患者かんじゃ)” の例文
薄汚うすよごれている。入口の階段に患者かんじゃが灰色にうずくまったりしている。そんなことが一層この橋の感じをしょんぼりさせているのだろう。
馬地獄 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「先生、一体この患者かんじゃはいつ頃まで持つ御見込みなんでしょう? もし長く持つようでしたら、私はお暇を頂きたいんですが。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下宿げしゅくには書物しょもつはただ一さつ『千八百八十一年度ねんどヴィンナ大学病院だいがくびょういん最近さいきん処方しょほう』とだいするもので、かれ患者かんじゃところときにはかならずそれをたずさえる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
かたわらには患者かんじゃひかしつがあって、そこをぬけると、薬品やくひんのにおいのする診察室しんさつしつがあり、ならんで座敷ざしきになっていました。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひとりのコレラ患者かんじゃのために全校の生徒を殺すことはできません、阪井については師範校からも苦情がきております、かれの父はかれよりも凶悪です
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
柳田歯科医院に着いたら、患者かんじゃが数名ひかしつに待っていた。しかし照彦様は特別だから、おくさんの案内で客間から治療室へ通って、すぐに椅子にかけた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ただちがうのは整形病院では、ギプス型を患者かんじゃがはいってくるたんびにとるのですが、この心のなかでは、人がでていったあとで型をとって、保存されることでした。
丁度、その日光室の中には快癒期かいゆき患者かんじゃらしい外国人が一人、籐椅子とういすもたれていたが、それがひょいと上半身を起して、私たちの方をものげなまなざしで眺め出した。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「いや、遅くなった。患者かんじゃが来たもんで(と、『患者』という言葉に力を入れて発音しながら)手間がとれちまった。だが、おびのしるしに、お土産を持ってきたよ、ほら……」
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もし天然痘のおそろしさを知り、天然痘にかかった患者かんじゃの身体のものすごさを一目でも見たならば、本当に、種痘法を発見した人をおがまずにはいられなくなるのであります。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
荒田老の怪物かいぶつのような顔とならんで、まだ一度も見たことのない小関という人の顔がうかんで来たが、それは血色のわるい、ほおのこけた胃病患者かんじゃのような顔で、眼だけがいやに光っていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一つフロックコートで患者かんじゃけ、食事しょくじもし、きゃくにもく。しかしそれはかれ吝嗇りんしょくなるのではなく、扮装なりなどにはまった無頓着むとんじゃくなのにるのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
谷村博士はどうしたのだろう? もっとも向うの身になって見れば、母一人が患者かんじゃではなし、今頃はまだ便々べんべんと、回診かいしんか何かをしているかも知れない。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
院長いんちょうは、きたときいては、ててもおけなかったのでした。どんな身分みぶん患者かんじゃであって、またどこがわるいのか、それをりたいという職業意識しょくぎょういしきこって
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あまりにぎやかだったので、ひかしつから患者かんじゃがのぞきにきた。柳田さんは手早く治療をおわって
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なかんずく、病中の患者かんじゃのありさまは、目もあてられぬほど、いたいたしいものです。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
患者かんじゃおおいのに時間じかんすくない、で、いつも簡単かんたん質問しつもんと、塗薬ぬりぐすりか、※麻子油位ひましあぶらぐらいくすりわたしてるのにとどまっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ちょうど、悪寒おかんおそわれた患者かんじゃのように、常磐木ときわぎは、そのくろ姿すがたやみなかで、しきりに身震みぶるいしていました。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから一日か二日すると、お蓮——本名は孟蕙蓮もうけいれんは、もうこのK脳病院の患者かんじゃの一人になっていたんだ。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「しかしあれは不意打ちを食ったからでしょう? 患者かんじゃにかまれるとは思わなかったんです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
患者かんじゃが門前に殺到さっとうし、寸暇すんかもない有様ありさまとなってしまいました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
その患者かんじゃはこう云いかけて、急に疑わしそうな眼を俊助へ向けると、気味の悪いほど真剣な調子になって
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おな場所ばしょで、おとなにもどく患者かんじゃがいました。べついがいないので、不自由ふじゆうするのをると、おたけは、そんなひとには、できるだけのしんせつをしたのでした。
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
獣医じゅういのもとへいってみますと、ほかにもたくさんの、病気びようきいぬねこ入院にゅういんしていました。ほかの病気びょうきいぬは、おりなかから、くびをかしげて、あらたにきた患者かんじゃをながめていました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
五分刈ごぶがりに刈った頭でも、紺飛白こんがすりらしい着物でも、ほとんど清太郎とそっくりである。しかしおとといも喀血かっけつした患者かんじゃの清太郎が出て来るはずはない。いわんやそんな真似まねをしたりするはずはない。
春の夜 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どの病室びょうしつにも、顔色かおいろわる患者かんじゃが、ベッドのうえよこたわったり、あるいは、すわったりして、さも怠屈たいくつそうに、やがてれかかろうとする、窓際まどぎわ光線こうせん希望きぼうなくつめているのでした。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それが、なんで病床びょうしょうよこたわる、患者かんじゃたちの安静あんせいさまたげずにおくことがありましょう。おばあさんは、ついにたまりかねて、足音あしおとをたてぬように、階段かいだんりると、ようすをそとていきました。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
患者かんじゃひかしつは、たくさんのひとで、いっぱいでした。
世の中のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
患者かんじゃがみえましたが。」と、げました。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)