あふひ)” の例文
雑木山のすそや、柿の樹の傍やうまやの横手や、藪の下や、桐畑きりばたけや片隅にぽつかり大きな百合ゆりあふひを咲かせた農家の庭の前などを通つて。
翌日よくじつ別當べつたう好意かういで、玄竹げんちく藥箱くすりばこあふひもんいた兩掛りやうがけにをさめ、『多田院御用ただのゐんごよう』のふだを、兩掛りやうがけけのまへはうふたててもらつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
一同出立には及びたり其行列ぎやうれつには第一番の油箪ゆたんかけし長持十三さを何れも宰領さいりやう二人づつ附添つきそひその跡より萠黄もえぎ純子どんすの油箪白くあふひの御もんを染出せしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「二階の紫琴女の部屋は、道具が皆んな、三つ葉あふひの紋が附いてますよ。それ丈けでも縛れると思ふんですが」
裝潢さうくわうにはあふひの紋のあるにしきが用ゐてある。享保三年に八十三歳で、目黒村の草菴さうあんに於て祐天のじやくしたのは、島の歿した享保十一年に先つこと僅に八年である。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
あふひの花が薄赤く咲いてゐる。「あの家だ。」と鹿田が指をさして教へた。「東京から女學生が來た家は。」
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
紋所といふもの、もとは車の紋から起きたといふ説があるが、真実ほんとうの事かうか知らない。徳川家があふひを紋所に用ゐるやうになつたのにも、色々な伝説がある。
西洋あふひのぱつとした赤い花の壺を飾つて置いたので、テイブルの上の色取りだけは綺麗であつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
田舎ゐなかめいた赤地に白の格子縞のある窓掛をして、硝子がらす戸のそとあふひの花が鉢づつ程並べられた窓が二つあるが、人があれで立つて居ることが出来やうかと思はれる程の低い二階である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
この見事な刀掛かたなかけには、あふひ御紋散ごもんぢらしの大小でもうやうやしく掛けて置くがい。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ひきつれてあふひかざせしそのかみを思へばつらし加茂のみづがき
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
或る温室では釣鐘草つりがねさうあふひ棕櫚しゆろかぶりを振つてゐるだらう
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
君とわれあふひに似たる水草の花のうへなる橋に涼みぬ
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
雪の配景のその前に、たちあふひかと……
一茎いつけいあふひの花の前に立て。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
やはらげ相摸殿よくうけたまはられよ徳川は本性ほんせいゆゑ名乘申すまたあふひも予が定紋ぢやうもんなる故用ゆるまでなり何の不審ふしんか有べきとのことば
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ひがしもんからはひつて、露店ろてん參詣人さんけいにんとの雜沓ざつたふするなかを、あふひもんまく威勢ゐせいせた八足門はつそくもんまへまでくと、むかうから群衆ぐんしうけて、たか武士ぶしがやつてた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
雜司ヶ谷鬼子母神きしもじんのあたりで御鷹を放たれた時、何處からともなく飛んで來た一本の征矢そやが、危ふく家光公の肩先をかすめ、三つ葉あふひの定紋を打つた陣笠の裏金に滑つて
心もて日かげに向かふあふひだに朝置く露をおのれやは
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あふひかづらのかむりして、近衛使このゑづかひかみまつり
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
あふひをかざす京人きやうびと
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と成され印をすゑし一書を下しおかれ短刀は淺黄綾あさぎあやあふひ御紋ごもん染拔そめぬき服紗ふくさつゝみて下されたり。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
‥‥さうしてあふひもんいた兩掛りやうがけに目禮もくれいして、片脇かたわきつてゐなければならなかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
くやしくもつみをかしけるあふひ草神の許せる挿頭かざしならぬに
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
三つ葉あふひの紋がチラ付きます。
いかに紀念かたみあふひぐさ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
あふひの上9・4(夕)