落胆がっかり)” の例文
旧字:落膽
お銀は畳の上へ転がりだして、もがきつかれてせわしい息遣いをしながら眠っている子供の顔を眺めて、落胆がっかりしたように言い出した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旗太郎にも、同様落胆がっかりしたらしい素振が現われたけれども、さすがに年少の彼は、すぐに両手を大きく拡げて喜悦の色を燃やせた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と、さも落胆がっかりしたように、杖にしている野槍をもって、しきりと腹の虫をもだえさせる甘酒の釜の前に、どっかり腰をおろしました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は狂人きちがいに共鳴したのかと思ったら落胆がっかりしてしまって、昨日一日心持が悪かった上に、今日はもう朝起をする気になれなかった。
朝起の人達 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
このまま東京へ帰ったら、いつまた来れるか見当も付かないのです。やっぱりみんな東京へいってしまったのか知ら? と落胆がっかりしました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
きん「へえお十五まで、それはさぞまア落胆がっかり遊ばしたでございましょう、お力落しでございましょう御丹誠甲斐もない事でねえ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの、それですけれど……安心をしましたせいですか、落胆がっかりして、力が抜けて。何ですか、余り身体からだにたわいがなくって、心細くなりました。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
津村は落胆がっかりした。やはり真弓は頭がどうかしているんだ。村井はどうだと云わんばかりに、冷然と津村の顔を眺めながら
「ひどく落胆がっかりするじゃないか、——だがな八、聟にもよりけりだが命を狙われる聟なんてものは、あまり有難くないぜ」
わたくしはもう落胆がっかりしてしまいましたよ、きみ。』と、かれ顫声ふるえごえして、冷汗ひやあせきながら。『まった落胆がっかりしてしまいました。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いて自分にさえ隠そうとする事を言いあてられると、言いあてられるほど、明白な事実であったかと落胆がっかりする。言いあてられた高柳君は暗い穴の中へ落ちた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし私は落胆がっかりした。——とうとう本物の鼓打ちになるのか。一生涯下手糞へたくその御機嫌を取って暮さなければならないのか。——と思うとソレだけでもウンザリした。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大隅は落胆がっかりした。折角せっかく聞けると思ったことが、今や余命いくばくもないこの重傷者の唇から聞けないと分ると、彼は掌中のたまを奪われたように、残念に感じたのだった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今日こんにちでは、もっと治療の方法もあったことかと思いますが、尽くせるだけは手を尽くしたけれども、とうとうられてしまったのは、いかにも残念で、私は一時落胆がっかりして
楽しみにしてお出でなさるとこだから、今度こんだ御免にお成りだとお聞きなすったらさぞマア落胆がっかりなさる事だろうが、年をッて御苦労なさるのを見ると真個ほんとにおいたわしいようだ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
今ごろ顔を見せたら、あの女がどんなに落胆がっかりして、どんなに泣くことであろう! 事によったら、自分を軽蔑するあまり、物をも言わずに突き出してしまうかもしれない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
より改進的な日本人達は、この悲劇によって、まったく落胆がっかりして了った。何故かといえば、このような椿事が起るのを常とした、封建時代に帰ったように思われるからである。
一つはお杉、一つは鬼小僧……どこへ行ったともわからなかった。江戸の人達は落胆がっかりした。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お蔦 可哀そうだって、あたしあ又、一文なしと聞いて、落胆がっかりしたというかと思った。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
彼は今や読書していなかった、落胆がっかりしたように往ったり来たりしていた。スクルージは幽霊の方を見遣った。そして、悲しげに頭を振りながら、心配そうに戸口の方をじろりと見遣った。
という細君の言葉は差当って理の当然なので、主人は落胆がっかりしたという調子で
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お嬢さまは落胆がっかりなすって、半年の余も病気におなんなすったんだ、——誰が知らなくとも、おまえさんを慕っていなさるお嬢さまの気持は、この佐兵衛がようく知っているんだ、……そんな
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お君が入って来た軽業の一座は、あれから散々ちりぢりになってしまって、またも旅廻りをしているか、江戸へ帰ったか、それさえ消息たよりがないということで、お君は落胆がっかりしました。兵馬も困りました。
「男が死んだときお園はどうしていました。ひどく落胆がっかりしていましたか」
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
後から見ると頭髪あたまばかりが若いので、貞之進はいよ/\落胆がっかりして、すぐに出るも変なものとちょっと坐りは坐ったが、高座で何事を云うか耳には這入はいらない、ひとの笑ったのに誘われて顔を挙げると
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
お石は、腹のしんが皆抜けてしまったように、落胆がっかりした。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
二人ながら落胆がっかりして、とある木蔭に腰をおろして
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
さも落胆がっかりしたように言うのであった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
落胆がっかりしてしまふのであつた。
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
雨滴あまだれの音が聞える。昨夜はあんなに晴れていたにと思って耳を澄したが、確に降っている。僕は落胆がっかりしてしまった。そうして
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
頭領かしら、そう落胆がっかりするにもあたりませんぜ。こんな時にゃいつでも用の弁じる金箱かねばこを頭領は持っているはずじゃありませんか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弟は助からないって事になる……その時は落胆がっかりして、こけの生えた石燈籠いしどうろうにつかまって、しばらく泣きましたって、姉さんがね、……それでも
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その一行の目的もあらゆるものが一切私の想像に単なるヒントを与えるだけの役にしか立たず、なんとも言えぬ落胆がっかりさを覚えてくるのであった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
山「うん、船は着いたがういゝと思うと落胆がっかりして死ぬものだから、何処の島へ着いても気をしっかり持っていねえよ」
急に落胆がっかりして毎日の病院通いも張合いが脱け、せなかや腕にぴったり板を結び着けられた自由の利かぬ体を、二階の空間に蒲団をかぶって寝てばかりいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
以前さっきの樫の森から東側へかけて、夕方まで探していたが、最早もはや日が暮れかかってもそれらしい影は愚か、小雀ことり一羽眼に這入らぬから、皆落胆がっかりして疲れ切ってしまって
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
私はねてから木村清と云う私立探偵の事を聞いていたから、彼の所へ行った。所が生憎あいにく彼は不在だった。私は落胆がっかりして外へ出ると、運の好い事にはバッタリ彼の帰って来るのに出会った。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「まだ来ない!」と、ボブは今まで元気であったのが急に落胆がっかりして云った。実際、彼は教会から帰る途すがら、ずっとティムの種馬になって、ぴょんぴょん跳ねながら帰って来たのであった。
半紙に認ためられたものはことごとく鉛筆の走り書なので、光線の暗い所では字画さえ判然はんぜんしないのが多かった。乱暴で読めないのも時々出て来た。疲れた眼を上げて、積み重ねた束を見る健三は落胆がっかりした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そいつでおいらも落胆がっかりしたやつさ。あたりめえの人間じゃねえか。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
兵馬は落胆がっかりするほどに呆れが止まりませんでした。
「大層嫌いやがったな、お勘っ子が落胆がっかりするぜ」
聞き終った文彦は落胆がっかりしたように
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
検事は落胆がっかりした態で呟いたが
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「これが自分の編輯した新聞かと思うと、もう落胆がっかりしてしまって、一日碌々口がきけません。実は今日は少しいけないんです」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
討ちそこねてから、ひどう落胆がっかりしてのう、あの晩、沢庵坊めにおさえられたこの腕の根が、いまだに痛んでならぬのじゃ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして小浜は、はるか左手のかすんだ、海岸線の北の方! この疲れとえの足で、まだ六里では私は落胆がっかりしました。もう足が意地にも、進まないのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
顔を見れば違っているから、実は落胆がっかりしましたが、娘を持つ親の心持は同じ事で、さぞお前さんの親御も案じておでだろうから、何事も打明けて仰しゃいまし
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二人は取附く島も無く、落胆がっかりして、「ああなさけない、おらあ素手ではけえられましねえ。」「わしもさ今日をあてにして昨夕ゆうべから何も食わねえ。」と声を放ちて泣きいだせば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「でもメキメキ仕揚げるじゃありませんか。前に伺った時と店の様子がすっかり変ったわ。小野なんざアヤフヤで駄目です。」と言って、女は落胆がっかりしたように口をつぐんだ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)