怨念おんねん)” の例文
亡き勝家の怨念おんねんをなぐさめ、しずたけ中入なかいりの不覚の罪を、ひたすら詫びせん心底なり——と、平然として云い払うのでありました
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと同時に、その人は又、その辺一体にみなぎる、怨念おんねんというか、鬼気というか、兎も角も一種の戦慄せんりつに襲われないではいられぬでありましょう。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
伊右衛門は何だかお岩の怨念おんねんのような気がして気もちが悪かった。伊右衛門はやけにその蛇の胴中をむずとつかんで裏の藪へ持って往って捨てた。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
またこの希望のぞみが、幽霊や怨念おんねんの、念願と同じ事でござりましての、このつら一つを出したばかりで大概の方はげますで。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるいは死したる後のみならず、生時にありてもその怨念おんねんが人を悩ますことができると思っておる。これ、世のいわゆるたたりの妄説の起こるわけじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
思い出すと忌々いまいましい。その怨念おんねんが息子に伝わり、孫の津島君に乗り移って、今だに晩酌の都度祟りをするのである。
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
両人が怨念おんねんなか/\退散致さゞるものと見え、先年大木より滑り落ち候時の打身うちみその年の秋よりにわかはげしく相なり候上、引続き余病もいろ/\差加さしくわはり
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「だから、怨念おんねんはどうしても女の方に残る、けて出たとかれて出たとかいうのは、大抵は女にきまっている」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
九月に入ると、肥州ひしゅう温泉うんぜんだけが、数日にわたって鳴動した。頂上の噴火口に投げ込まれた切支丹宗徒きりしたんしゅうと怨念おんねんのなす業だという流言が、肥筑ひちくの人々をおそれしめた。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おおそれまでによく申したぞ! 改心なさば助けんものと理を尽くして訓すといえど益〻修羅の怨念おんねんを燃やし悪鬼羅刹らせつの毒舌を揮い、この世をけがすというからには
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「文句なんかありゃしないわ、文句なんかないけれど、もうとり殺す相手はないし、あたしは怨念おんねんのゆうれいだからうかばれないし、宙に迷ってゆきばがなくなっちゃったのよ」
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ふたつの品に何かのぶきみな怨念おんねんでもが残っていると思うより思いようがない……。
かの烈々れつれつたる怨念おんねんの跡無く消ゆるとともに、一旦れにし愛慕の情は又泉のくらんやうに起りて、その胸にみなぎりぬ。苦からず、人き後の愛慕は、何の思かこれに似る者あらん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
死霊しにりょう生霊いきりょう乗り移るということ聞いてますけど、何や光子さんの様子いうたら、綿貫の怨念おんねんたたってるみたいに日増しにすさんで来なさって、ぞうッと身の毛のよだつようなことありますのんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
又極楽の写真を見た事もございませんから当にはなりませんが、併し悪い事をすると怨念おんねんが取付くから悪事はするな、死んで地獄へくとの如く牛頭ごず馬頭めずの鬼に責められて実にどうもくるしみをする
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ついに敢えなくなりたまう、その梨の木は、亭々として今も谿間にあれど、果は皮が厚く、渋くて喰われたものでない、秀綱卿の怨念おんねんこの世に残って、あだをしたやからは皆癩病になってもがじにに死んだため
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
名家の屋形にはけちがついたのである。姫の怨念おんねんは八重垣落しの断崖のあたりをさまよっていて、屋形に凶事きょうじのある前には気味のわるい笑い声がしきりに聞え、吉事きつじにはさめざめとくけはいがする。
そなたの怨念おんねんが、人に乗りうつッての仕業しわざなのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ああ、永遠のすまうどよ、噫、怨念おんねんのはらからよ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
いうまでもない。妻のあだ、遠藤盛遠えんどうもりとおを討たずにはと、怨念おんねんにかられて、旅立ちしたにちがいない。まちをあるけば、あれが、妻を
いいや、小石姫が殺されまして以来毎晩この石が泣くようになったと申します。姫の怨念おんねんが石にこもったのでございます。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
嫉妬、怨念おんねん、その業因があればこそ、何の、中気やかて見事に治療をして見せる親身の妹——尼の示現のきゅうも、そのかいがなかったというもんやぞ、に。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古い西洋館の隅々に悪鬼の怨念おんねんが潜んでいるかと疑われ、殊にあの三階の円塔は、魑魅魍魎ちみもうりょうみかのようにさえ思われて、誰もその付近へ近よるものもない有様であった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だから、あの時の怨念おんねんが残るとすれば、拙者につかないで、君の上に取りつくのが当然だ
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「薪十郎のあの怨念おんねん! 盲人怨めくらうらみという奴さねえ! ゾッとするようなところがあるよ。だがマアマアあんな三下、恐くはなくて厭らしいだけさ。でも幹之介さんは気の毒だねえ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わしは与右衛門の女房の累じゃ、与右衛門は、わしが容貌きりょうが悪いから、わしを絹川へ突き落したによって、その怨念おんねんを晴らすために来た、今、与右衛門は逃げて法蔵寺に隠れておる、あれを
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
吉宗が生あるうちには、きっと、牢に人なき世を作って見せるであろう。それを以て、過去の怨念おんねんの民は、をゆるしてくれよ
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怨念おんねん大鰻おおうなぎ古鯰ふるなまず太岩魚ふといわな、化ける鳥はさぎ、山鳥。声はふくろ、山伏の吹く貝、磔場はりつけば夜半よわ竹法螺たけぼら、焼跡の呻唸声うめきごえ
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実に、寸毫すんごうといえども意趣遺恨はありません。けれども、未練と、執着しゅうぢゃくと、愚癡ぐちと、卑劣と、悪趣と、怨念おんねんと、もっと直截ちょくせつに申せば、狂乱があったのです。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれど今度という今度こそは、武蔵に対して、七生までのかたきのような怨念おんねんかもされてしまった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地獄の釜も、按摩の怨念おんねんも、それから思着いたものだと思う。一国の美術家でさえ模倣をる、いわんや村の若衆わかしゅにおいてをや、よくない真似をしたのである。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われ秀吉、微身たりとも、君が怨念おんねんと遺託に、なんでこたえ奉らずにあるべきや
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(お雪や、これは嫉妬しっと狂死くるいじにをした怨念おんねんだ。これをここへ呼び出したのも外じゃない、お前を復してやるその用に使うのだ。)と申しましてね、お神さんは突然いきなり袖をまくって
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父母聞きて怨念おんねん胸にふさがり
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怨念おんねんの蛇がぬらぬらと出たり、魔界のちまたに旅人が徜徉さまよったり。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)