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衣嚢
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かくし
ふりがな文庫
“
衣嚢
(
かくし
)” の例文
「時に、私はあなたに宛てた添書を貰って来たのですが。」そう言ってチチコフは、
衣嚢
(
かくし
)
からプリューシキンの手紙を取り出した。
死せる魂:02 または チチコフの遍歴 第一部 第二分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
老人の
後
(
うしろ
)
に立つてゐて、お付合のやうに笑ひながら
窓側
(
まどぎは
)
の柱に懸つてゐる時計を眺め、更に大形の懐中時計を
衣嚢
(
かくし
)
から出して見た。
道
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
さア隠すなら
何所
(
どこ
)
へ隠す、着物の
衣嚢
(
かくし
)
とか其他先ず自分の身の
中
(
うち
)
には違い無いが其
鋭利
(
するど
)
いものを身の中へ隠すのは極めて
険呑
(
けんのん
)
だ
血の文字
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
その
衣嚢
(
かくし
)
に手を突き込んだり、茶色の紙包みを
引奪
(
ひったく
)
ったり、襟飾りに獅噛み着いたり、頸の周りに抱き着いたり、背中をぽんぽん叩いたり
クリスマス・カロル
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
廊下に出ると動物学の方の野村教授が、外套の
衣嚢
(
かくし
)
の辺で癖のように両手を拭きながら自分の研究室から出てくるのに
遇
(
あ
)
った。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
▼ もっと見る
やがてその用箪笥へ手がとどくと、頂上から正面を撫でおろして、錠のところに左手の指を一本あてておいて、右手で
衣嚢
(
かくし
)
の鍵束をさぐった。
空家
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
やがてモゾモゾと上衣の
衣嚢
(
かくし
)
をさぐって、鼻紙といっしょにつぶれかかった板チョコレートを取り出して花のほうへ差出し
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
此処
(
ここ
)
の定めは注文した酒の
杯
(
さかづき
)
と引換に銭を払ふので、
洋袴
(
パンタロン
)
の
衣嚢
(
かくし
)
から取出す銅銭の音が断えず狭い室の
話声
(
はなしごゑ
)
に混つて響くのも
外
(
ほか
)
と
異
(
ちが
)
つて居る。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
さうしてときどき兩手を
衣嚢
(
かくし
)
に突込んでは、高い噴水を見上げながら、「よく疲れないもんだなあ……」とでも言ひたさうな顏つきをしてゐる。
顔
(旧字旧仮名)
/
堀辰雄
(著)
一旦席についた博士は
衣嚢
(
かくし
)
から金時計を出してみたあとで一座の顔をみわたしたが、「どうぞ御意見を……」と言った。
国際殺人団の崩壊
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
子供らが
叫
(
さけ
)
んでばらばら走って来て童子に
詫
(
わ
)
びたり
慰
(
なぐさ
)
めたりいたしました。
或
(
あ
)
る子は
前掛
(
まえか
)
けの
衣嚢
(
かくし
)
から
干
(
ほ
)
した
無花果
(
いちじく
)
を出して
遣
(
や
)
ろうといたしました。
雁の童子
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
乃公は
最早
(
もう
)
可
(
よ
)
かろうと思って、
衣嚢
(
かくし
)
の中から
先刻
(
さっき
)
捕えて置いた小鼠を出してテーブルの上に置いた。乃公が手を放すか放さぬ中に鼠は
奥様
(
おくさん
)
に飛付いた。
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
彼が彼の
小刀
(
ナイフ
)
を筆入に入れないで、いつも
衣嚢
(
かくし
)
に入れていたのも、実はそのためだったのである。
次郎物語:02 第二部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
濡れたハンカチを絞り固めて外套の
衣嚢
(
かくし
)
に入れたばかりでなく、女の紫のハンカチと一緒に、金受取りの割符にした名刺の半分までも取り上げて仕舞い込んでしまった。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
与里は毎日の詰襟服を身に着けて、さらに又ドス黒い厚
羅紗
(
らしゃ
)
の、膝から下へだらしなく垂れ落ちた冬の外套を纏うてゐた。それは破れて、肱や
衣嚢
(
かくし
)
は
綴布
(
つぎ
)
だらけであつた。
竹藪の家
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
気の弱そうな潮田春樹は、両手をズボンの
衣嚢
(
かくし
)
に突込んだまま、ぞっと身を
慄
(
ふる
)
わせるのです。
笑う悪魔
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そして、
衣嚢
(
かくし
)
から
格子紙
(
セクション
)
の手帳を取り出して、階段の階数をかぞえ、それに何やら
電光形
(
ジグザグ
)
めいた線を書き入れたらしい。さすがこれには、検事も引き返さずにはいられなかった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
そしてその瞬間、はたはた はたはたと、私の左右の
衣嚢
(
かくし
)
から、幾度ともなく蝙蝠が翻り、夜空の中へ飛び去つていつた。それは何といふ種もない憂鬱な手品であつただらう——。
測量船拾遺
(新字旧仮名)
/
三好達治
(著)
初めはそれがどういう意味かわかりませんでした、——が間もなく恐ろしい考えが頭に
閃
(
ひらめ
)
きました。私はズボンの時計
衣嚢
(
かくし
)
から、時計をひっぱり出しました。それは止っています。
メールストロムの旋渦
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
帽子を
眉深
(
まぶか
)
に、両手を
衣嚢
(
かくし
)
に
突込
(
つきこ
)
みて歩み行く男は、皆賭博に失敗して自殺を空想しつゝ行くものゝ如く見え、闇より出でゝ、闇の
中
(
うち
)
に
馳過
(
はせすぐ
)
る馬車あれば、其の
中
(
うち
)
には必ず不義の恋
夜あるき
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
そしてハンカチを巻きつけた手で金魚鉢の縁を掴み、一方の手で底を支えながら邪魔にならない所で置き換えた。それから水のついた指先を拭うと、その濡れたハンカチを
衣嚢
(
かくし
)
に収めた。
赤い手
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
障子の彼方側の板の間で、石油鑵に足をぶつけながら、ひどく恐縮してステパンが上衣の内
衣嚢
(
かくし
)
から一通の手紙を大事そうにとり出した。彼は、ジェルテルスキーの耳に口をつけて
囁
(
ささや
)
いた。
街
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
商売道具の小物を容れた、ズックの
嚢
(
ふくろ
)
を肩に掛けて、紐は、左の手頸に絡んで其手先は綿交り毛糸編の、鼠色セーターの
衣嚢
(
かくし
)
へ、深く突込んで、出来る丈、背中を丸くして、此寒風の中を帰って来た。
越後獅子
(新字新仮名)
/
羽志主水
(著)
新聞紙折り、さはやかに
衣嚢
(
かくし
)
に入れて歩みゆく
東京景物詩及其他
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
衣嚢
(
かくし
)
にゃごほうびの麦がある。
まざあ・ぐうす
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
「
衣嚢
(
かくし
)
にあるけど……」
城のある町にて
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
梟
(
ふくろ
)
は
衣嚢
(
かくし
)
に
匙
(
さじ
)
入
(
い
)
れた
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
そこで
衣嚢
(
かくし
)
をまさぐつて煙管を取り出しながら、あたりを一とわたり見まはしたが、どいつ一匹こちらに注意をしてゐる奴もない。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:06 紛失した国書
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
そして道を開いて、
衣嚢
(
かくし
)
から「日本郵船会社
絵島丸
(
えじままる
)
事務長勲六等
倉地三吉
(
くらちさんきち
)
」と書いた大きな名刺を出して葉子に渡しながら
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
が、夫は何か或考えを払いのけでもするように頭を振りながら、何も云わずに、それまで手にしていた時計を
徐
(
しず
)
かに
衣嚢
(
かくし
)
にしまっただけだった。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
乞食はこの盲の述懐を聴きながら、自分の
衣嚢
(
かくし
)
の中で銅貨をいじくっていた。手探りで数えるとそれが四十八銭あった。
幻想
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
『目賀田さんは御苦労ですなあ。』両手を
衣嚢
(
かくし
)
に入れてがつしりした肩を怒らせながら、雀部は同情のある口を利いた。
道
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
といいながら、チョッキの
衣嚢
(
かくし
)
から、朱色の
模擬貨幣
(
ジュットン
)
を取り出して、大きな白鳥を
薄浮彫
(
すかしぼり
)
した机の上に置いた。
ノンシャラン道中記:04 南風吹かば ――モンテ・カルロの巻――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
強
(
し
)
ひて老人の
衣嚢
(
かくし
)
へ押込んで置いて早足に墓を出た。門を出る時一度振返つて見たら、よろよろして墓の奥へ
入
(
はひ
)
つて行く
後姿
(
うしろすがた
)
が石碑の間へ影の如く消えた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
頓
(
やが
)
て彼れ
衣嚢
(
かくし
)
を探り
最
(
いと
)
太
(
ふと
)
やかなる
嗅煙草
(
かぎたばこ
)
の箱を
取出
(
とりいだ
)
し幾度か鼻に当て我を忘れて其香気を
愛
(
めず
)
る如くに見せ
掛
(
かく
)
る、
去
(
さ
)
れど余は
兼
(
かね
)
てより彼れに此癖あるを知れり
血の文字
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
乃公は胸の
釦穴
(
ボタンあな
)
に花を揷して、新しいハンケチを
衣嚢
(
かくし
)
に突込み、右の手に白い手袋を持って、漆のように光った靴を踏み鳴らしながら、別間に入って行った。
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
夜
(
よる
)
更けて、夜毎に僕は酒場へ通つた。僕の飲む酒はいつもコニャック。様様な苦心をして、チャラチャラと
衣嚢
(
かくし
)
に
弄
(
いろ
)
ふ数個の銀貨を、例外なしにみんなコニャックに代へてしまふ。
海の霧
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
そう言って大急ぎで手紙を
衣嚢
(
かくし
)
に入れ、
手巾
(
ハンケチ
)
を取出して、額の汗を拭くのでした。
笑う悪魔
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
「なるほど、坊主なら、人殺しに関係あるだろう」と熊城は露骨に無関心を装ったが、急に神経的な手附になって、
衣嚢
(
かくし
)
から何やら取り出そうとした。法水は振り向きもせず、背後に声を投げて
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
彼は返事をする代りに、思わず手を
衣嚢
(
かくし
)
に突っこんで、
小刀
(
ナイフ
)
を握った。
次郎物語:02 第二部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
自分の
衣嚢
(
かくし
)
に投げこんだ。
楢ノ木大学士の野宿
(新字旧仮名)
/
宮沢賢治
(著)
それから
衣嚢
(
かくし
)
の中から、そもそも
衣嚢
(
かくし
)
といふものが作られてをる由緒いはれの本尊仏を取り出すことを忘れなさるなよ……。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:06 紛失した国書
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
といいながら
衣嚢
(
かくし
)
から二通の手紙を取り出した。手早く受け取って見ると、一つは古藤が木村にあてたもの、一つは葉子にあてたものだった。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
私は
衣嚢
(
かくし
)
へ手をやると、恰度自分の
室
(
へや
)
の鍵が入っていたので、それを取りだしてそっと鍵穴にあててみました。と、鍵は音もなく入って行きました。
無駄骨
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
『解つた、解つた。そして酔つて了つて、誰かに持つて行かれたかな?』と雀部は煙草入を
衣嚢
(
かくし
)
に蔵ひながら笑つた。
道
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
「いや、それもそうだ。でもネ、三百五十万法なんていう
模擬貨幣
(
ジュットン
)
は、一体どこへしまったらいいのかね。もちろん、
衣嚢
(
かくし
)
なんかにははいり切れはしまい」
ノンシャラン道中記:04 南風吹かば ――モンテ・カルロの巻――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
コロップを
衣嚢
(
かくし
)
に入れて再び二十三番館に帰り、今度は案内を請わずして四階の上に飛上る、成るほど生田の室は「
飾職
(
かざりしょく
)
生田」と
記
(
しる
)
したる表札にて明かなれば
血の文字
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
フォォル氏は僕に名刺を
呉
(
く
)
れると云つて夫人と一緒に探して居たが、やつと一枚服の
衣嚢
(
かくし
)
の
何処
(
どこ
)
からか
見附
(
みつけ
)
出して
皺
(
しわ
)
を直し
乍
(
なが
)
ら
呉
(
く
)
れたのは黄色く成つた
古
(
ふる
)
名刺であつた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
すると逃げたのは夢かしらと思って、
衣嚢
(
かくし
)
を探って見たら、昨夜取った手紙が手に
触
(
さわ
)
った。
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
野々宮はいちど汽車から降りたとき、改札へ渡すつもりで切符を
衣嚢
(
かくし
)
からとりだしてゐた。再び汽車へ戻つてきて、もとの座席へ坐つても、切符を片手に握りしめてゐたのである。
吹雪物語:――夢と知性――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
“衣嚢”の意味
《名詞》
衣類などを入れて背負ったりする袋。
かくし。物入れ。
(出典:Wiktionary)
衣
常用漢字
小4
部首:⾐
6画
嚢
漢検準1級
部首:⼝
18画
“衣”で始まる語句
衣
衣服
衣裳
衣紋
衣桁
衣物
衣類
衣兜
衣摺
衣装