に評を揷まざる小説を愛し、早稻田文學と共に造化に似たる詩を好み、早稻田文學と共に悟を貴む。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
朝といえども省かない。さかなには選嫌えりぎらいをしなかったが、のだへい蒲鉾かまぼこたしんで、かさずに出させた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鰻をたしんだ抽斎は、酒を飲むようになってから、しばしば鰻酒ということをした。茶碗に鰻の蒲焼かばやきを入れ、すこしのたれを注ぎ、熱酒ねつしゅたたえてふたおおって置き、少選しばらくしてから飲むのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
五郎作は奇行はあったが、生得しょうとく酒をたしまず、常に養性ようじょうに意を用いていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こゝおい、今の叙事詩エポスすくなき世にありては戲曲ドラマをして第一位に居らしめざることあたはざるべし。これを早稻田文學が沒理想を説きて戲曲をたし所以ゆゑんとす。われは其意を取りて其言を取らず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
此文を見れば、雲嶺も亦酒をたしんだことがわかり、又苾堂が下戸であつたことがわかる。雲嶺は石野氏、名は世彜せいい、一に世夷せいいに作る、あざな希之きし、別に天均又皆梅かいばいと號した。また駿河の人で詩を善くした。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)