疾風しっぷう)” の例文
その藤吉郎が、室町幕府最後の始末がすむかすまないうちに、疾風しっぷうのごとく畿内きないの戦場からひっ返し、また直ちに、岐阜へむかって
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
疾風しっぷうのごとく飛んで行く八五郎、その忠実な後ろ姿を見送ってどうして今まで手を抜いていたか、平次は自分ながら歯痒はがゆい心持でした。
そのときわが鎌田聯隊長殿かまだれんたいちょうどのは、馬の上で剣を高くふって突貫とっかん! と号令をかけた。そこで大沢おおさわ一等卒はまっさきかけて疾風しっぷうのごとく突貫した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
黒い疾風しっぷうが何かにぶつかりながら、へやを飛出し、闇の廊下をめくら滅法めっぽうに走った。そのあとを追って、「逃げた、逃げた」という狼狽の叫声。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
蝦夷松えぞまつ椴松とどまつ白樺しらかんばの原生林を技けて、怪獣のごとくまた疾風しっぷうのごとく自動車で横断することは、少くともこの旅行中の一大壮挙にはちがいない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
思わずそこに打ちたおれ、手足を地面に伏せたとたん、飛行機の黒い大きい影が疾風しっぷうのように地面をかすめ去った。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
その時は、北方から剽悍ひょうかんな遊牧民ウグリ族の一隊が、馬上に偃月刀えんげつとうりかざして疾風しっぷうのごとくにこの部落をおそうて来た。湖上の民は必死になってふせいだ。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そのときの傷痕きずあとふるびてしまって、みきには、雅致がちくわわり、こまかにしげった緑色みどりいろは、ますます金色きんいろび、朝夕あさゆうきりにぬれて、疾風しっぷうすりながら
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
疾風しっぷうのごとくに城内へ連れ去ってしまったので、Z伯爵をはじめ、途中から出て来た妹のガブリエルも、その恋人のエドヴィナ伯爵も、あまりの驚異に身の毛をよだてた。
「今晩は陰暦十一月十六日、夜の十時には月高くお裏山の公孫樹こうそんじゅにかかって、老梟寒飢ろうきょうかんきに鳴く。一じん疾風しっぷう雑木林をわたって、颯々さつさつの声あり。ちょうど手頃でございますぞ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
口小言くちこごとを云いながら、七兵衛は進んでお葉を抱えおこそうとすると、彼女かれその手を跳ね退けてった。例えば疾風しっぷう落葉らくようを巻くが如き勢いで、さッと飛んで来て冬子に獅噛付しがみついた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それでいて疾風しっぷうが渡ると、魔術のつえを加えたように濃霧が部分的にサッとふき消されるその瞬間に、脚下のあざみ谷や、鬼神きじん谷の大渓谷が、神秘のとばりを引いたように、鮮明に一部分をあらわすのだ。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
然し女はえるように泣きじゃくっているので、スタンドの卓を飛び降りた疾風しっぷうのような鋭さも竜頭蛇尾であった。刑事はいくらか呆気あっけにとられたが女の泣き方がだらしがないので、ひるまなかった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それが疾風しっぷうのごとく私を通過したあとで、私はまたああ失策しまったと思いました。もう取り返しが付かないという黒い光が、私の未来を貫いて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯を物凄ものすごく照らしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ア——と竹童ちくどうは目をみはっていると、たちまち、宙天ちゅうてんからすさまじい疾風しっぷうを起してきた黒い大鷲おおわし、鶴を目がけてパッと飛びかかる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は、そっと目配せをすると、ガラッ八は疾風しっぷうのごとく飛びました。続いて店の方から、叱咤しったと組付の凄まじい響き。
一同がそれを読んでるうちに、フハンはふたたび疾風しっぷうのごとく岩壁がんぺきをかけのぼって、とうとうすがたが見えなくなった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その片足をかけた刹那に、急行電車か何かが疾風しっぷうの様にやって来てお婆さんから二三間の所まで迫ったと仮定します。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
弟はすでに、蒙古もうこで戦死した。にわかに荒々しいものが、疾風しっぷうのように私の心を満たした。此のような犠牲をはらって、日本という国が一体何をなしとげたのだろう。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
やがてふもとちかづいた頃、忠一はある樹根きのねに腰をかけて草鞋わらじを結び直した。巡査はこれを待つあいだ不図ふと何を見出したか、たちま疾風しっぷうの如くに駈け出して、あなたの岩蔭へ飛び込んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しんぱくは、またひとしきり、疾風しっぷうかおうごかしながら
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、ジッと生唾なまつばをのんですくまっていると、境内を斜めに切って、疾風しっぷうのように自分の方へ駈けてくるふたつの天蓋が闇をかすッて見える。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、反対の方角に、疾風しっぷうの様な勢で駈け出した。群集は、怪物の水際立った振舞に、行手をさえぎることも忘れて、ボンヤリとその美しい姿を眺めていた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
イバンスは疾風しっぷうのごとく走った。海蛇とブランドははや川の岸にあがった。いま一足が舟のなかである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
八五郎は疾風しっぷうの如く飛んで行くと、畑を突っきって逃げて行く男の後ろから、無手むずと組みつきました。
カガヤン渓谷けいこくを南下して苦難に満ちた行軍こうぐんを続け、北の入口からサンホセ盆地に入ろうとした時、リンガエン上陸の米軍の一支隊は疾風しっぷうのような早さでカガヤン渓谷を逆に北上
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
藤蔵が自軍のふじヶ根山へさして疾風しっぷうのごとく駈け出したとき、初めて、バチバチ撃ち浴びせたが、もう間にあわなかった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鹿毛しかげは少ししりごみしたがこのときしゃもじがその首環くびわを引いて赤犬の鼻に鼻をつきあてた、こうなると鹿毛もだまっていない、疾風しっぷうのごとく赤犬にたちかかった
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
函嶺全山を揺るがすほどの声がして、ガラッ八の八五郎、疾風しっぷうのごとく飛んで来たのです。
騒ぎずきの東京市民は、ほとんど熱狂して、怪賊の思い切った曲芸を喝采かっさいした。うわさは疾風しっぷうの様にちまたに拡がり、続々とかけつける見物人で、両国橋の東西は時ならぬ川開きの人山だ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かねて岡崎の奉行とも聯絡れんらくはあったらしい。又四郎は彼をくくると、その体を小脇にかかえて疾風しっぷうのように駈け出した。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次の叱咤しったにつれて、八五郎の身体は猟犬のように動きます。幸いの月夜、疾風しっぷうのごとく逃げ廻る曲者は、次第に逃げ路を失って、平次と八五郎の狭めて行く輪の中に入ります。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と球はびるかと思いのほか、途中で切れてさか落としに落ちた、ハッと思う間もない、光一は疾風しっぷうのごとく本塁をおそうた、千三はあわててホームに投げた、球は高くネットを打った。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
はッと見ると、法月弦之丞、浅間、岡村の同心と、周馬、有村の四人を上へ上へとおびきよせて、それを捨てるが早いか、お十夜の方へ疾風しっぷうに来た。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次と八五郎と勘六は、疾風しっぷうの如く土手を引返しました。何んにも知らずに、こもの上でかねを叩いていた乞食坊主の鑑哲は、大骨を折らせ乍らも、三人の手で取って押えられました。
声がおわらぬうちに、フハンはあわただしく洞のなかをかぎまわったが、とつぜん疾風しっぷうのごとくほらの外へ走り去った。一日の労役ろうえきをおわって一同は晩餐ばんさんのテーブルについたが、フハンは帰ってこない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そして日没にちぼつから、伊那丸の陣地を見わたしていると、小勢こぜいながら、守ること林のごとく、攻むること疾風しっぷうのようだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
利助の子分は、お品の指図を待つまでもなく、疾風しっぷうのごとく本堂に乱入します。間もなく、綱吉も役僧も藤次郎も一網打尽いちもうだじん、検使の役人のために数珠じゅずつなぎにされてしまいました。
人馬も旗も濡れて、みな雑巾ぞうきんのような姿となってゆく。雨は折々小やみにもなったが疾風しっぷうは終日やまない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ガラッ八は疾風しっぷうのように飛出しましたが、本当に半刻も経たないうちに帰って来て
出来ごとが、あまり瞬間だったので、奥の居間に入った俵一八郎も万吉も、少しもそれを知らず、ただ、屋根を走る疾風しっぷうの雨の声に、顔を見合せていたのである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はお世辞を言い捨てて、疾風しっぷうのごとく両国の水茶屋に引返しました。
小文治こぶんじがききかえすまに、駿馬しゅんめ項羽こううのかげは木隠をのせて、疾風しっぷうのごとく遠ざかってしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出て行った八五郎、しばらくすると疾風しっぷうのようにスッ飛んで来ました。
初めに構えた一本のまきは、つねに同じところに同じ角度で持たれていた。もちろん動く一瞬は疾風しっぷうを起し電光を描く。けれどそのあとはすぐ元のすがたにかえっているのだった。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくる九月十五日の晩、ガラッ八は疾風しっぷうのごとく飛込んで来たのです。
疾風しっぷうのように、その側へ飛んで来た騎馬の武士も、それを仰ぐと同時に
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たったそれだけの号令で、八五郎は疾風しっぷうのように駆け出しました。
と見て典膳が、疾風しっぷうのように土間から跳び出すと、一刀斎は
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
路地から二人の子分が疾風しっぷうのごとく飛込んで来るのでした。