たけ)” の例文
かいがらのようなあかたけ、おはぐろとんぼ、いいこえうたをうたうはるぜみなど。そして、またこのうみほおずき。なんといううつくしいことであろう。
草を分けて (新字新仮名) / 小川未明(著)
日は高くむねを照らしている。うしろの山を、こんもり隠す松の幹がことごとく光って見える。たけの時節である。豊三郎は机の上で今ったばかりの茸のいだ。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
町の反対側のはずれにある豆畠に出ているわたしには大砲もホコリたけがはじけたようにひびいた。
茫漠ぼうばくたる原野げんやのことなれば、如何に歩調をすすむるも容易やういに之をよこぎるをず、日亦暮れしを以てつゐに側の森林中しんりんちうりて露泊す、此夜途中とちう探集さいしふせし「まひたけ」汁をつく
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ひらには新芋しんいもに黄な柚子ゆずを添え、わんはしめじたけと豆腐のつゆにすることから、いくら山家でも花玉子にたこぐらいはさらに盛り、それに木曾名物のつぐみの二羽も焼いて出すことまで
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
されば予がたけ狩らむとしてきたりしも、毒なきあじわいの甘きを獲て、煮てくらわむとするにはあらず。姿のおもしろき、色のうつくしきを取りて帰りて、見せてたのしませむと思いしのみ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
面白きは竹田がたけを作りし時、頼みし男仏頂面ぶつちやうづらをなしたるに、竹田「わが苦心を見給へ」とて、水にひたせし椎茸しひたけ大籠おほかごに一杯見せたれば、その男感歎してやみしと云ふ逸話なり。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
というのは其の連山のふところにはさまざまのたけが生えていて私の訪うのを待っていて呉れる。この茸は全く人間味を離れて自然の純真な心持を伝え、訪問者をして何時の間にか仙人化してしまう。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
黄しめじを又つがたけもらひけり
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あだしごとはおもふまじるにてもきみさまのおこゝろづかはしとあふればはしなくもをとこはじつと直視ながめゐたりハツと俯向うつむはぢ紅葉もみぢのかげるはしきあき山里やまざとたけがりしてあそびしむかしは蝶々髷てふ/\まげゆめとたちて姿すがたやさしき都風みやこふうたれにおとらんいろなるかはうれひを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きちがひ茄子なすと笑ひたけ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
たけを狩るうち、松山の松がこぼれて、奇蹟のごとく、おのずから挿さったのである。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たかくさけて、したほうると、そこには、不思議ふしぎな、しずかな緑色みどりいろ世界せかいがあって、つちには、きれいな帽子ぼうしをかぶったたけがはえていますし、うえには、はなびらのついているように
草を分けて (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はまた山であらゆるたけって食ったそうである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「霜こし、黄いたけ。……あはは、こんなばばきのこを、何の事じゃい。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……籠に、あの、ばさばさ群った葉の中に、なまずのような、小鮒こぶなのような、頭のおおきたけがびちびち跳ねていそうなのが、温泉いでゆの町の方へずッと入った。しばらく、人に逢ったのはそればかりであった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ばばたけ持って、おおむさや。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)