初旬はじめ)” の例文
二月きさらぎ初旬はじめふと引きこみし風邪かぜの、ひとたびはおこたりしを、ある夜しゅうとめの胴着を仕上ぐるとて急ぐままにふかししより再びひき返して
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ちょいちょい遊びにやってくる、私も仕事の相間あいま退窟たいくつわすれに、少なからず可愛かあいがってやった、頃は恰度ちょうど、秋の初旬はじめ九月頃だったろう
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
「どちらとは、こちから聞くところだよ。おまえさん、先月の初旬はじめには、もう長崎へ帰る帰ると云っていたのに、今頃まで、まだ深川にいたのかえ」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うたれ夫にて概略およそわかつたり先月せんげつ初旬はじめ了源寺の所化しよげいつはりたる坊主はまさしく其の願山で有うと何樣なにさま其方の別懇べつこんにする曲者ならん此儀はどうぢやと思ひがけなき事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
最早もう夕暮であった、秋の初旬はじめのことで、まだ浴衣ゆかたを着ていたが、海の方から吹いて来る風は、さすがに肌寒い、少し雨催あめもよいの日で、空には一面に灰色の雲がおおひろがって
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
時に、後月あとつきのその舞台は、ちょっと清書にいたし、方々かたがたの御内見に入れますので、世間晴れての勤めは、あらためてきたる霜月の初旬はじめ、さるその日本の舞台に立つはずでござる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
当分仕事が出来ないと云って諸方の注文を断り、親方清兵衛にあとを頼んで、文政三辰年たつどしの十一月の初旬はじめ、兼松を引連れ、湯治のため相州湯河原の温泉へ出立いたしました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
十一月初旬はじめの日は、好く晴れていても、弱く、静かに暖かであったが、私には、それでもまだ光線が稍強過ぎるようで、脊筋に何とも言いようのない好い心地のだるさを覚えて
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
一とせはやくたちて、一三五むかふ年の冬十月かみなづき初旬はじめ、快庵大徳、一三六奥路あうろのかへるさに又ここを過ぎ給ふが、かの一宿ひとよのあるじがいへに立ちよりて、僧が一三七消息せうそこを尋ね給ふ。
彼はいつしかそんな事も忘れていた、が、またそれは十月の初旬はじめの頃であった、もう秋の風が肌に寒い頃だったがふとある晩、彼は矢張やはり一時頃に便所へ行きたくなったので手燭てしょくをつけて行った
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
しかるに今月こんげつ初旬はじめ本國ほんごくからとゞいた郵便ゆうびんによると、つま令兄あになる松島海軍大佐まつしまかいぐんたいさは、かね帝國軍艦高雄ていこくぐんかんたかを艦長かんちやうであつたが、近頃ちかごろ病氣びやうきめに待命中たいめいちゆうよし勿論もちろん危篤きとくといふほど病氣びやうきではあるまいが
「えゝ、九月の初旬はじめです、何しろ倫敦ロンドンにおちになつたんですからね。」
かねさへかすむとふ、四ぐわつ初旬はじめある長閑のどかであつた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
花ももう二三日で見頃と云う四月の初旬はじめであった。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
消えんとしたる彼女かれが玉の緒を一たびつなぎ留め、九月初旬はじめより浪子は幾と看護婦を伴のうて再び逗子の別墅べっしょに病を養えるなりき。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
付込にせ役人と相成三吉小猿を目明めあかしとなし私儀は御役人のていにて夫婦を召捕めしとり金子三十七兩を出させ其場を見遁みのがし申候其後十二月初旬はじめ手下てしたの者を原澤村の名主方迄つかはし樣子やうす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婆さんは喋りませんが、寺の和尚から、藤屋の客は棄児の二助だということが近所へ知れかゝって来ましたから、疵の痛みが癒ったを幸い、十一月の初旬はじめに江戸へ立帰りました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
品川の海は、いいぎだった。——それに、五月の初旬はじめ、季節もいい。遊び半分の太公望が出かけるには絶好である。鎌倉船は、初鰹はつがつおをつんで朝から何艘なんばいも日本橋の河岸かしへはいった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「えゝ、お帰りは九月の初旬はじめ頃だつて事に承はつてゐますよ。」
てだてを尽くして防ぎ止めんとせしかいもなく、目には見えねど浪子の病はひびに募りて、三月の初旬はじめには、疑うべくもあらぬ肺結核の初期に入りぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
もう夜半よなかに近い。あすは晴天であろう、星の空は冴え返っている。時は二月初旬はじめ、ここらの高地は海風がぶつけてくる、山風もふきおろす。すこし立っていると体がわなないてくるほど寒い。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何ですつて、九月の初旬はじめ……」
たすかりことに廿兩といふ金迄かねまでめぐまれ路用として江戸へ來りしわけなるが道中にても先生の御恩になり又親分のあつき御世話にて今日までも無難にくらるも是皆樣の大恩だいおんなりしかるに去年の極月初旬はじめ淺草あさくさの觀音樣より上野の大師樣へ參詣せんと下谷の車坂を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すると、五月の初旬はじめ。月がわるとすぐの日である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
承応元年六月初旬はじめあけがた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三月初旬はじめの朝である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)