無雑作むぞうさ)” の例文
旧字:無雜作
だが、無雑作むぞうさに抜き取れるだろうと思ったそれは、存外、念入りの工事のために、なかなか思うようにはずせないことを発見しました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのペイブメントの上を見ているのではないことは、その上に落ちていたバナナの皮を無雑作むぞうさに踏みつけたのをみていても知れる。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分の胸のあたりへ蛇のようにまといかかっている女の長い黒髪を無雑作むぞうさに押しのけて、頼長はくつを早めてあなたのちんの方へ行ってしまった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こんな時にはかなり無雑作むぞうさに勢いよく筆をたたきつけるとおもしろいように目が生きて来たりほおの肉が盛り上がったりする。
自画像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
無雑作むぞうさにか、そして子供達もまたうつかりそれを問ひただすでもなく……世にはそれ程でも無いことを執念しゅうねく探り立てする人々があると同時に
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しかも、彼にとっては永遠に不可能な事柄を、池内光太郎は、彼の眼前で、さも無雑作むぞうさに、自由自在に振舞っているのだ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小林は受け取ったものを、赤裸あかはだかのまま無雑作むぞうさ背広せびろ隠袋ポケットの中へ投げ込んだ。彼の所作しょさが平淡であったごとく、彼の礼のかたも横着であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
洋傘ようがさ直しは農園のうえんの中へ入ります。しめった五月の黒つちにチュウリップは無雑作むぞうさならべてえられ、一めんにき、かすかにかすかにゆらいでいます。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
うん」と久さんは答えて、のそり/\檐下のきしたから引き出して、二握三握一つにして、トンと地につきそろえて、無雑作むぞうさに小麦からでしばって、炬火をこさえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
初め彼の見た時には、腹部を漸く包んだ皮膚の端を大きくひねって無雑作むぞうさにまるめ込んだだけのように見えた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
以前はただ小さな灌木かんぼくの茂みで無雑作むぞうさふちどられていたその庭園は、今は白い柵できちんと区限くぎられていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
自分は嬉しさに顔があかくなる位だったが、あまり無雑作むぞうさに、かつ意外な返事だったので、半信半疑だった。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
女中は、それを無雑作むぞうさにちょっと握って、小さいお握りにして、「さあ」といって渡してくれた。
おにぎりの味 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
いよ、いよ、かまやしないや、ひとりで遊んでら。」と無雑作むぞうさに、小さな足で大胡坐おおあぐらになる。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人はただ無雑作むぞうさに雲仙と称するけれども、雲仙岳はしかく単純な一個の山を指すのではない。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
お母さまのようにあんなに軽く無雑作むぞうさにスプウンをあやつる事が出来ず、仕方なく、あきらめて、お皿の上にうつむき、所謂正式礼法どおりの陰気ないただき方をしているのである。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
で、私は小ざッぱりした着物に無雑作むぞうさに帯をしめ、帽子もかぶらずに出たのである。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「そう無雑作むぞうさに受合って大丈夫ですか。また急な仕事が出来たなんかって……。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それを皆「か」の音とか「き」の音とかを表わすものと無雑作むぞうさに考えて来たが
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
その間に竜雄は、無雑作むぞうさに、火をつけて、ぷかぷかとむさぼり吸った。煙は薄蒼白く、燻銀いぶしぎんの空から流れる光線の反射具合で、或いは赤紫に、ゆるやかにもつれて灌木の叢の中に吸い込まれて行った。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「どれ」東亜局長はまた葉巻をくわえ直して無雑作むぞうさに手を出した。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
彼はいかにも無雑作むぞうさに答えた。しかし、答えてしまって妙な味気あじけなさを覚えた。それはちょうど精いっぱい力を入れて角力をとっている最中、何かのはずみで、がくりと膝をついたような気持だった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
偶然にかぎを閉め忘れたのか、それとも、まだ、完全に出来上らないので、わざとそうしているのか、こうした危険な部屋にも、鍵をかけている形跡がなく、砲弾が廊下にまで無雑作むぞうさにおかれてあった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
客は無雑作むぞうさ
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
呆気あっけに取られていた五十嵐を無雑作むぞうさらっして、能登守が招くがままに、南条は旧友に会うような態度でその方へと進んで行きました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あとは寓話のようなところ、劇的光景の幕、そういったあまりにこしらえ過ぎた説相を採っていて、直接、無雑作むぞうさに心に訴える性質のものではない。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
緑がかったスコッチのジャケツを着て、ちぢれた金髪を無雑作むぞうさに桃色リボンに束ねている。丸くふとった色白な顔は決して美しいと思われなかった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
年はもう四十あまりの小づくりな痩法師で、白の着付けに鼠の腰ごろもを無雑作むぞうさにくるくるとまき付けて、手には小さい蓮の実の珠数を持っていた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「金田って人を知ってるか」と主人は無雑作むぞうさに迷亭に聞く。「知ってるとも、金田さんは僕の伯父の友達だ。この間なんざ園遊会へおいでになった」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十段ばかり上ると、そこに巌丈がんじょう鉄扉てっぴがあって、その上に赤ペンキで、重大らしい符牒ふちょう無雑作むぞうさに書かれてあった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その前にはきわめて旧式な一挺の猟銃が、無雑作むぞうさに投げ出されてある。そのほかにペンとインキ、それから手紙が一通、これが机の上に置かれたすべてのものであった。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一郎も澤も、乙子と養子の無慙むざんな死に対し、又あんまり無雑作むぞうさに人間が圧倒された自然現象に対して、腹立たしい自棄やけの心持から、死んでもおしくないような気持だった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
と栖方は低く笑いながら、額に日灼ひやけのすじの入った頭をいた。狂人の寝言のように無雑作むぞうさにそう云うのも、よく聞きわけて見ると、恐るべき光線の秘密を呟いているのだった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
まるで私を待ちせてでもいたようにかくれていたのに少しも気づかずに、その曲り角を無雑作むぞうさに曲ろうとした瞬間、私はその灌木の枝に私のジャケツを引っかけて、思わずそこに足を止めた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかし、朝倉先生はそれに対して無雑作むぞうさにこたえた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
無雑作むぞうさ差出さしいだして、海野の手に渡しながら
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
曹長は、無雑作むぞうさにこたえた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
捨札すてふだも無く、竹を組んだ三脚の上へ無雑作むぞうさに置捨てられてあるが、百姓や樵夫きこりの首ではなくて、ともかくも武士の首でありました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
最後に何事も打算しないでただ無雑作むぞうさにやってける叔父が、人に気のつかないうちに、この幕を完成するとしたら
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男は農家の人だけに、こんな蛇をなんとも思っていないらしく、無雑作むぞうさにその尾をつかんで窓の外へ投げ出すと、車内の人々は安心したように息をついた。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある相場師が、いざとこにつく時には、その、昼間はさも無雑作むぞうさに着こなしていた着物を、女の様に、丁寧に畳んで、床の下へ敷くばかりか、しみでもついたのと見えて
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
寵愛ちょうあいしてゐるパイプ——ネクタイピン——卓上の一枝の花——を一方は割愛し、一方は愛用し始めるといつた無雑作むぞうさな調子で、兄はその友人と自分の妹の婚約を取計とりはからつた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
一台の卓子テーブルがポツンと置かれて、その上に細い数字を書きこんだ送電日記表そうでんにっきちょうの大きな紙と、鉛筆が一本無雑作むぞうさに投げ出されていたが、しかし当直技手の姿は何処にも見えなかった。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
平凡な牛乳びんに二本のポインセチアが無雑作むぞうさに突きさしてあるだけである。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
無雑作むぞうさに答えて、後姿は歩き出した。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
文字として無雑作むぞうさに扱う分には何でもないが、墓穴というものを目の前で掘られる心持は決していい心持のするものではあるまい。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
主人ははしとも楊枝ようじとも片のつかないもので、無雑作むぞうさに饅頭を割って、むしゃむしゃ食い始めた。宗助もひんならった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は自分が疑深いせいですか、あなたはよく無雑作むぞうさに自分の病気をお信じなすったと思いますよ
二癈人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
七蔵が便所はばかりに行ったのを送って行ったお関は、廊下でそっと彼に取り持ちを頼むと、酔っている七蔵は無雑作むぞうさに受け合って、おれから旦那にいいように吹き込んでやるから
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雑朶そだと云って、吉蔵が無雑作むぞうさに取り扱うくぬぎの下積みの枝などには、滴り透った霜どけの水に、ぐっしょり、濡れ乍ら半分朽ちた、しゃりしゃりした葉が付いて居たりした。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)