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無性
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むしょう
ふりがな文庫
“
無性
(
むしょう
)” の例文
だが、愛の巣のあったと思うところには、赤ちゃけた焼灰ばかりがあって、まだ冷めきらぬほとぼりが、
無性
(
むしょう
)
に彼の心をかき乱した。
棺桶の花嫁
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
長老は
無性
(
むしょう
)
になりぬ。そのとき、近所の者どもは寺の客殿の上に火の手上がりたるを見、火事ありと思いておびただしく
馳
(
は
)
せ集まれり。
迷信解
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
それでは御免
蒙
(
こうむ
)
って、
私
(
わし
)
は
一膳
(
いちぜん
)
遣附
(
やッつ
)
けるぜ。
鍋
(
なべ
)
の底はじりじりいう、
昨夜
(
ゆうべ
)
から気を
揉
(
も
)
んで酒の虫は揉殺したが、
矢鱈
(
やたら
)
無性
(
むしょう
)
に腹が空いた。
葛飾砂子
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
他人
(
ひと
)
の子とは思われぬと、常々云っている禅尼なので、頼朝にそう歓ばれると、
酬
(
むく
)
われたここちで、彼女は
無性
(
むしょう
)
に涙に
溺
(
おぼ
)
れながら
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
負けては大変だぞ! と思えば思うほど、
無性
(
むしょう
)
に飲みたくなる。チラリと仲間の方を偸み見ながら、彼はゴクリと喉を鳴らした。
日は輝けり
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
▼ もっと見る
かの藍玉屋の金蔵の如きは、
執心
(
しゅうしん
)
の第一で、何かの時に
愁
(
うれ
)
いを帯びたお豊の姿を一目見て、それ以来、
無性
(
むしょう
)
に
上
(
のぼ
)
りつめてしまったものです。
大菩薩峠:04 三輪の神杉の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
人間の正直な言葉ほど、
滑稽
(
こっけい
)
で、とぎれとぎれで、出鱈目に聞えるものはない、と思えば、なんだか
無性
(
むしょう
)
に悲しくなります。
新ハムレット
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
陸軍主計
(
りくぐんしゅけい
)
の軍服を着た牧野は、
邪慳
(
じゃけん
)
に犬を
足蹴
(
あしげ
)
にした。犬は彼が座敷へ通ると、白い背中の毛を
逆立
(
さかだ
)
てながら、
無性
(
むしょう
)
に
吠
(
ほ
)
え立て始めたのだった。
奇怪な再会
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ただ
無性
(
むしょう
)
に弱くなった気持ちが、ふと
空虚
(
くうきょ
)
になった胸に押し重なって、疲れと空腹とを一度に迎えたような
状態
(
じょうたい
)
なのだ。
落穂
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
噂
(
うわさ
)
に
違
(
たが
)
わず素晴らしいその鉄砲乳が
無性
(
むしょう
)
に気に入ったんだ。年寄だけが不足だろうが、さりとて何も、おめえを
抱
(
だ
)
いて寝ようというわけじゃねえ。
歌麿懺悔:江戸名人伝
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
そう火事が
矢鱈
(
やたら
)
無性
(
むしょう
)
にあって堪るもんでございますか。さて品川
停車場
(
ステーション
)
より新橋へ帰るつもりで参って見ると、パッタリ逢ったはお若さんでげす。
根岸お行の松 因果塚の由来
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
併し、
理窟
(
りくつ
)
で、この身震いがどう止まるものぞ。私はただ、恐しい殺人罪でも犯した様に、
無性
(
むしょう
)
に怖いのであった。
毒草
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
ぼくは頭のなかが熱くなり、
嘘
(
うそ
)
だ嘘だとおもいながらも柴山の言葉を否定するなんの
根拠
(
こんきょ
)
もないままに、
無性
(
むしょう
)
に腹が立ってきました。柴山は続けます。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
それに何だって今頃になって出て来てひょろひょろ此処に立ってやがるんだ。それが為吉を
無性
(
むしょう
)
に怒らせた。
上海された男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
それがまだそのままにしてある。あちらこちらと持ち運んで来たものであるが、毛布を
剥
(
は
)
いで見れば、どこにも損傷がない。それを見て鶴見は
無性
(
むしょう
)
に嬉しがる。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
いつまでたっても相手が笑っているから、源十郎もつりこまれて、なんだか
無性
(
むしょう
)
におかしくなった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
また、何か
無性
(
むしょう
)
に腹の立つ時でも、あの子があらわれれば、やんわりと心が静まってしまうのじゃ。……なよたけのかぐやはこの儂のたったひとつの
生
(
い
)
き
甲斐
(
がい
)
じゃった。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
わたしは
無性
(
むしょう
)
に腹が立ったが、同時にまた、噴水のほとりのあの仕合せ者になれさえしたら、どんなことでも承知してみせるどんな
犠牲
(
ぎせい
)
でも
払
(
はら
)
ってみせる、と思った。……
はつ恋
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
葉子はうるさそうに頭の中にある手のようなもので
無性
(
むしょう
)
に払いのけようと試みたがむだだった。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
子供はむかいの釜屋の夫婦が
無性
(
むしょう
)
にかわいがってたいがい朝から借りてって一日じゅう遊ばせている。狭い人通りのない
路
(
みち
)
ゆえ子供のはしゃぐ声がよくきこえる。善い人たちらしい。
妹の死
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
同時に、彼は校番のむさ苦しい部屋が、
無性
(
むしょう
)
に恋しくなって来た。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
何かは知らず
滅多
(
めった
)
無性
(
むしょう
)
に
忙
(
せわ
)
しそうだ。
斯様
(
こん
)
な
渦
(
うず
)
の中に
捲
(
ま
)
き
込
(
こ
)
まれると、
杢兵衛
(
もくべえ
)
太五作
(
たごさく
)
も足の下が妙にこそばゆくなって、
宛無
(
あてな
)
しの電話でもかけ、要もないに電車に飛び乗りでもせねば
済
(
す
)
まぬ気になる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
俺は
無性
(
むしょう
)
に酒が飲みたくなった。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
横倒しに倒れかかって自分の面を上から撫でおろした一件の物を、
無性
(
むしょう
)
にかなぐりとって見ると、それは一筋の弓の矢でした。
大菩薩峠:34 白雲の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
お八重は、顔いろを——身の置場を失って、意味の聞きとれない言葉を発しながら、一角の手をつかんで、無理に、
無性
(
むしょう
)
に
無宿人国記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
だまって同じ姿勢で立っていると、やたら
無性
(
むしょう
)
に、お金が欲しくなって来る。十円あれば、よいのだけれど。「マダム・キュリイ」が一ばん読みたい。
女生徒
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
女の腐った様な猜疑に満ちた
繰言
(
くりごと
)
で変態読者をやんやと云わせて得意がっている彼が
無性
(
むしょう
)
に
癪
(
しゃく
)
に触っていた。
陰獣
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
その人たちのしかつめらしいのが
無性
(
むしょう
)
にグロテスクな不思議なものに見え出して、とうとう我慢がしきれずに、ハンケチを口にあててきゅっきゅっとふき出してしまった。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
その間を潮流が
湍津瀬
(
たぎつせ
)
をなして沸きあがり崩れ落ちる。岩礁には真夏の強い日光が反射する。紫褐色の地にめった
無性
(
むしょう
)
に打たれた赤い斑点がちかちかと光ったり
唸
(
うな
)
ったりしている。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
これもそう
無性
(
むしょう
)
に喜ぶほど、悪魔の成功だったかどうか、作者は甚だ懐疑的である。
おぎん
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
……人里離れた生れ故郷の瓜生の里が
無性
(
むしょう
)
にこう……
懐
(
なつか
)
しくなって参りましてな。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
金満の
奴
(
やっこ
)
さん恩儀を思つて、
無性
(
むしょう
)
に
難有
(
ありがた
)
がつてる処だから、きわどい処を押隠して、やうやう人目を忍ばしたが、大勢押込むでゐるもんだから、
秘
(
かく
)
しきれねえでとうどう奥の奥の奥ウの処の
海城発電
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
「ご苦労様でもばかばかしくても、私にとれば、この大阪が、
無性
(
むしょう
)
に恋しくって恋しくって、夢にみる程なんだから、しかたがないじゃないか」
鳴門秘帖:04 船路の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ただ
無性
(
むしょう
)
にいい心持になっているほどに、先生の飲みッぷりは
初心
(
うぶ
)
なものではないはずだから、何か特別に嬉しいことがあっての上でなければなりません。
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
私は
無性
(
むしょう
)
に仕事をしたくなった。なんのわけだかわからない。よし、やろう。
一途
(
いちず
)
に、そんな気持だった。
故郷
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
しかし葉子は
無性
(
むしょう
)
に自分の顔を倉地の広い暖かい胸に
埋
(
うず
)
めてしまった。なつかしみと憎しみとのもつれ合った、かつて経験しない激しい情緒がすぐに葉子の涙を誘い出した。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
ただもう、
無性
(
むしょう
)
にわなをしかけてみたくなったのです。そこで、いつにない早起きをして、ソッと土蔵にしのびこんで、大きな鉄の道具を、エッチラオッチラ持ちだしたというわけなのです。
怪人二十面相
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
生物
(
いきもの
)
なれば、鳥けものや虫けらに至るまで
無性
(
むしょう
)
にこう可愛がる
癖
(
くせ
)
がござりましてな、ある時なぞは、蝶々になるまで可愛がってやるのだと申して、自分の部屋に毛虫をたくさん集めて飼ってみたり
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
神尾が、うわごとのように、むやみにけしかけるものですから、鐚の野郎が
無性
(
むしょう
)
に嬉しくなってしまいました。
大菩薩峠:38 農奴の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
敢
(
あえ
)
なく石を横へ捨てて、伊織は
無性
(
むしょう
)
に逃げ出していた。いくら逃げても逃げても恐さが振り捨てられなかった。
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
学校で、金子先生の無内容なお話をぼんやり聞いているうちに、僕は、去年わかれた黒田先生が、やたら
無性
(
むしょう
)
に恋いしくなった。
焦
(
こ
)
げつくように、したわしくなった。
正義と微笑
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
ただ感ぜられるのは、心の中がわけもなくただわくわくとして、すがりつくものがあれば何にでもすがりつきたいと
無性
(
むしょう
)
にあせっている、その目まぐるしい欲求だけだった。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
「デハ、ヤタラ
無性
(
むしょう
)
ニヤルデス、マルセル、ボルカ、ゴルデン、ワルツ、マルチ——何デモ無性ニヤルデス」
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
と、ここに
竹童
(
ちくどう
)
が、にわか
芸人
(
げいにん
)
の
口上
(
こうじょう
)
をうつして、
弁
(
べん
)
にまかせてのべ立てると、
万千代
(
まんちよ
)
はじめ、とんぼ
組
(
ぐみ
)
、パチパチと手をたたいて
無性
(
むしょう
)
にうれしがってしまった。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
木村の笑い出すのを見た二人は
無性
(
むしょう
)
におかしくなってもう一度新しく笑いこけた。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
『乗りたいな。
無性
(
むしょう
)
に、乗りたくなる。——乗り味のよさが思われてくるのだ。
堪
(
たま
)
らない名馬ではある。あの
後脚
(
ともあし
)
からさんずにかけての、
体
(
からだ
)
づくりといったらない』
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と言って、竜之助は二はい三ばいとひっかけるものですから、お雪ちゃんが
無性
(
むしょう
)
に嬉しくなりました。
大菩薩峠:38 農奴の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
そして
無性
(
むしょう
)
に
癇癪
(
かんしゃく
)
を起こし続けた。
卑怯者
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
ぜひなく兵馬は、神尾の屋敷から引返して、甲府の市中を当もなく歩きます。忍ぶ身になってみると、
無性
(
むしょう
)
に懐かしくなって、お松に会いたくてたまらなくなりました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
『母ゆえに、平太は
無性
(
むしょう
)
に、あなたが
癪
(
しゃく
)
にさわる。あなたが、
穢
(
けが
)
らわしいんだ、いまいましくて』
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“無性”の意味
《名詞》
(むしょう)実体がないこと。
(むしょう)成仏する素質がないこと。
(むしょう)自制心がないこと。正体をなくすこと。
(むせい)雌雄の性別がないこと。
(出典:Wiktionary)
無
常用漢字
小4
部首:⽕
12画
性
常用漢字
小5
部首:⼼
8画
“無性”で始まる語句
無性髯
無性者
無性髭
無性猫
無性箱