抜刀ぬきみ)” の例文
旧字:拔刀
抜刀ぬきみの両人、文治のうしろより鋭く切掛けました。其の時早く文治は前に押えた腕を捩上ねじあげ、同役二人ににん振下ふりおろす刀の下へ突付けました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほかの者も、総て抜刀ぬきみを引っげているのだ。どの顔も皆、まなじりをつりあげ、革襷かわだすきをかけ、股立ももだちくくって、尋常な血相ではなかった。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
提灯こそ提げているが、手に抜刀ぬきみを携えている事のていが尋常でない。そこで誰何すいかしてみたその人は、元の駒井能登守であった。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、此ままでは、大井久我之助様もお気がお済みになるまい、抜刀ぬきみで脅かされた私も、町人ながら諦め切れません」
かたわらとも云ふまい。片あかりして、つめたく薄暗い、其の襖際ふすまぎわから、氷のやうな抜刀ぬきみを提げて、ぬつと出た、身のたけ抜群な男がある。なか二三じゃく隔てたばかりで、ハタと藤の局とおもてを合せた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
喬之助は、春の野に蝶を追うような様子で、フラフラとおよぐように、前へ出て来た。パラリ、結び目の解けた手拭のはしを口にくわえて、やはり、右手めてにはだらりと抜刀ぬきみげている。うつろな表情かおだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
胡麻の灰道連の小平と仁助に会って土足に掛けられ、抜刀ぬきみを突付けて、さア金を出さなければ殺すぞと云うので、多助は青くなり
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「かなり出来ている男にはちがいない。坂の下で、こう抜刀ぬきみげて、ぐっと前へ寄って来られた時は、おれですら嫌な気持がしたからな」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
綱の端は舞台の上を通って楽屋の二階のはりに結ばれたものですが、その梁のところの結び目に、抜刀ぬきみの匕首を挟んであったそうで、綱の上に乗って、いろいろの芸をしたお鈴が
柄下つかさがりに、抜刀ぬきみ刃尖上はさきあがりに背に隠して、腰をずいとして、木戸口から格子を透かすと、ちょうど梯子段はしごだんを錦絵の抜出したように下りて、今、長火鉢の処に背後うしろ向きに、すっと立った
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長い抜刀ぬきみを片手にかざしながら、橋上にただ一人で突っ立っている光景は、舟の中から見ても穏かなる振舞とは見えません——それで、手を休めて、橋上の人のなさん様を眼も離さず見ていたが
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
札木合ジャムカの手から、ばたんと抜刀ぬきみが落ちる。
受人がなければ奉公は出来ず、と云って国へけえれば抜刀ぬきみ追掛おっかけられて殺されてしまいやすから、よんどころなく此処から飛込んで死にやすが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又八の提げていた抜刀ぬきみには、犬の血が垂れていた。それを見たので、ここへ来た男は、又八の前へ立った途端から、又八をただ者でないように睨まえて
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ツイ今しがた、抜刀ぬきみで俺を追っかけた浪人だ。あれは滅多に間違える人相じゃねえ」
と三人出たから見物は段々あと退さがる、抜刀ぬきみではどんな人でも退る、豆蔵が水をくのとは違う、おっかないからはら/\と人が退きます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
膝をついて這って来る男は抜刀ぬきみを持ち、一人は素槍を持って、そっと壁を撫でながら蒲団のすそのほうへ廻った。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抜刀ぬきみを突付けて脅かした上、いつもに似気なく、たった五両奪って逃出したのです。
残りし一人ひとりが又々抜刀ぬきみを取直し、「無礼なやつ」と打掛る下を潜って一当ひとあて当てますと、やにめた蛇のように身体を反らせてしまいました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いやご丁寧なるびで痛み入る。身共こそ狼藉者の片割れかと存じて、抜刀ぬきみを向けた慌てようは面目ござらぬ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鞘を洗うように、右手にそっと置いた来国俊の抜刀ぬきみ、そのまま引っ掴んで立上った富山七之助、物も言わさず、障子から顔を出して笑って居る秋山彌十の面上へ存分に喰わせたのです。
抜刀ぬきみさやに納め、樫棒かしぼうを持ちまして文治の脊中せなかを二つつ打ちましたが、文治は少しも動く気色けしきもなく、両手をいたまゝ暫く考えて居りました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
抜刀ぬきみのままげて来た脇差は、さやへおさめて、婆の腰へ元のようにもどして与え、そして立ち去ろうとすると
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その娘の後ろから、覆面の浪人者が、抜刀ぬきみを持って飛込んだというのだろう」
其の勢いに驚きのくらいの力かと安田はとてかなわぬと思って抜刀ぬきみを持ってばら/\にげると、弥次馬に、農業を仕掛けて居た百姓衆が各々おの/\すきくわを持って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お十夜と天堂一角は、抜刀ぬきみ背後うしろへ廻して膝歩きに、ソッと、穴の両脇から、息を殺して暗い奥をのぞきこむ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後を追って部屋に入り、直八がお駒を抱え込む隙に、そこに置いた抜刀ぬきみを取って、後ろから刺し、息の絶えるのを見ると、何とはなしに下手人を誤魔化すつもりで、ふたたび死体に目隠しをさせ
げ刀で小六が立上がった時、廊下仕切りのすだれの外を、涼やかな浴衣のかげが、チラと通り過ぎたので、彼は慌てて抜刀ぬきみを背中へ廻して坐ってしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云いながら草鞋穿の足を挙げて、多助が両掌りょうてを合せて拝んでいる手と胸の間へ足を入れて、ドウンと蹴倒しまして、顛覆ひっくりかえる所を土足でふみかけ、一方かた/\の手に抜刀ぬきみを持って
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
丹之丞の手には早くも抜刀ぬきみが、連ねた灯にギラリと光ります。
平常へいじょう錠口じょうぐちよりおく平家来禁入ひらげらいきんにゅう場所ばしょであるが、いま老臣十兵衛がさきにまわってふれてあったので、一同表方おもてがた血戦けっせんしてきたままの土足どそく抜刀ぬきみ狼藉ろうぜきすがたで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼奴あいつはいけません、彼奴一体そういうたちの奴でげす、うも怪しからん、抜刀ぬきみで口説くなんて、実に詰らん訳でげすなア、だから先生もう彼奴はお止しなすってうちに置かぬ方が宜しい
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そいつらは、この先の斑鳩嶽いかるがだけに巣を喰っている山賊も同じような悪郷士で、私どもの娘を二人召使に寄こせと、抜刀ぬきみで脅して山へ引ッ張って行こうとするのでがす。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰方どなたかと思いましたら仙太郎親方でございますか、実にわたくしは昨晩とけ/″\寐ませんから、今晩はグッスリ寐ましたところへ、突然だしぬけ抜刀ぬきみで頬をたれましたから、驚いて目をさまして見ますると
みな、一ようの陣笠じんがさ小具足こぐそく手槍てやり抜刀ぬきみをひっさげて、すでに戦塵せんじんびてるようなものものしさ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
処が今茂之助のうちで女の声で、キイーキイー人殺しイと云うを聞き付け、捨置き難いと存じましたから飛び込んで見ると、茂之助が抜刀ぬきみを振廻して居ます。松五郎を目懸けて打って掛るを抱き留め
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
抜刀ぬきみをしのばせていたらしいのですが、すでに、その刃が私のこうべに下ろうとした瞬間、アア今思い出しても奇蹟です——いや私にとって、慈父たり、恩師たり、母たり
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で——孫兵衛は抜刀ぬきみを後ろ廻しにひそめたまま、屈身くっしんを伸ばして、ジッと自分の息を殺した。すると、向うの呼吸が感じられた。世阿弥はやはりそこにじっとしていたのだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あッと驚いてふりかえると、抜刀ぬきみを持った天堂と旅川が、いきなり目前へびかかってきた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と——もう天堂一角の方は、それには一顧のいとまも与えず、抜刀ぬきみをあげて川下かわしもを指し
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九鬼弥助は、したり顔をして、要心ようじん深く床下の土にヘバリつきながら、片手に抜刀ぬきみをつかんだまま、もういっそう、奥の方へ、ジリジリと身を退いて、その様子を見届けていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに今しがた、血煙の立った様子をぎ知って、わらわらと集まってきた覆面の原士は——手槍や抜刀ぬきみの光を隠して、スススと風のごとく、先へ走った編笠の影をつけて廻る。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこを押すと、壁の一端が袋戸のように開いて、抜刀ぬきみを持った三名の武者がおりひょうみたいにかがまっているのが見えた。腹心の家来、田子大弥太、早川主膳、民谷玄蕃などだった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
げた抜刀ぬきみもそのままに、時に徳川万太郎は、あとに残って再び四顧あたりを見渡しますと、雲霧の仁三、四ッ目屋の新助、いずれも素早い上に腕達者な曲者しれもの、遂に、一方を破って逃げたものでしょうか。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこかで一度、斬りつけたとみえ、右には抜刀ぬきみをさげていた。
下頭橋由来 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右の手にはその抜刀ぬきみを。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)