こう)” の例文
どっちも強情我慢の変物同士へんぶつどうしだ。えいッ! うむ! 喧嘩右近と魚心堂先生、一進一退、三こうの街上に不思議な綱引きをつづけている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あたりをさぐって、そとにでれば、夜は四こうやみながら、空には、女菩薩にょぼさつたちの御瞳みひとみにもる、うるわしい春の星が、またたいている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初めてぐううしのうて鰥居無聊かんきょむりょうまたでて遊ばず、ただ門につて佇立ちょりつするのみ。十五こう尽きて遊人ゆうじんようやまれなり。丫鬟あかんを見る。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
保は二月九日の母が天麩羅蕎麦てんぷらそばを食べて炬燵こたつに当り、史を談じてこうたけなわなるに至ったことを記憶している。また翌十日にも午食ごしょくに蕎麦を食べたことを記憶している。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こんな化物ぞろいのはなしは日本にもあって、一休和尚讃州旅行の節、松林中に古寺あって僧三日と住せず、化物出ると聞き、自ら望んで往き宿る。夜五こうになれば変化へんげ出て踊り狂う。
しょく尽きてこうおしめども、更尽きて客はねたり。寝ねたるあとにエレーンは、合わぬ瞼の間より男の姿の無理にひとみの奥に押し入らんとするを、幾たびか払い落さんとつとめたれどせんなし。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うん、これは五こうという意味だ」老武士は口の中で呟いた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
館ノ主人こうすすム。ソノ味京製ニ減ゼズ。五こう大ニ雨フル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
久しぶりに爽快そうかいな気を味わったが、時刻はいたって都合が悪い、もう夜半よわもすぎてやがて五こうになる頃おい、宿をとる間はなし
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして三こうがすぎて観燈の人も稀にしか通らないようになった時、稚児髷ちごまげのような髪にした女のに、かしらに二つの牡丹の花のかざりをした燈籠とうろうを持たして怪しい女が出て来たが
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
寒燈かんとうのもとになおも議をらしていたが、ただひとり暗い夜道を思案にくれてあてどもなく辿る源十郎の肩には、三こうの露のほかに苦しい金策の荷が、背も折れんばかりに重かったのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして亭主の朱富にもせきたてられて、やっとおみこしを上げたのは、五こう(夜明けがた)の残月が淡く町の屋根に傾いていた頃だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ、深々と呼吸いきづく三こうの冷気の底に
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いやお顔いろもすぐれず、ほどなく四こう(夜明け)にもなりましょう。暁とともに、ここは御発足の手筈にございますが」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しみじみと骨を刺す三こう悲雨ひう
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
で、彼はそこに席のあたたまる間もなく、月江と次郎を茶屋にのこして、またぞろ小仏の二こうを暗夜行路の人となりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このところ、夜々、月の出はこく(午後十時)過ぎ、従って、潮のざかりは、四こう丑満うしみつさがりとなりましょうか」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その晩、丑満うしみつごろに木賃宿を出て、五こうの前から以前住んでいた袋路次のかどにひそんで期すものを待ちかまえていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草原の果てに、北邙山ほくぼうざんが見えた。夜は暗い。もう三こうに近いであろう。すると一隊の人馬がおって来た。張譲は観念した。追手と直感したからである。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある夜は、木枕をならべ、薄いしとねしかつぐ五こうに、思わず、指と指のふれあって、胸をわかすこともあろう。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その夜の二こうに、宋果は、中軍から火の手をあげる合図だった。——楊奉は、外部にあって、兵を伏せていた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとを尾行つけられてはならぬと、日頃、詩文だけの交わりをしている風雅の老友を先に訪ね、わざと深更まではなしこんで、夜も三こうのころ気がついたように
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こらっ、虫食いうり、まだ帰ってはならん。宴はいつも、二こう三更(夜半)に及ぶのがならい、なぜ、うごく」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛状をうけて、池田勝入が、自身、馬をとばして来たのは、まだ夜のうちといってもよい、四こうであった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうにかけて町じゅう灰燼かいじんに帰したような大騒動だったが、全焼したのは、黄文炳のやしきだけで、つい斜向いの兄文燁の邸宅は、無事、そっくり残っている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、もう五こうの頃であった。例のごとく、まっ裸になって、清流に身をなぶらせていると、対岸のただすノ森のしもあたりから、一群の人影が川原の方へ降りて来た。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高音たかねではないが、このすんだ四こう無音界むおんかいには、それが、いつまでもえないほどゆるく流れまわって、すべてのもののねむりをいっそう深くさせるようであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水色みずいろにすみわたった五こうの空——そこに黒くまう一ようのかげもなく、ただ一せん、ピカッと熒惑星けいわくせいのそばのほしが、あおい弧線こせんをえがいてたつみから源次郎岳げんじろうだけかたへながれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行くに行かれぬ江戸をしのび、逢うに逢われぬお千絵の境遇をしのびやって、帰ることも夜更けたことも忘れていたが、四こうの鐘を聞くとにわかに気がついたものであろう。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを書きながら思い出されるのは、少年の頃、久保天随氏の演義三国志を熱読して、三こうこうまで燈下にしがみついていては、父に寝ろ寝ろといって叱られたことである。
三国志:01 序 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし四こうの頃。義貞は、朝も待たずに訪れてきた。のみならず誰も連れぬただ一人だった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明けやすい短夜みじかよである。五こうといえばもう有明ありあけの色がどこにもほのかである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またいわく、大奥の女中達七、八人吹上ふきあげの梅林に暮れて帰ると幽鬼に出会って気を失った。また曰くです、四こうの頃になると作兵衛滝さくべえだきりが止まって陰々たる人の囁きが聞こえる事があると。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わが隊は、二こうに兵糧をつかい、三更にここを立つぞ」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに四こうを感じる時刻です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗い五こうを、黒いうしおの海を。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうのころである。
その晩、二こうの頃。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)