片田舎かたいなか)” の例文
旧字:片田舍
ロシアの片田舎かたいなかのムジークの鈍重で執拗しつような心持ちがわれわれ観客の心の中にしみじみとしみ込んで来るような気がしないことはない。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
片田舎かたいなかの荒れ地へ追いやられ、ただ口先の弁巧べんこうで、ぬらりくらり身を這い上げたへつらい者が、びょうに立ち、政治を私しているのではないか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに僕もお情けながら大学を卒業して文学士とか何とか肩書の付いてみれば国元のような片田舎かたいなかでは鬼の首を取ったように思うのです。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もちろん、この片田舎かたいなか草叢くさむらの中にまで風の便たよりに伝わって来るような流言にろくなことはない。しかし彼はそういう社会の空気を悲しんだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ジャン・ヴァルジャンは片田舎かたいなか愚昧ぐまいなる一青年であった。彼は一片のパンを盗んだために、ついに十九年間の牢獄生活を送らねばならなかった。
レ・ミゼラブル:01 序 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
水が生きている、という言葉は面白い言葉です、私が発明したのではありません、ある片田舎かたいなかの子供が発明したのです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おなじ水で医者の内も死絶しにたえた、さればかような美女が片田舎かたいなかに生れたのも国が世がわり、だいがわりの前兆であろうと、土地のものは言い伝えた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
または片田舎かたいなかの伝承の一致は、ちっとも不思議でないばかりか、我々にとってはたとえようもないなつかしさである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
むかし越後国えちごのくにまつ山家やまが片田舎かたいなかに、おとうさんとおかあさんとむすめと、おやこ三にんんでいるうちがありました。
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おばあさんのおとうさんというひとは、こんなさびしい片田舎かたいなかまれたひとず、研究心けんきゅうしんふかひとでありました。
青いランプ (新字新仮名) / 小川未明(著)
……あたしの生活の退屈たいくつさ加減はお話にも何にもならないくらいよ。何しろ九州の片田舎かたいなかでしょう。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この広い家に年のいかないもの二人きりであるが、そこは巡査おまわりさんも月に何度かしか回って来ないほどの山間やまあい片田舎かたいなかだけに長閑のんきなもので、二人は何の気も無く遊んでいるのである。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
片田舎かたいなかに定住している老詩人が、所謂いわゆる日本ルネサンスのとき到って脚光を浴び、その地方の教育会の招聘しょうへいを受け、男女同権と題して試みたところの不思議な講演の速記録である。
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ここに、カリフォルニアの片田舎かたいなかに、ひとりの少年がありました。その名を……」
街の子 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
その昔、周防すおう片田舎かたいなかで医業を営み、一向に門前の繁昌しなかった田舎医者は、維新の風雲に乗じて、めきめきと頭角を現わし、このとき事実上の軍権をにぎっている兵部大輔ひょうぶたゆうだった。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
ぼくがこの片田舎かたいなかのアイピング村へやってきたのは、だれにもじゃまされないで、思うように研究けんきゅうをやりたいからなんだよ。実験じっけんをやってる最中さいちゅうにさまたげられると、たまらないからね。
わずかの間に二人の父を失った彼女は、草深い片田舎かたいなかに埋もれている気はなかった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かつて墨汁一滴か何かの中に、独乙ドイツでは姉崎や、藤代が独乙語で演説をして大喝采だいかっさいを博しているのに漱石は倫敦ロンドン片田舎かたいなかの下宿にくすぶって、婆さんからいじめられていると云う様な事をかいた。
ただに医者いしゃとして、辺鄙へんぴなる、蒙昧もうまいなる片田舎かたいなかに一しょうびんや、ひるや、芥子粉からしこだのをいじっているよりほかに、なんすこともいのでしょうか、詐欺さぎ愚鈍ぐどん卑劣漢ひれつかん、と一しょになって、いやもう!
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その中でのきわめて辺鄙へんぴ片田舎かたいなか一隅いちぐうに押しやられて、ほとんど顧みる人もないような種類のものであるが、それだけにまた
自然界の縞模様 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
伊那南条村の片田舎かたいなかから出て来て見た縫助にこの述懐があるばかりでなく、王政復古を迎えた日は、やがて万国交際の始まった日であったとは
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
玉江嬢はお登和嬢の説明をしきりに感心し「なるほどそういう風にすればどんな片田舎かたいなかでも山の中でもカステラやビスケット位出来ない事はありませんね」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「どうして、この片田舎かたいなかに、御赦免の後まで、おでになろう」彼らは、そう聞くと、日ごとに庵へやって来て
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかし、ある片田舎かたいなか村外むらはずれに、八幡様はちまんさまのお宮がありまして、お宮のまわりは小さな森になっていました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
義朝よしとも奥方おくがた常盤御前ときわごぜんは、三にん子供こどもれて、大和やまとくに片田舎かたいなかにかくれていました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さびしい片田舎かたいなかに、おじいさんとおばあさんがんでいました。
片田舎にあった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今でも片田舎かたいなかにはそれが多く見られる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうかと思うとどこかまたイギリスのノーザンバーランドへんの偏僻へんぺき片田舎かたいなかの森や沼の間に生まれた夢物語であるような気もするのである。
間もなく岸本は節子からの便たよりを受取った。彼女は郡部にある片田舎かたいなかの方へ行ったことを知らせてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ある片田舎かたいなかの村に、ひょっこり一匹のさるがやって来ました。非常に大きな年とった猿で、背中に赤い布をつけ、首に鈴をつけて、手に小さな風呂敷包ふろしきづつみを下げていました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あんな片田舎かたいなかで晩年をうずもれてしまうような剣士で終りたくないのだ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都を離れし片田舎かたいなかながら村中にて指を折らるる大原の実家
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
文明の波が潮のように片田舎かたいなかにも押し寄せて来て、固有の文化のなごりはたいてい流してしまった。「ナーンモーンデー」の儀式もいつのまにか廃止された。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
節子はまた、罪過そのものも今はもうなつかしいという面持おももちで、しばらく彼女がお産のために行っていたという片田舎かたいなかの方へ、そこにある産婆の家の二階の方へ岸本の想像を誘うようにした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ある片田舎かたいなかの、山のすそにある小さな村に、右のことがどこからか伝わってきた時、子供達は眼をまんまるくしました。考えれば考えるほど、おもしろくておかしくてしようがありませんでした。
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
片田舎かたいなかの中学生で、さきざき高等学校から大学に進もうという志望をいだいているものにとっては、暑中休暇に帰省している先輩の言動はかなり影響のあるものである。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
馬籠まごめのような狭い片田舎かたいなかでは半蔵の江戸行きのうわさが村のすみまでもすぐに知れ渡った。半蔵が幼少な時分からのことを知っていて、遠い旅を案じてくれる乳母うばのおふきのようなばあさんもある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
むかし、ギリシャの片田舎かたいなかに、ケメトスという人がいました。
彗星の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そして東洋の日本の片田舎かたいなかに育った子供の自分が、好奇心にみちた憧憬どうけいの対象として、西洋というものを想像するときにいつも思い浮かべた幻像の一つであったあのヴェスヴィアスが
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)