おおむ)” の例文
これが全身まるで彫刻製作されるとなると、原図案とはまたかわったものとなることであるが、おおむねこの原図によったものでありました。
その史料もまたおおむね追憶によって成ったものであり、しからざるものも事態の本質がさながらにそこに表現せられているとは限らない。
歴史の矛盾性 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
ここから南北の嶺道みねみちは、嶺ながらおおむね平らだった。余吾西岸の足海たるみ、茂山のあたりまで、ほとんどゆるい傾斜をもった降りである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一、天保以後の句はおおむね卑俗陳腐にして見るに堪へず。称して月並調といふ。しかれどもこの種の句も多少はこれを見るを要す。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかしながら、当時は学者はおおむね皆な憲法とは通常の法律を指すものであって、箕作博士の訳語は当っておらぬと言うておった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
往時羅馬においては遊覧船はおおむね鳥の形に造り、殊に紅鶴の恰好が非常に多く、櫂はことごとく彩色せられていたらしいことは
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
今では沖縄へ行くのにはおおむね西海岸の航路を取っているが、古くは東海岸を主としていたのではないかということを説いてみたいのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おおむね予定通りの展開もできないような卑屈な渋滞状態をひきおこし、却って真実を逸しがちであるばかりか、渋滞状態の悪あがきの中では
文章の一形式 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかるに遺憾いかんながら日本に於てはこの男女の関係というものがはなはだ漠然たるもので、まずおおむね何事にも服従という義務を教ゆる他に何もない。
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
労働者の境遇に同情するという立派な理由もあって、最近の同盟罷工がおおむね官憲に由って善意に保護されているのを見ると
階級闘争の彼方へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
前田家、上杉家等の貸附はほぼ取り立ててしまい、家に貯えた古金銀はおおむ沽却こきゃくせられたそうである。しかし香以の豪遊は未だ衰えなかった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
早馬駅はゆまうまや」は、早馬はやうまを準備してあるうまやという意。「堤井」は、湧いている泉を囲った井で、古代の井はおおむねそれであった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
はげしい時代の動きは、家中の地位によっておおむね二派の意見をかもすのであった。陰に陽にあらそいながら、行くべきところに行き着きかけていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
前に他の章(芸術に於ける詩の概観)で説いたように、おおむねの小説は、本質に於て主観的な詩的精神に情操している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
たまたま食通と言われる人たちも、大抵は下手物通というところであって、その志すところはおおむね低い。そして、その知るところは凡食の一部分に過ぎない。
料理一夕話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その他この書の研究者はおおむね古代の習慣、思想等の考古学的研究に心を奪われて、この書の神髄をとらえ得ないのである。これ研究の態度が正しからぬためである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
マーシャル特産の蛸葉の繊維で編んだ団扇うちわ、手提籠の類は、おおむねこうした縁の下の住民の手内職である。
しかればその犠牲者は、おおむね水戸と朝廷との間を周旋しゅうせんしたる、在京都の諸藩士、諸浪人にして、松陰の如きは、もとよりこれに対して何らの関係ある筈なかりしなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
じんの崖上わづかに一条のささたのみてぢし所あり、或は左右両岸の大岩すであしみ、前面の危石まさに頭上にきたらんとする所あり、一行おおむね多少の負傷をかうむらざるはなし。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
おおむね、猟師とか、岩魚いわな釣りとか、杣人そまびとの類か、または、かつて陸地測量部の人夫として働いた事があるというような人を、辛うじて探し出して、頼むべき伴侶とする外はなかったのである。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
その他弁護士に関する諺は随分沢山あるが、おおむね皆な素人しろうとこしらえた悪口であって、ちょうど我邦の川柳に医者の悪口が多いのと同様である。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
そして政治、つまりは現実と常識に対する反骨が文学の精神であり、咢堂の精神はおおむねかくの如きものであったと僕は思う。
咢堂小論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
この蔽石それ自身穹窿アーチ形をなしているものがおおむね全部であって、別に穹窿形天井を後からくっ付けたり、入り口を有する廻廊式のものもあり
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
二人ににん年歯ねんしの懸隔は、おおむね迷庵におけると同じく、抽斎はをも少しく学んだから、この人は抽斎の師のうちに列する方が妥当であったかも知れない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ところが、現存の民俗とても、その意義なり精神なりはやはり解釈を要するのであるから、こういう知識はおおむね自己の特殊の解釈によって成立っているのである。
今日の所謂いわゆるプロレタリア詩の如き、おおむね皆この類のものであるから、特に詩壇のために啓蒙けいもうしておこう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
しかしヨブのこの答を借りて我らは「誰か汝らの言いし如き事を知らざらんや」と言わんとする。畢竟ひっきょうかの新説と称するもの、おおむね旧説の焼き直したるに過ぎない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
女が男子を選択する位置にいた。上古の歌はおおむね男子がそのせつない心を女に伝うる機関であった。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
しかも兵士が挺身肉薄敵城を乗り取らんとする時、彼らの勇気を鼓舞する者は、抜刀隊一曲の歌ならざるべからず。大喝采的の作はおおむねかくの如し。彼らは平易にして趣味低きを要す。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
支那事変に先立つこと二十一年、我が国の人口五千万、歳費七億の時代の著作であることを思い、その論旨のおおむ正鵠せいこくを得ていることに三造は驚いた。もう少し早く読めば良かったと思った。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
同じく旅人が、「昔見しきさの小河を今見ればいよいよさやけくなりにけるかも」(巻三・三一六)という歌を作っていて効果をおさめているのは、旅人の歌調がおおむね直線的で太いからでもあろうか。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
私はただ現在のいわゆる郷土研究が、もしわが郷土を視て他を省みなかったならば、結果はおおむかくの如くなるであろうということを、例示するだけの小事業を以て、満足しようとしているのである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
本篇の主人公、勝夢酔むすいである。捧腹絶倒的な怪オヤジであるが、海舟に具わる天才と筋金はおおむね親父から貰ったものだ。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
わたくしは今これを筆にのぼするに至るまでには、文書を捜り寺院をい、また幾多の先輩知友をわずらわして解決を求めた。しかしそれはおおむね皆徒事いたずらごとであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしその規定の内容に至っては、おおむね創設に係り、貞永式目を踏襲した如く見えるものは少ないようである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
おおむね現代の文学者は、詩人でもなく美術家でもない、中途半端で雑駁ざっぱくなデモ文士にすぎないのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
もとよりその間に密確なる区劃をなさんは無稽の業に属すといへども大体の状態はおおむかくごときか。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
故に同時代の句はおおむね善し。元禄の句はこれに比すればややたるみたり。しかれどもたるみ様全体にたるみてしかもその程らひ善ければ、元禄の佳句に至りては天明の及ぶ所にあらず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
女は二十はたち以前、それから母になって後という者はおおむねそれらの欲が少くなり、または殆ど忘れる者さえあると申しますのに、近年男の文学者の諸先生の中には中年の恋と申すような事が行われます。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
江戸の精神、江戸趣味と称する通人の魂の型はおおむね荷風の流儀で、俗を笑い、古きを尊び懐しんで新しきものを軽薄とし、自分のみを高しとする。
蕪村の句には、こうした裏町の風物を叙したものが特に多く、かつおおむすぐれている。それは多分、蕪村自身が窮乏しており、終年裏町の侘住わびずまいをしていたためであろう。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
おおむね皆衣食だに給せざるを以て、これに及ぶにいとまあらざるのである。よろしく現に甲冑を有せざるものには、金十八両を貸与してこれがてしめ、年賦に依って還納せしむべきである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
 糸などを紺に染むれば糸が強く丈夫になるとは俗に言ふ所なり。されど朝顔の花は紺色のものもやはりその朝限りの命にて強くもあらずとおどけ興じたるなり。也有の句おおむねこのたぐいなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
テンム(天武)天皇の時は親政であったかと思われるが、ジトウ(持統)天皇の時はもはやそうではなくなり、それから後はおおむねフジワラ(藤原)氏などの権家けんかが実権をもつようになった。
今日の童話にはこの類型は甚だ多いが、バカがメデタシになるという特殊なテクニックはおおむね不自然でもどかしい。
日本の盲点:子供の本から (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
これはおおむねそれに接近する地域の住民の行動にまかせてあったらしく、朝廷の関与することが少く、そうして大勢においては日本民族が優者として徐々にアイヌの住地に進出していったから
子の刻頃になって、両藩の士が来て、只今七藩の家老方がこれへ出席になると知らせた。九人はね起きて迎接した。七家老の中三人が膝を進めて、かわるがわる云うのを聞けば、おおむねこうである。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
然し浄三はすでに臣籍しんせきに下った故にと固辞するので、その弟の大市をたて、宣命も作られ、輿論よろんおおむね決していた。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その仏教に関するものはおおむね圏外に抛擲ほうてきせらるるに非ざれば、すなはち過度もしくは見当違ひの非難を受くるに過ぎざりしが、近時新史学の研究せらるるに及びて、次第にその偏見なりしを発見し
仏教史家に一言す (新字旧仮名) / 津田左右吉小竹主(著)
もっとも、この精神は、ひとり日本に於て見られるばかりではなく、欧洲に於ても、古典と称せられるものはおおむ斯様かような精神から創り出されたものであった。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)