手探てさぐ)” の例文
懐中ふところから塵紙ちりがみして四つにつて揚子箸やうじばし手探てさぐりで、うくもちはさんで塵紙ちりがみうへせてせがれ幸之助かうのすけへ渡して自分も一つ取つて、乞
自分はあによめの方を片づけて、すぐ母の方に行った。厚い窓掛を片寄せて、手探てさぐりに探って見ると、案外にも立派に硝子戸ガラスどまっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれど、そこは、手探てさぐりではかりきれないほどな広さであった。たたみ数にしたら、およそ七、八十畳も敷けているかと思われる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くちでそういわれても、勝手かってらないやみなかでは、手探てさぐりも容易よういでなく、まつろうやぶたたみうえを、小気味悪こきみわるまわった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ねずみが二三びきがた/\とさわいで、なにかでおさへつけられたかとおもふやうにちう/\とくるしげなこゑたていた。おつぎは手探てさぐりに壁際かべぎは草刈鎌くさかりがまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いっそ、頭を前へ突き出し、鶏小舎めがけて、いいかげんにけ出したほうがましだ。そこには、隠れるところがあるからだ。手探てさぐりで、戸のかぎをつかむ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ガドルフはしゃがんでくらやみの背嚢をつかみ、手探てさぐりでひらいて、小さな器械きかいたぐいにさわってみました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さうしてつかまう/\とする要求えうきうはげしくなればなるほど強くなつて來るのは、それにたいする失望しつばうの心でした。私達はやみの中に手探てさぐりで何かを探しまはつてゐました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
手探てさぐりに、戸口を探しあて、おづ/\と、ノックした時には、私はもう泊めてもらふなどゝいふことは、ほんの空想に過ぎないやうな氣がしてゐた。ハナァは戸を開けた。
あがれ、二階にかいへと、マツチを手探てさぐりでランプをけるのにれてるから、いきなりさきつて、すぐの階子段はしごだんあがつて、ふすまをけると、むツとけむりのくらむよりさきに、つくゑまへ
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
めしひた中を手探てさぐりで夢とうつつに歩いてゆく
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
お延のこしらえてくれた縕袍どてらえり手探てさぐりに探って、黒八丈くろはちじょうの下から抜き取った小楊枝こようじで、しきりに前歯をほじくり始めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云いながら手探てさぐりにて取出したのは黒塗くろぬりの小さい厨子ずしで、お虎の前へ置き。
燕作も石段の数をふんでいく……と道はふたたび平地ひらちの坂となり、それをあくまで進みきると、こんどこそほんとうのゆきづまり、手探てさぐりにも知れるくろがねとびらが、ゆく手の先をふさいでいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は手探てさぐりした。私は、彼の探る手を捉へて、私の兩手の中に握り締めた。
はしらけてあるランプのひかりとゞかぬのでおつぎは手探てさぐりでしてる。おしな左手ひだりていた與吉よきちくちはしさきすこママふくませながら雜炊ざふすゐをたべた。おしないもを三つ四つはしてゝ與吉よきちたせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
バタシーを通り越して、手探てさぐりをしないばかりに向うの岡へ足を向けたが、岡の上は仕舞屋しもたやばかりである。同じような横町が幾筋も並行へいこうして、青天のもとでもまぎれやすい。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うかしてうすくとも見えるやうにしてげたいと思つて、茅場町かやばちやう薬師やくしさまへ願掛ぐわんがけをして、わたし手探てさぐりでも御飯ごぜんぐらゐはけますから、わたしつぶしても梅喜ばいきさんのけてくださるやう
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)