采女うねめ)” の例文
明治三十年夏のころ、東京市内京橋采女うねめ町に一怪事起こり、一時新聞上の問題ともなった。こは活版業大村某の居宅の出来事である。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「それに付けても口惜しいのは、悪魔のいよいよはびこることじゃ。お身はまだ知らぬか、玉藻はいよいよ采女うねめに召さるるというぞ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
改って、簡単な饗応きょうおうの挨拶をした。まろうどに、早く酒を献じなさい、と言っている間に、美しい采女うねめが、盃を額より高く捧げて出た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
故新左衛門の養嗣子しし采女うねめは、まだ柴田外記げきに預けられて登米とめ郡にいた。そして明くる年の七月に、そこで病死したのだ、と甲斐は思った。
みちのくに育つたわかい娘の、たぐひない才色を見出されて采女うねめとして都に召され、宮廷に仕へるやうになつた才媛であつた。
その他もろもろ (新字旧仮名) / 片山広子(著)
死を決して奮進した采女うねめは、奪われた味方の馬標うまじるしを敵の手からりかえし、しかも後日、身をもって危地からのがれてかえった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柴の里の庄司しょうじの一人女子むすめで、大内おおうち采女うねめにあずかっていたのが婿を迎えることになり、媒氏なこうどをもって豊雄の家へ云って来た。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このニギハヤビの命がナガスネ彦の妹トミヤ姫と結婚して生んだ子がウマシマヂの命で、これが物部もののべの連・穗積の臣・采女うねめの臣等の祖先です。
彼の属するアウグスチノ会のグチエレス長老が、その前年に捕えられて入牢じゅろうしておったが、まず次兵衛は竹中采女うねめの別当に雇われることに成功した。
しばの里に、芝の庄司という人がいた。娘を一人もっていたが、長年、都の内裏だいり采女うねめとして御奉公にあげてあった。
「わざわざあんな歌をお歌いになるほど赤い鼻の人もここにはいないでしょう。左近さこんの命婦さんか肥後ひご采女うねめがいっしょだったのでしょうか、その時は」
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
天皇之を聞こしめして、悽然せいぜんとして告げて曰く、ひとへに我が子の啓す所有り、誠に以て然りとすと、もろもろ采女うねめ等に勅して繍帷ぬひかたびらはりを造らしめたまふ。(後略)
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
采女うねめは罪を許されたばかりでなく、そのうえに、さまざまのおくだし物をいただいて、大喜びに喜びました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
将監しょうげん橋を渡ると、右が、戸田采女うねめ、左が遠山美濃守の邸で、その右に、藩邸が、黒々と静まり返っていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「御墨付を手に入れるには、大場石見様が隠居を遊ばして、御家督ごかとくを先代様の御嫡男ごちゃくなん、今は別居していらっしゃる、大場采女うねめ様にお譲りになる外はございません」
春さきの山兎は采女うねめをねらふほどに難かしいな。……あんまり業腹だから、帰りに放ち飼の黒いのこを一匹しとめようかと思つたが、まづまづと腹の虫をおさへて来た。
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
天平十六年の大安寺資財帳に、伊勢国三重郡采女うねめ郷十四町の内訳、開田二町五段未開田代十二町、同員弁いなべ宿野原しゅくのはら五百町、開田三十町未開田代四百七十町などとある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
文辞のたくみだけで、事なく夫を返してもらう滝川采女うねめの妻のような女性が出来あがるのである。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
のごときにあっては、采女うねめ安見子を得た喜びが、叫ばるるごとき強さをもってあふれ出ている。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
久し振りに狸穴町まみあなちょうの方を拾ってみようと思い立った葬式彦兵衛が、愛玩の屑籠を背にして金杉三丁目を戸田采女うねめの中屋敷の横へかかったのは、八丁堀を日の出に発った故か
瓶沙王びょうしゃおう登極とうきょくの初め、諸采女うねめとこの園に入り楽しまんとせしに、一同自らさとりて婬欲なく戯楽をたのしまず、その時王もし仏が我国に出たら我れこの勝地を仏に献ずべしと発願ほつがん
元来木挽町は、以前の土地ではあるし、木挽町へ劇場を建てようという運動は、それよりも一足さきに、これもおなじ土地にあった河原崎座かわらざきざ采女うねめはらへ新築許可を願い出ていた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「わからば、采女うねめ! そちが采配さいはい振って、火急に七、八頭ほど、早馬の用意せい!」
かつ采女うねめをつとめたことのある女が侍していて、左手にさかずきを捧げ右手に水を盛った瓶子へいしを持ち、王のひざをたたいて此歌を吟誦したので、王の怒が解けて、楽飲すること終日であった
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
だから妹背山のお三輪は采女うねめの背に赤い糸を縫いとめて、それを辿って鹿の子の髪かけをふり乱しました。何となしほほ笑みます。えにしの糸が一筋なら、それはどんなに単純でしょう。
娘の時分に父と泊っていた采女うねめ町の旅館と云うのも、つい川向うの、此処ここから今も屋根が見えているあの歌舞伎座の前を這入った横丁にあったので、このあたりは全然知らない土地ではなく
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とりの下刻に西丸目附徒士頭かちがしら十五番組水野采女うねめの指図で、西丸徒士目附永井亀次郎、久保田英次郎、西丸小人目附平岡唯八郎ただはちろう、井上又八、使之者志母谷つかいのものしもや金左衛門、伊丹いたみ長次郎、黒鍬之者くろくわのもの四人が出張した。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
采女うねめはこの柳に着物を掛けて身を投げました。面当つらあてですわね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小町こまち采女うねめと焦がれたが
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
采女うねめといへば、後宮の官女、諸国の郡司の女などの才色すぐれたる者を貢せしめたと書いてある。だから彼女は紳士の令嬢であつたのだらう。
その他もろもろ (新字旧仮名) / 片山広子(著)
古内源太郎(重定)伊東采女うねめ(重門)は着座の家柄であって、席次は第三であるのに、第七の目付の次、すなわちいちばん末席にまわされた。
今が妙齢の采女うねめのように明るくてやわらかい春日山の曲線がながれていて、足もとは夕方に近づいていたが、彼方の山の肩にはまだ陽が明るかった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま中宮寺思惟しゆい像の傍に断片のまま残っている天寿国曼荼羅は、太子の御冥福めいふくを祈って、妃のひとりである多至波奈大郎女たちばなのおおいらつめが侍臣や采女うねめとともに刺繍ししゅうされた繍帳銘である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
采女うねめはこう言って、むかしからの言い伝えを引いておもしろく歌いあげました。天皇はこの歌にめんじて、采女うねめの罪を許しておやりになりました。すると皇后もたいそうお喜びになって
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
長崎奉行竹中采女うねめの馬廻り役に入込んで、自由に役所牢屋に出入することができ、大村に入牢じゅうろうしてゐたアゴスチノ会のグチエレス神父と連絡して、給金をさいて給養し、通信を運んだ。
妹は采女うねめとなって京に上ったというの類、今はことごとく物の哀れを聞くの人の想像に譲って、実際そのようなできごとがあってもなくても、構わぬという境まで進んでは来たけれども
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
親分も知ってなさるだろうが采女うねめの馬場の中屋敷ね、あすこの西尾様お長屋の普請場へつら出しすべえとこちとら早出だ、すたすた来かかってふいと見るてえとこの獄門じゃあねえか、いや
「就きましては、かの采女うねめに召されますること、いかがでござりましょうか」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もつとも身分のひくい一人である宅子やがこといふ伊賀の采女うねめの腹で、そんな関係から幼いころは伊賀ノ王などと呼ばれてゐた人物であるが、妙に男の子に運のうすい中ノ大兄の王子たちのなかでは
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
また天皇が長谷の槻の大樹の下においでになつて御酒宴を遊ばされました時に、伊勢の國の三重から出た采女うねめ酒盃さかずきを捧げて獻りました。然るにその槻の大樹の葉が落ちて酒盃に浮びました。
飯田町の御旗本、波岡采女うねめの門の外で平次は妙なことを言い出すのです。
応急の処置もまた、小娘に似合わずあっぱれであったのでな、わしもことのほかかわいく思い、采女うねめに言いつけ、このとおりじゅうぶんに見張りをさせて、密々そちのところへ急使を立てたのじゃ。
采女うねめ女蔵人にょくろうどなども容色のある者が宮廷に歓迎される時代であった。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
内大臣藤原卿(鎌足)が采女うねめ安見児をめとった時に作った歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
三〇二しばの里に芝の庄司なるものあり。女子むすめ一人もてりしを、三〇三大内おほうち三〇四采女うねめにまゐらせてありしが、此の度いとま申し給はり、此の豊雄をむこがねにとて、媒氏なかだちをもて大宅おほやもとへいひるる。
さわはもう四歳になるいしと、二歳になる采女うねめという、二人の子を産んだし、まもなく三番めの子が生れようとしている。
今朝も、的場まとばに出て、采女うねめという小姓こしょうを相手に、ヒュッ、ヒュッとしきりに矢うなりを切っていると
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時アウグスチノ会の代理管区長グチエレスは大村に入牢じゆろう中であつたから、次兵衛は長崎奉行竹中采女うねめの別当の中間ちゆうげんに住込んで牢舎に通ひ、グチエレスの指図を受けて伝道に奔走したが
わが血を追ふ人々 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「むむ、やっぱりあやつじゃ。采女うねめじゃな。くどいようじゃが御坊、姫はその若侍と連れ立って見えたのではござらぬか。姫は一人、侍は一人、別々にここをたずねて参ったのでござるか。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今、天皇は、そのつばきの葉と同じように、大きなおひろい、そして、その花と同じように美しくおやさしいお心で、采女うねめをお許しくだすった。さあ、このとうとい天皇にお酒をおつぎ申しあげよ。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)