ちかい)” の例文
丁度ちょうどこえたかめて命令めいれいなどはけっしていたさぬと、たれにかちかいでもてたかのように、くれとか、っていとかとはどうしてもえぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
離るるとも、ちかいさえかわらずば、千里を繋ぐつなもあろう。ランスロットとわれは何を誓える? エレーンの眼には涙があふれる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
劉備は強いていなまなかった。そこで三名は、鼎座ていざして、将来の理想をのべ、刎頸ふんけいちかいいをかため、やがて壇をさがって桃下の卓を囲んだ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第二は、それと関連しているが、約束プロミスは絶対に守ること。このプロミスという言葉には、ちかいの意味が、たぶんに含まれている。
ピーター・パン (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
呪詛のろいの杉より流れししずくよ、いざなんじちかいを忘れず、のあたり、しるしを見せよ、らば、」と言つて、取直とりなおして、お辻の髪の根に口を望ませ
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
花「わし神明様しんめいさんや明神さんちかいを立てゝるから、私が殺されても構わねえが、坊様に怪我アさせたくねえ心持だから、お前度胸をえなければいかんぜ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
文一郎はすこぶ姿貌しぼうがあって、心みずからこれをたのんでいた。当時吉原よしわら狎妓こうぎの許に足繁あししげく通って、遂に夫婦のちかいをした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
神仏にちかいを立ててあと一年は人様にくことのできない身分であることを申し上げて置きました。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
○泥棒が阿弥陀様あみださまを念ずれば阿弥陀様は摂取不捨せっしゅふしゃちかいによつて往生させて下さる事うたがいなしといふ。これ真宗しんしゅうの論なり。この間に善悪を論ぜざる処宗教上の大度量を見る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この小邾の大夫は「子路さえその保証に立ってくれれば魯国のちかいなどらぬ」というのである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
神や仏にがんをかけたり、新聞に広告までしてちかいを立てても悪い癖が止められないのは取りも直さず、自分の頭が、自分の自由にならない事を実地に証明しているのではないか。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
廿六の彼は、初めて彼女の志を入れ、終世を共にするちかいを結んだのだが、成恋の二人の間には、いたましい失恋の人があって、その人の誠心まごころが綾之助の幸福のために仲人となってくれたのだった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこでその頃の人だから、神仏に祈願を籠めたのであるが、観音かんのんか何かに祈るというなら普門品ふもんぼんちかいによって好い子を授けられそうなところを、勝元は妙なところへ願を掛けた。何に掛けたか。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
市郎は心にもないちかいを立てた。これでようやが済んだのであろう、お葉は勝利のえみもらして、掴んだ手を初めてゆるめようとする時、お杉ばばあと寄って来て、例の凄愴ものすごい顔をぬッと突き出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
伝説によると、るとき皇后は、自ら千人のあかを流してやろうというちかいを立てられた。そこで、日々ここに集まる汚れた肉体に、自ら御手をさしのべられて、九百九十九人までの垢を流してやった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
又時事新報の事も同様、最初から是非とも永続させねばならぬとちかいを立てたけでもなし、あるいは倒れることもあろう、その時に後悔せぬようにと覚悟をして居るから、是れもまでの心配にならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
よろずの仏のがんよりも 千手せんじゅちかいぞ頼もしき。
あなた、おちかいなすって下さいましな。
ともすれば、ちかいを忘れて、狭き池の水をして北陸七道にみなぎらそうとする。我が自由のためには、世の人畜の生命など、ものの数ともするものでない。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風励鼓行ふうれいここうして、やむなく城下じょうかちかいをなさしむるは策のもっともぼんなるものである。みつを含んで針を吹き、酒をいて毒を盛るは策のいまだ至らざるものである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことに今年の元旦はいつもよりにぎやかにも豊かな酒肴しゅこうが、筒井のためにも心配られた。それは筒井が約した三年めの春が訪ずれ、筒井は神仏のちかいをとく日だったからだった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
早く彼がねがいを満たいて、ちかいの美女を取れ、と御意ある。よって、黒潮、赤潮の御手兵をちとばかり動かしましたわ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うん注意はさせるよ。しかし万一の事がありましたらきっと御目に懸りに上りますなんてちかいは立てないのだからその方は大丈夫だろう」と洒落しゃれて見たが心のうちは何となく不愉快であった。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちかいたがえぬ! 貴下がって、ほか犠牲にえの——巣にかかるまで、このままここで動きはしない、)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卑怯ひきょうだ、此奴こいつ! はじめからそれは求めぬちかいであった。またそれを求むる位なら、なぜ、行方も知れずとらうる影なきその人を、かくまで慕う。忘れられぬはそのこころであろう。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)