鴛鴦おしどり)” の例文
水鳥の雌雄の組みが幾つも遊んでいて、あるものは細い枝などをくわえて低く飛びったりしていた。鴛鴦おしどりが波のあやの目に紋を描いている。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「彼等のこの数年間の同居生活は、鴛鴦おしどりのようだと云っていけなければ、一対の小さな雀のようであったと云えよう。」
春桃 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一処ひとところ、大池があって、朱塗の船の、さざなみに、浮いたみぎわに、盛装した妙齢としごろの派手な女が、つがい鴛鴦おしどりの宿るように目に留った。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこに浮いている二羽の鴛鴦おしどり、そこに我鳴がなっている二羽の鵞鳥がちょう、水禽小屋にいるものといえば、ざっとどころか文字通り、四羽の水禽に過ぎなかった。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さあ……枕も二つ、こう鴛鴦おしどりに並べておきますからね。娘や。まあおまえも、いつまでそんなにねているのさ。夜が明けてしまうじゃないか。可愛い殿御とのご
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かも小鴨こがも山鳩やまばとうさぎさぎ五位鷺ごいさぎ鴛鴦おしどりなぞは五日目ないし六日目を食べ頃としますがそのうちで鳩は腐敗の遅い鳥ですから七、八日目位になっても構いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
おしどりは元来京風の髷で、島田にさばばしを掛けたその捌きが鴛鴦おしどりの尻尾に似てもおり、橋の架かった左右の二つの髷を鴛鴦の睦まじさに見立てたわけなのでしょう。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
そうして、これまで注文した分には、たか雉子きじ鴛鴦おしどり、鶴、うずらなど……もう、それぞれ諸家の手で取り掛かったものもあり、また出来掛かっている物もあるのだという。
鏡は青銅でつくられて、その裏には一双の鴛鴦おしどりが彫ってあった。鑑定家の説によると、これは支那から渡来したもので、おそらく漢の時代の製作であろうということであった。
鴛鴦鏡 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鼻緒爪皮の衣裳を得て始めてその態をなす。二つ揃って離れざる事鴛鴦おしどりの如しといえども陰陽の性別なく片方ばかしにては用をなさぬ事足袋にひとしきも更に右と左を分たず。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今朝も、深い霜朝を、何処からか、鴛鴦おしどり夫婦鳥つまどりが来て浮んで居ります、と童女わらわめが告げた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
鴛鴦おしどり鹿をかけたり、ゆいわた島田にいったり、高島田たかしまだだったり、赤い襟に、着ものには黒繻子くろじゅすをかけ、どんなよい着物でも、町家ちょうかだからまえかけをかけているのが多かった。
これら微妙の光景に旅の苦しみも打ち忘れてぼんやりと見惚みとれて居ると足元の湖辺の砂原に赤あるいは黄、白の水鳥が悠々とあちこちに声を放ってい、湖上には鴛鴦おしどりが浮んで居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
勅使の間——襖の絵は狩野山楽の筆、竹園に鴛鴦おしどり、ソテツの間、上げ舞台、板を上げますと、これが直ちにお能舞台になります、中の間、狩野山楽の草花、柳の間——同じく狩野山楽の筆
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あれが君、評判の鴛鴦おしどり夫婦でさあ。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
鴛鴦おしどりの子の思ひ羽生えん秋の立つ 同
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
鴛鴦おしどりのつがいの楽しみに
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
一処ひとところ大池おおいけがあつて、朱塗しゅぬりの船の、さざなみに、浮いたみぎわに、盛装した妙齢としごろ派手はでな女が、つがい鴛鴦おしどりの宿るやうに目にとまつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
水に映る火影ほかげと、小舟の中に人のかざしている火と、深夜の池心を行く松明たいまつは、一つの光でありながら、ちょうど二羽の火の鴛鴦おしどりが泳いでゆくように遠くからは見える。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「桃割」「割れ葱」「お染髷」「鴛鴦おしどり」「ふくら雀」「横兵庫」「はわせ」など皆若い娘さん達の髷だが、中年のお嫁さんなどは「裂き笄」「いびし」などというのを結った。
京のその頃 (新字新仮名) / 上村松園(著)
髪の性質たち、顔だちが恋しい故人の宮にそっくりな気がして、源氏はうれしかった。少し外に分けられていた心も取り返されるものと思われた。鴛鴦おしどりの鳴いているのを聞いて、源氏は
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
近隣の人々は、あの小城の下の海には、つがいの鴛鴦おしどりがいつも浮いていると云いふらしましたくらい。——二人がよく小舟を浮かべて、小城の下の静かな海で漕ぎ廻ったからでござります。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鴛鴦おしどりや国師のくつ錦革にしきがわ
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
冬の日の、鴛鴦おしどり
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それが、お前さん、火事騒ぎに散らかったんで——驚いたのは、中に交って、鴛鴦おしどりが二羽……つがいかね。……
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
池の鴛鴦おしどりの声などが哀れに聞こえて、しめっぽく人けの少ない宮の中の空気が身にお感じられになり、人生はこんなに早く変わってしまうものかと昔の栄華の跡のやしきがお思われになると
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
婚儀の式場とも成るべき音楽堂からは葬式の柩が出で、つがいの鴛鴦おしどりの浮くべき海の上には、柩をのせた小舟が浮かび、嘆きの歌を唄わんとして集った小供等は、曇った声で弔いの歌を唄います。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
薄日うすび鴛鴦おしどり
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ここらに色鳥の小鳥の空蝉うつせみ鴛鴦おしどり亡骸なきがらと言うのが有ったっけと、酒のいきおい、雪なんざ苦にならねえが、赤い鼻尖はなさきを、頬被ほおかぶりから突出して、へっぴり腰でぐ工合は
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……ひよッ子はどんなだろう。鶏や、雀と違って、ただ聞いても、鴛鴦おしどりだの、白鷺のあかんぼには、博物にほとんど無関心な銑吉も、聞きつつ、早くまず耳を傾けた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この景色に舞台がかわって、雪の下から鴛鴦おしどりの精霊が、鬼火をちらちらと燃しながら、すっと糶上せりあがったようにね、お前さん……唯今の、その二人のおんなが、わっしの目に映りました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さいさゞなみ鴛鴦おしどりうかべ、おきいはほ羽音はおととゝもにはなち、千じん断崖がけとばりは、藍瓶あゐがめふちまつて、くろ蠑螈ゐもりたけ大蛇おろちごときをしづめてくらい。数々かず/\深秘しんぴと、凄麗せいれいと、荘厳さうごんとをおもはれよ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
水晶にべにをさした鴛鴦おしどりの姿にもなぞらえられよう。……
鴛鴦おしどり
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)