屑屋くずや)” の例文
そして有用な観念はそういう所にこそ存する。全体としてはパリーが一番すぐれている。パリーでは、屑屋くずやに至るまで遊蕩児ゆうとうじである。
むろんその時分には二人とも青春なんかドッカへ行っちゃって貧乏屑屋くずや股引ももひきみたいに、無意味に並んでいるだけの状態だったからね。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
日の来るのを待つらしく、酒のみの堀田伊太夫、ロクにない浪宅の道具を片っぱしから屑屋くずやに売っては、気前よく酒をのんでいる。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヘルゴランズガアドをちょっと這入った横町に、古道具店——とより屑屋くずやといったほうが適確なレクトル・エケクランツの家がある。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
二人の親たちも同じような育ちかたで、五郎吉の父はぼてふりの魚屋であり、おふみの父は屑屋くずやや、人足や、手伝いなどを転々としていた。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ここに世帯を持ってから、屑屋くずやにも売られずに残っていることが思い出のたね。和田へ来るとき甲州の姉が贈ってくれたこの袷。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこはよくしたもので、各寺々にはそれぞれ湯灌場買いという屑屋くずやと古道具屋を兼ねたような者が出入りをして、こういう払い物を安価やすく引き取る。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それには当人を捕えて聞きただすよりほかに方法はあるまいとのみ速断して、その結果は朋友に冷かされたり、屑屋くずや流に駒込近傍を徘徊はいかいしたのである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
捨ててこようかとも思ったが、NやIもいたし、それよりも母のことを思いだすと、屑屋くずやにも払いかねたと語った。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
時に年老いたる屑屋くずやあり。包を背負うたる洗濯ばばあり。おなじく境内にらんとせしが、また車のために抑留さる。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう云って片手でぱっぱっと煙を吐きながら、もう好い加減屑屋くずやへ売っても惜しくなさそうな旅行れのしたスーツケースを、寝台の上へ一杯にひろげた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
笹村が前の家から持って来たはぎの根などを土にけていると、お銀は外へ長火鉢などを見に出て行った。古い方は引っ越すとき屑屋くずやの手に渡ってしまった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
按摩あんまと、屑屋くずやと、人足と、占者と、地紙売とが住んで、仕舞い忘れた洗濯物くらいは狙うかも知れませんが、人の命などを狙いそうなのは一人もありません。
或人自ら屑屋くずやと名のり「屑籠くずかごの中よりふとたけ里人さとびとの歌論を見つけ出してこれを読むにイヤハヤ御高論……」
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
もう世にないので遺憾である(ことによると屑屋くずやの手から製紙会社にわたって、この原稿紙か、新青年のこのページあたりにそれが使われているかもしれぬが)
「陰獣」その他 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
骸炭がいたんのザクザクした道をはさんで、煤けた軒が不透明なあくびをしているような町だった。駄菓子屋、うどんや、屑屋くずや、貸蒲団屋、まるで荷物列車のような町だ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「……屑屋くずやに売ったっても可いじゃないか……なにも書いたものをそんなに焼かなくっても……」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だからお前さんさえ開閉あけたてを厳重に仕ておくれならア安心だが、お前さんも知ってるだろう此里ここはコソコソ泥棒や屑屋くずやの悪いやつ漂行うろうろするから油断も間際すきもなりや仕ない。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
西那須にしなすからは三島通庸つうよう君が栃木県令時代に俗論を排して開いた名高い三島道路。先頭に立ったのが吉岡虎髯こぜん将軍、屑屋くずやに払ったらば三銭五厘位のボロ洋傘こうもりをつき立てて進む。
ただ一揉みに屑屋くずやを飛ばし二揉み揉んでは二階をじ取り、三たび揉んでは某寺なにがしでらをものの見事についやくずし、どうどうどっとときをあぐるそのたびごとに心を冷やし胸を騒がす人々の
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これよりようや米塩べいえんの資を得たれども、彼が出京せし当時はほとんど着のみ着のままにて、諸道具は一切屑屋くずやに売り払い、ついには火鉢の五徳ごとくまでに手を附けて、わずかに餓死がしを免がるるなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そして一人者のなんでも整頓せいとんする癖で、新聞を丁寧に畳んで、居間の縁側の隅に出して置いた。こうして置けば、女中がランプの掃除に使って、余って不用になると、屑屋くずやに売るのである。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
建物の大きさからいっても、住心地すみごこちの上からいっても、また保存年限の長さから見ても、こういうのは、もうけっして苅穂かりほのいほではない。屑屋くずやどころか材料にえらい費用がかかっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
庄「いやそれは困りました、屑屋くずやでも来たら何か払っておいたら宜かろう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「デカダンだよ。屑屋くずやに売ってしまっても、いいんだけどもね。」
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
「まあ、この散らかし方! まるで屑屋くずやさんのようですわ。」
アルシュ・マリオンに達する長い丸天井の隘路あいろの下に、少しも破損していない屑屋くずやかごが一つあったことは、鑑識家らの嘆賞を買い得た。
もう屑屋くずやでもなければ買わないような物ばかりで、それを売るのもおひさの役になった。すると或る日、おひさが一面の古鏡を捜しだして来た。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
品物といえば釘の折でも、屑屋くずやへ売るのにほしい処。……返事を出す端書が買えないんですから、配達をさせるなぞは思いもよらず……急いで取りに行く。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路地の外に頑張って、しばらく様子を見ていると、鉄砲笊てっぽうざるを担いだ屑屋くずやが一人、何にも言わずにノソノソと入って行きます。多分、この路地の中に住む店子たなこの一人でしょう。
「よくよく末子さんも、あの洋服がいやになったと見えますよ。もしかしたら、屑屋くずやに売ってくれてもいいなんて……」これほどの移りやすさが年若としわかな娘の内に潜んでいようとは
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
捨てんか捨てんか、捨てたりともしろかねの猫にあらねば門前の童子もよも拾はじ。売らんか売らんか、売りたりとも金箔きんぱくげたる羽子板にも劣りていたづらに屑屋くずやみ倒されん。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いくら屑屋くずやだからって、親一人子ひとりの母親を、こんな、反古ほごやボロッ切れや、古金なんかと同居さしといてサ、自分は平気で暇さえあれァ、そうやって酒ばっかりくらっていやアがる
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そんな物を、誰に頼まれてひねくり廻すのだ、早く屑屋くずやに売ってしまえ」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お母様が屑屋くずやに頼んで反古紙ほごがみを沢山に買って合わせ紙というのをお作りになるのでしたが、それが又大変で、秋日のさすお庭から畠から、お縁側まで一パイに干してあることがよくありました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
井深は細君のすすめまかせてこの縁喜えんぎの悪い画を、五銭で屑屋くずやに売り払った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
パラソルを二十銭で屑屋くずやに売った。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
まとめておいて屑屋くずやへ払うんですが、その中からいくらかましなのを抜いておいて売るんです、侍長屋の人間や小者たちは結構よろこんで買いましたよ
末っ子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そう言えばまあそうですね。」と屑屋くずやはつつましく答えた。「私にはこれでもきまった仕事がありますからね。」
中に、目の鋭い屑屋くずやが一人、はしかごを両方に下げて、挟んで食えそうな首は無しか、とじろじろと睨廻ねめまわす。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古筆こひつ軸物じくものとか、三島の香盒こうごうとかは、いずれ屑屋くずやか何かで捜してお返しいたします。ヘエ——
読者のうちでただ屑屋くずやだけだろうと云われたって仕方がない。
元日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ときばかりまえに屑屋くずやだの古道具屋がまいりまして、昨日すっかり値踏みもし代物も払ってあるということで、へい、なにもかも持ち運んでっちめえまして
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かくて狸穴まみあなほとりなる狭隘路せまきみち行懸ゆきかかれば、馬車の前途ゆくてに当って往来の中央まなかに、大の字に寝たる屑屋くずやあり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
テュイルリー宮殿の財宝のひつぎは、一八四八年にはだれからまもられていたか。サン・タントアーヌ郭外の屑屋くずやどもからではなかったか。ぼろは宝物の前に番をしたのである。
屑屋くずや周助しゅうすけが殺されました。
十一の時まで浅草俵町たわらまちの質屋の赤煉瓦あかれんがと、屑屋くずやの横窓との間の狭い路地を入った突当りの貧乏長家に育って、納豆を食い、水を飲み、夜はお稲荷いなりさんの声を聞いて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すなわち、泥を掃き除ける溝渫どぶさらい人と、ぼろを集める屑屋くずやとである。
「いいえさ、こちらへおいでなさらない前にさ、屑屋くずやをしていらっした時の事ですよ。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……都合があって、私と二人で自炊じすいをして、古襦袢ふるじゅばん、ぼろまでを脱ぎ、木綿の帯を半分に裂いて屑屋くずやに売って、ぽんぽち米を一升炊きした、その時分はそれほど懇意だったのですが。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)