幇間たいこもち)” の例文
この頃京都みやこで評判の高い、多門兵衛たもんひょうえという弁才坊(今日のいわゆる幇間たいこもち)と、十八になる娘の民弥たみや、二人の住んでいる屋敷である。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
煙草の火に炭団たどんを埋めた瀬戸の火桶を中に、三吉、伊勢源、それから下っ引彦兵衛と、死んだ栄太と親交のあったという幇間たいこもち桜井さくらいなにがし
次に呼出されたのは幇間たいこもちの理八、五十がらみのよく肥った男で、小唄を上手に歌うのと、軽口がうまいので人気のある男芸者です。
もう地獄ぢごくへも汽車きしや出来できたかえ、おどろいたね。甲「へえゝどうも旦那だんな、誠にしばらく……。岩「いやア、アハヽヽこれは吉原よしはら幇間たいこもち民仲みんちうだね。 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ござんせん」がイヤに「ござんせん」れがして甘ったるい。寄席よせ芸人か、幇間たいこもちか、長唄つづみ望月もちづき一派か……といった塩梅あんばいだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
第五番に、檜扇ひおうぎ取って練る約束の、おのがお珊の、市随一のはれの姿を見ようため、芸妓げいこ幇間たいこもちをずらりと並べて、宵からここに座を構えた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
落語家はなしかでも、幇間たいこもちでも、田舍藝者でも、不良少年でも、殿樣でも、何れも小説家のやうにもつともらしく、理窟つぽい心理的開展を示して
藤井六輔ろくすけとか小堀誠などは自分の家のようにまめに働いていた。芸妓、各遊芸の家元たち、はなしか、幇間たいこもち、集ればワッワッいう騒ぎだった。
「榊が居ると思わないで、ここに幇間たいこもちが一人居ると思ってくれ給え——ねえ、橋本君、まあお互にそんなもんじゃないか」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
清麗な老嬢は、その時、石をぶつけられた藪鶯やぶうぐいすのように吃驚びっくりした声をして、幇間たいこもちの桜川をいて灸点師きゅうてんしの前へ走っていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌朝、例によって、「飛鳥あすか」が遅い朝食をしているところへ、幇間たいこもちの胡蝶屋豆八が、あわただしげに、飛びこんで来た。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
幇間たいこもちでは東川喜久八が洗錬されていて、十八番は江戸前の獅子。市川音頭も彼の作詩で例年夏の夜を、江戸川花火、七いろの光を浴びては妓たちが踊る。
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ところがいつか美音会の忘年会のあった時、その番組を見たら、吉原の幇間たいこもちの茶番だの何だのがならべて書いてあるうちに、私はたった一人の当時の旧友を見出した。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三年、幇間たいこもちを三年、モグリ弁護士を三年やって来てからでなくちゃ、本当の仕事師には成れねえ
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
世人せじんの気に入るように文を書くという人もあるが、世人の気に入るのは幇間たいこもちの仕事と同じ事だ。恋愛小説を書いて青年男女にびようとするのは幇間が旦那だんなを取り巻くとことなる処はない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
だれでもよいから幇間たいこもちをひとり呼べというご注文だとか申しましてな、こちらの菱屋びしやさまからてまえのところにお座敷をかけてくださいましたんで、なんの気もなく伺いましたら、今
文士ぢやの詩人ぢやの大家ぢやの云ふが女の生れ損ひぢや、幇間たいこもちの成り損ひぢや、芸人の出来損ひぢや。苟くも気骨のある丈夫をとこの風上に置くもんぢやないぞ。汝もだ隠居して腐つて了ふ齢ぢやなし。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「とんでもない、あつしは幇間たいこもちですよ親分。里見屋の若旦那が一番の施主せしゆで、あの方が亡くなれば、路頭に迷ふあつしぢやありませんか」
伊「ハヽア分った、お前は世の中のことを知らない人間だの、それは吉原の幇間たいこもちの正孝が来たのじゃアねえかえ、幇間たいこもちの事は幇間ほうかんというぜ」
けだし首尾の松の下だけの英雄で、初めから、一人供をした幇間たいこもちが慌てて留めるのは知れている。なぜにその手を取って引上げて見なかったろう。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京では、山谷に一軒借りて、世帯を持ったが、荻江節おぎえぶしで吉原へ出入りするうちに、金瓶大黒の楼主の大黒屋金兵衛の世話で、幇間たいこもちの鑑札をうけた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
意外にも下劣卑賤な人間が多く、中には幇間たいこもちにも劣る連中を發見して忽ち愛想をつかしたのであつた。
放蕩児ほうとうじが金を散じる時の所作しょさはまず大同小異である、幇間たいこもちにきせる羽織が一枚か百枚の差である。
盛んな三味線の音は水に響いて楽しそうに聞える。全盛を極める人があるらしい。何時いつの間にか、榊や正太は腰の低い「幇間たいこもち」で無かった。意気昂然こうぜんとした客であった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
芸者が四五人、胡蝶屋豆八こちょうやまめはちという、小柄で、びっこ幇間たいこもちが一人、巡査も二三人、まじっていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
医術のほうの手腕うでは大したことはないらしいが、幇間たいこもち的な、辯巧べんこうの達者な男なので、この脇坂山城守をはじめ、こういう大所おおどころを病家に持って、無礼御免に出入りしているのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
途中で古本屋しょうばいがイヤンなっちゃって、見よう見真似の落語家はなしかになったり、幇間たいこもちになったりしましたが、やっぱり皮切りの商売がよろしいようで、人間迷っちゃ損で御座いますナ。
悪魔祈祷書 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そこらの幇間たいこもちかて敵わんぐらい、せいらい、お世辞つかわんならん思うてんね」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「へえい。吉原よしわら蛸平たこへい様とおっしゃる幇間たいこもちのかたでござりました」
まだ一本になったばかりのお駒が、赤の他人の、初老近い幇間たいこもちの世話を焼くのは、余程どうかした心掛けでなければなりません。
昨日きのう吉原町の幇間たいこもちがまいりまして、だん/″\の話の末全く花魁のおもいういうことになったのだから、足を切るには及ばない、叔母さんに詫ことをして
幇間たいこもちが先へ廻って、あの五重の塔の天辺てっぺんへ上って、わなわな震えながら雲雀笛ひばりぶえをピイ、はどうです。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一つどぎもをぬいてやれと、それまで、お茶坊主役をつとめていた幇間たいこもちの連中が、金屏風きんびょうぶをとらせて、もう秋ではあったが、揃い浴衣ゆかた赤襷あかだすきで、かっぽれを踊って出た。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幇間たいこもちはやめて、花柳界や、夜の盛り場を歩く辻占売つじうらうりになっていた。大福帳をかついでいる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その後ろに從ふのは、幇間たいこもちが二人、燗番かんばん一人、盜食ぬすみぐひや夜逃げはするかも知れませんが、人間一匹殺せる人相のはをりません。
幇間たいこもち三八の腰障子のって有る台所に立ちましたのは、奧州屋の女房おふみ、三歳みッつに成る子をおぶいまして、七歳なゝつに成るおとよという子に手を引かれて居ります。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なぜ、おめえは、秤量はかりなんぞを、腰に差していねえで、幇間たいこもちにならなかったか」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裏は天地で間に合っても、裲襠しかけの色は変えねばならず、茶は切れる、時計はとまる、小間物屋は朝から来る、朋輩は落籍ひくのがある、内証では小児こどもが死ぬ、書記の内へ水がつく、幇間たいこもちがはな会をやる
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その後に従うのは、幇間たいこもちが二人、燗番一人、盗み食いや夜逃げはするかも知れませんが、人間一匹殺せる人相のはありません。
伊「何んでえ、仲の幇間たいこもちだから花魁の贔屓ひいきをしねえな「幇間ドラを打たして陣を引き」と云う川柳の通りで、己が勘当にでもされたらばつば引掛ひっかけやしめえ」
新吉原のまざりみせ旭丸屋あさひまるや裏階子うらばしごで、幇間たいこもち次郎庵じろあんが三つならんだ真中まんなかかわやで肝を消し、表大広間へ遁上にげのぼる、その階子の中段で、やせた遊女おいらんが崩れた島田で、うつむけにさめざめ泣いているのを
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ですからさ、幇間たいこもちの張のせがれの、張二ちょうじなんで」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人久兵衞夫婦、許婚の新六郎、妹のお鳥、手代の周次郎、それに幇間たいこもちの豊年、藝者の小奴、お酌のお春、船頭の友吉、なか/\の人數です。
ごくあたまだった処の福吉ふくきち、おかね、小芳こよし雛吉ひなきち延吉のぶきち小玉こたま、小さん、などという皆其の頃の有名の女ばかり、鳥羽屋五蝶とばやごちょう壽樂じゅらくと申します幇間たいこもちが二人、れは一寸ちょっと荻江節おぎえぶしもやります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「貸座敷——女郎屋じょろやの亭主かい。おともはざっと幇間たいこもちだな。」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういえば、船頭も漁師も、幇間たいこもちも番頭も、腹の中では新六を怨むかさげすむか、とにかく良くは思っていない様子です。
是から歳暮くれに成りますると少し不都合で愚痴ぐずばかり云っている処へ、幇間たいこもちの三八
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「姉は——幇間たいこもちの七平をうらんでいました。あの人がお袖さんに頼まれて、余計な事を言い触らしたばかりに、菊次郎さんと切れてしまったんです」
數「いや形が変って妙だ、幇間たいこもちは口軽だというが、何か面白いことを云いなさい」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「姉は——幇間たいこもちの七平をうらんで居ました。あの人がお袖さんに頼まれて、餘計な事を言ひ觸らしたばかりに、菊次郎さんと切れてしまつたんです」