沐浴もくよく)” の例文
姜維きょういは、謹んで命をうけ、童子二名に、よろずの供え物や祭具を運ばせ、孔明は沐浴もくよくして後、内に入って、清掃を取り、だんをしつらえた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々は王の赤血の沐浴もくよくについて恐ろしい推測を戦慄しながらささやきかわした。バルビエはそれらのことを率直に書き留めている。
もちろん生れてから日に二度位ずつは身体の各部ことに頭へ余計バタを塗り付ける。それがバタで沐浴もくよくするというてもよい位です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
が、女紅場の沐浴もくよくに、美しきはだを衆にき、解き揃えた黒髪は、夥間なかまの丈をおさえたけれども、一人かれは、住吉の式につらなる事をしなかった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
繃帯ほうたいを取替へるとか、背をさするとか、足を按摩あんまするとか、着物や蒲団の工合を善く直してやるとか、そのほか浣腸かんちょう沐浴もくよくは言ふまでもなく
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さても越前守には紀州より兩臣歸着きちやくにて逐一ちくいち穿鑿せんさく行屆たれば直樣すぐさま沐浴もくよくなし登城の觸出ふれだし有て御供揃ともそろひに及び御役宅おやくたくを出で松平伊豆守殿御役屋敷を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さそくに沐浴もくよく斎戒いたしまして、焼き直したところ、未熟者ではござりましたが、父も槍師やりし、さすがはお名代のお宝物だけありまして、穂先
食物、睡眠、衣裳、暖かい庭、暇のある勤めはたちまち筒井を美しくふとらせ、毎日の沐浴もくよくはつやつやしたはだに若返らせた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
躯に故障はないのですから、早朝の沐浴もくよくも欠かさず、朝と夕方の二回、くたくたになるまで組み太刀たちの稽古もしました。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
前に申した十九歳乃至ないし二十一歳以上、身体、精神ともに健全で、産児の有資格者には、一週二回だけ同衾どうきんが許されて、その際には男女ともに沐浴もくよくして
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
バラモン教にて神都といわるるベナレス市には、毎年大祭の際に信者が四方より集まり、その傍らを流るるガンジス川にて沐浴もくよくするのは名高い話である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
砂地のけつくようなの直射や、木蔭こかげ微風びふうのそよぎや、氾濫はんらんのあとのどろのにおいや、繁華はんか大通おおどおりを行交う白衣の人々の姿や、沐浴もくよくのあとの香油こうゆにおい
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
何をお礼にしようかと聞かれて、私はまだ独身だから嫁がほしいと言うと、そんならこの奥の池に仙女が沐浴もくよくしている。そこへ行って羽衣の一つを隠してしまえ。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
続いて武士の帯刀を禁じ、士族と平民との名義上の区別は置けども、普天率土同一なる義務と同一なる権利とを享有し、均しく王化の下に沐浴もくよくすることゝはなれり。
無尽講のよる、客がすでに散じたのち、五百は沐浴もくよくしていた。明朝みょうちょう金を貴人のもともたらさんがためである。この金をたてまつる日はあらかじめ手島をして貴人にもうさしめて置いたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
十日、庚戌かのえいぬ、将軍家御疱瘡、すこぶる心神を悩ましめ給ふ、これに依つて近国の御家人等ごけにんら群参ぐんさんす。廿九日、己巳つちのとみ、雨降る、将軍家御平癒へいゆの間、御沐浴もくよく有り。(吾妻鏡あずまかがみ。以下同断)
鉄面皮 (新字新仮名) / 太宰治(著)
然し「乱暴にも」何時でも、別に斎戒沐浴もくよくして作るわけでもなかった。その度に、漁夫達は監督をひどい事をするものだ、と思って来た。——だが、今度はちがってしまっていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
キリスト教徒は中世紀に至るまで沐浴もくよくを罪悪とみて、僧侶は一生沐浴しない者もあり、許されて年に二回ぐらい沐浴できる者もあったという程の徹底的な沐浴制裁を行ったのであるが
人生三つの愉しみ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ただ気圧の点あるのみ、勿論運動または沐浴もくよく不如意ふにょい等も、大に媒助ばいじょする所ありしには相違なきも主として気圧薄弱のしからしむる所ならんか、しばらうたがいを存す、もし予にして羸弱るいじゃくにして
ずからがその文化と異なった生活をしていることを発見した者は、たといどれほど自分がってもって生活した生活の利点に沐浴もくよくしているとしても、新しい文化の建立に対する指導者
広津氏に答う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
といって私は何も裸女沐浴もくよくの図が見たかった訳ではありません。そんなものは、少し山奥の温泉場へでも行けば、いや都会の真中でさえも、ある種の場所では、自由に見ることが出来ます。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
魂が洗われ休められて純潔になって出て来る、謙抑けんよくと愛との沐浴もくよくの快さを、彼はしみじみと感じた。彼にとっては信ずることがいかにも自然だったので、どうして人が疑い得るかを了解しなかった。
沐浴もくよくした五体に、衣服を着、かたく締めた帯に、大小をたばさむと、武蔵は、膝まずいて、天地へ黙然とかしらを下げていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左の足はかがまりて伸びず。故に仰臥の時は左の膝は常に立て居るなり。沐浴もくよくせず。時々アルコールにて体をぬぐふのみなれどそれも一ヶ月に一、二度位なるべし。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
伊達家の麻布屋敷にいた伊達安芸あきは、早朝に起きて沐浴もくよくし、白の下襲したがさねを着て朝食のぜんに向かうと、涌谷わくやから供をして来た家従たち、老臣から小姓頭などに、盃を廻した。
判斷はんだん成敗せいはいさすに其人の年れい月日時を聞てを立かんがへをほどこし云ふ事實にかみの如く世の人の知る處なり扨翌日にも成りければ靱負ゆきへは其身の吉凶きつきようを見ることゆゑ沐浴もくよくして身體しんたい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日頃熟知している名前を、どうして忘れたのかと不思議に思って聯想の順序をたどって見た所、ヘラグース——ヘラバット・バット(浴場)——沐浴もくよく——鉱泉——という風にうかんで来た。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなたは沐浴もくよくのヴィーナスに仮装あそばせ。泰西名画の画中人物です。
もっと弘い区域にわたって観察し記述する人がきっと出てくることであろうが、特に自分などの重視している点は、第一には沐浴もくよく必須ひっすの条件としていることで、是は朝家の嘗の祭とも一致している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「そうか。では今夜は、不浄をつつしみ、明朝は沐浴もくよくして、上清宮へ登って行くとしよう。貴様たちも、はやく退がれ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
サイカイ沐浴もくよくに及んだという話であった。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「何のむずかしいことでもございません。さっそく帰邸のうえ、沐浴もくよくして神文しんもんを相したため、明朝、鎌倉表出発のみぎり、自身、台下へささげ奉りましょう」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深く期して、彼はその夕べ沐浴もくよくして身をきよめ、平常乗用の四輪車と同じ物を四輛も引き出させた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沐浴もくよくということをごぞんじないか。謹んで沐浴して来たのが悪いとは合点がまいらぬ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日は暮れて、沐浴もくよく夕餉ゆうげなどのあと、正成は浄衣になって、転法輪院てんぽうりんいんの本堂に入った。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と命じ、やがて沐浴もくよくして、几前きぜんに坐った。それこそ、蜀の天子に捧ぐる遺表であった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何気なく覗いてみると、武蔵はもう寝床をぬけて、月の光の下に沐浴もくよくを済まし、宵にできた真っ白な晒布さらしの肌着を着、腹巻をしめ、その上に、いつもの衣服をまとっているのであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沐浴もくよく
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)