喘息ぜんそく)” の例文
持病の胃潰瘍のほか、この頃から、父には執拗な喘息ぜんそくが併発していた。咳き込むと、数時間は、母に背を撫でさせて苦しむのである。
六十二三、一代にこれだけの身上をこしらえた、したたかな親爺ですが、喘息ぜんそくと年のせいで、近頃は、もうすっかり老込んでおります。
さも窮屈らしく恭々うやうやしげな恰好をして坐っていたのは、第八、百人隊長のブブリウス・アクヴールスという喘息ぜんそく持であから顔の肥満漢で
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
冬がやって来たとき、死んだ父親を苦しめていたあの喘息ぜんそくが木之助にもおとずれて来た。寒い夜は遅くまで咳がとまらなかった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その後もない十二年の歳のあきに、わたしは三つ時分からの持べう喘息ぜんそくに新しい療法れうほうはつ見されたといふので、母とともにはる/″\上けうしたが
糸車をじい……じい……村も浮世も寒さに喘息ぜんそくを病んだように響かせながら、猟夫に真裸まっぱだかになれ、と歯茎をめておごそかに言った。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見る影も無いビッコの一寸法師で、木乃伊ミイラ同然に痩せ枯れた喘息ぜんそく病みのヨボヨボじじいと云ったら、早い話が、人間の廃物だろう。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
喜太郎は、勝平の耳許みみもとで勢よく叫んだ。が、勝平はたゞ低く、喘息ぜんそく病みか何かのように咽喉のところで、低くうめく丈だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
重兵衛さんの細君さいくん喘息ぜんそくやみでいつも顔色の悪い、小さな弱々しいおばさんであったが、これはいつも傍で酌をしたり蚊を追ったりしながら
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お父さまは一週間前から感冒にかゝられておつてゐられます。それに持病の喘息ぜんそくも加つて昨今の衰弱は眼に立つて見えます。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
る大学の研究室では、陰イオンが、喘息ぜんそくや結核性微熱に対して沈静的に作用するという結果を得て、臨床的にも応用するまでになっていた。
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
上厠頻数じょうしひんすう、さてそのあげく、毛細管支炎喘息ぜんそく腐敗食による大腸加太児かたるという、不思議な余病を併発したのによっても明白だというものである。
「けどそのかたはじきにつくんだ。それにあの女には、喘息ぜんそくという持病もあるし、とても一生暮すてわけに行きゃしない。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
とまで言って、専務はせ返った。ゴホン/\と苦しそうに咳き込む。喘息ぜんそくが持病なのに葉巻を放さない。津島君は吉か凶か未だ分らなかった。
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この女に向い合って、あの水腫のきている淑女の左に、肥えた、喘息ぜんそくの、痛風にかかっている、小さい老人が腰かけている。
爺さんは疝痛せんつう持ちだし、婆さんは喘息ぜんそくで、今夜は冷えるとか、湿気が強いとか風邪けだとか云って、依頼者があってもなかなか動かないのである。
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これが喘息ぜんそくもちで、家のなかを歩くのにさえ骨が折れる始末であって、一日おきに呼吸困難に陥り、開いた窓の前のソファの上で過ごさなければならない。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
女房の喘息ぜんそくなどはどうなっても構わないといった風のその調子が、如何いかにもこの男の特性をよく現わしていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若いくせに喘息ぜんそくこうじて肺気腫の気味になっていたが、ややともすると誰にも口をきかないで一日でも二日でも頑固に押し黙っているようなことがあった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すすだらけの化け物が茶色の紙の帽子をかぶって、ふいごのところでせっせと働いていたが、それもちょっと取っ手にもたれ、喘息ぜんそく病みの器械は長いめ息をつく。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
谷間の早瀬の響に混って、それとは別にゼイゼイという喘息ぜんそくの様な声が聞えて来た。相手の呼吸の音だ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『俺はあの時辱しめを受けたのだ、俺は憤るべきだったのだ。』と懊悩呻吟おうのうしんぎんのあまり、遂に喘息ぜんそくを惹き起して一週間寝込んじまったという豪傑ごうけつでね、一事が万事
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
盆石ぼんせき香会こうかい、いや忙しいぞ」「しゃくやくの根分けもせずばならず」「喘息ぜんそくの手当もせずばならず」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「鈴ちゃん、また堀を覗いている。そんなに魚が見度みたかったら、水族館へでも行けば好いじゃないか。順ちゃんがね、また喘息ぜんそくを起したからお医者へ連れて行ってお呉れ」
晩春 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
マグロアールは、背の低い色の白い脂肪質しぼうしつの肥満した、忙しそうにしている年寄りであって、第一非常に働いているために、第二に喘息ぜんそくのために、いつも息を切らしていた。
しかし朝眼が醒めてみると、私は喘息ぜんそくの発作状態におちいっていた。昨夜の激情が、たたったのだ。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
昨年ひどい喘息ぜんそくをやつたものだから、今年はどうかといふお見舞を方々からいただいたが、しかし、今年は用心して寒いあひだは一歩もうちから出ないやうにしてゐたおかげで
手数将棋 (新字旧仮名) / 関根金次郎(著)
彼はでっぷり肥って来て、おまけに喘息ぜんそくもちになったので、歩くのが億劫でならなかった。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これはマンドウ草といって、やはり葉は花時に採って喘息ぜんそくの薬にする。こちらのは薄荷はっかだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
以前より心臓性喘息ぜんそくを患われ、昨秋頃より漸次悪化して約二カ月ばかり臥床がしょうせられました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
脩はこの頃喘息ぜんそくに悩んでいたので、割下水の家を畳んで、母の世話になりに来たのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夜、寝室に退いてから、疲労のための、しつこい咳が喘息ぜんそくの発作のように激しく起り、又、関節の痛みがずきずきと襲って来るにつけても、いやでも、そう思わない訳に行かない。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それから脳病一般、リュウマチス、それに喘息ぜんそくだ。この喘息という病は、今日の医学界ではまだその病源についていろいろと説があって、したがって治療法も発見されておりません。
喘息ぜんそく病みの玄石が、肉体的に苦しむのはこうした夜だった。はげしい興奮と、懊悩おうのうとに、全精力を使い尽くしてしまった彼が、こうした寒い夜に、持病の発作を起こしたのは当然だった。
二人の盲人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そうして、相変わらず二銭団洲で売っていたが、かれには持病の喘息ぜんそくがあった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぜいぜいいうのは喘息ぜんそくがあり、たんが、切れないから苦しいのだと言った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
喘息ぜんそくやカタルや気管支炎がついてまわった。
喘息ぜんそくとなり
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
うす暗い中庭を抱いたどの部屋も、剥落はくらくした金泥絵きんでいえふすまだの、墨絵の古びたのばかりである。奥の方で、喘息ぜんそくもちらしい咳の声がして
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ごふの深いのは癒らないとされて居ります。例へば御徒町の伊勢屋の利八さん、これは喘息ぜんそくがどうしても治らず、先達樣を怨んで居りました」
少し喘息ぜんそくやみらしい案内者が No time, Sir ! と追い立てるので、フォーラムの柱の列も陳列館ミュゼオの中も落ち着いて見る暇はなかった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私が三つか四つの年に親父が喘息ぜんそくにかかって弱り込むと間もなく、上手に詫を入れて出入りをするようになった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
汽車のふえの音を形容して喘息ぜんそくみのくじらのようだと云った仏蘭西フランスの小説家があるが、なるほどうまい言葉だと思う間もなく、長蛇のごとく蜿蜒のたくって来た列車は
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
喘息ぜんそくき入りながら玄関に出て来て、松次郎がいないのを見ると、おや、今日きょうはお前一人か、じゃまあ上にあがってゆっくりしてゆけと親切にいってくれた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「悪いものばかり豊富になりますよ。私は喘息ぜんそくたんが豊富になってからは殊に縮み方が烈しい。去年の土用干しに軍服を着て見て悲観しましたよ。ダブダブです」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それは毎年夏の末から秋へかけて私を子供時分から苦しみなやませてゐた持病喘息ぜんそく發作ほつさであつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
傍で寝ている酒気を帯びた父のいびきのどにからまって苦しそうだ。父は中年で一たん治まった喘息ぜんそくが、またこの頃きざして来た。昨今さっこんの気候の変調が今夜は特別苦しそうだ。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その次のキイも喘息ぜんそくんでいた。三人はふとおしだまって顔を見合せた。彼等はある非常に不気味な予感にうたれたのだ。山野夫人は真青まっさおになって明智の目を見つめた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
喘息ぜんそく持ちの、きわめて責任ある仕事をいっぱい負わされた人物から、Kの幸福と未来についてのある憂慮が、はっきりと現われてきた瞬間、そういった瞬間のひとつであった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
これより先五百は脩の喘息ぜんそく気遣きづかっていたが、脩が矢島ゆたかと共に『さきがけ新聞』の記者となるに及んで、その保に寄する書に卯飲ぼういんの語あるを見て、大いにその健康を害せんをおそ
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)