もっと)” の例文
さて、これはこれでよいとして、こう書いて来た順序として何かもっともらしいことを云って、この茶話のしめくくりをつけたいものだ。
今昔茶話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もっともこの物語の後に於て判るように、このことがどんな事実であるかということを明瞭めいりょうに知っているはずの二つの関係があるのですが
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
もっとも、こんな尻切しりきれトンボのような狂言を実際舞台でやれるかどうかは知りませんが、決して無邪気に笑うことはできないでしょう。
文学のふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もっとも夫人の場合は厄挫やくざな兄の無心が当面の問題でなかった。常からある一般的不平が昨日の書面と今日の電報で刺戟されたのだった。
或良人の惨敗 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
だから日本歴史全部のうちでもっとも先生の心を刺戟したものは、日本人がどうして西洋と接触し始めて、またその影響がどう働らいて
もっとも懐疑論という立場を離れて、懐疑そのものを考えると、懐疑には重要な意味がある。すべての知的探求は懐疑に始まるのである。
哲学入門 (新字新仮名) / 三木清(著)
平次の言うのはもっともでした。行方不明の子供の迷子札が、親の財布へ入っているのは、そうでも考えなければテニヲハが合いません。
もっとも、わたくしは弟子のしつけ方は随分きびしい方で、世間ではかみなり師匠とか云っているそうですが、いかにわたくしが雷でも
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もっとも外国でこの種の研究が行われていない一つの理由は、日本に較べて、雪の質が物の運搬に適していることによるのかもしれない。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これをよい時機として役者をめようとしたのであったならば、貞奴の光彩のなくなったのももっともだと、うなずかなければならないのは
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いや、これに対しても、いまさらよそうちへとも言いたくなし、もっと其家そこをよしては、今頃間貸まがしをする農家ぐらいなものでしょうから。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも、もう二三日すると二七日ふたなぬかが来るから、事に依ると敬吾が帰って来るかも知れぬが……というのがお神さんの話の概要であった。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もっとも観察の精疎は直に句の価値を決定する所以にはならぬから、以上の理由だけを以て、この句をすぐれたものとするわけではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
林「もっとも旦那様のお声がゝりで、林藏に世帯しょたいを持たせるが、女房がなくって不自由だから往ってやれと仰しゃって下さればなア……」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
若者わかものこころよけ、ただちにその準備したくにかかりました。もっと準備したくってもべつにそううるさい手続てつづきのあるのでもなんでもございませぬ。
もっとも、終戦直後、GIたちの、おこぼれを頂戴して飲んだ頃は、うまいなあと思った。僕は、併し、ペプシコーラの方が好きだったが。
清涼飲料 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
もっとも大分以前から、彼が病気で床についた切りだということは聞いていたのだけれど、それにしても、あの自分をうるさくつけ狙って
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
家族は七重ななえと申す妻とふたり残念ながらいまだ子にめぐまれておりません、もっとも右はすでに御奉行役所へ届け出たとおりでございます
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もっとも右に述べたのは、皆新聞紙上に表れた者のみであるから、勿論吾人の視聴に触れない、幾多の巾幗きんかく登山者があったに相違ない。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
もっともむかし王定国という人が彼の書を巧みでないといったそうで、黄山谷自身も、この詩巻を書いた時は背中にできものができていて
黄山谷について (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
もっとも沼南は極めて多忙で、地方の有志者などが頻繁ひんぱんに出入していたから、我々閑人ひまじんにユックリすわり込まれるのは迷惑だったに違いない。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「老人」を読んだ人は老人にも同情し、妾をももっともだと思い、その中の何人にも人間らしい親しみを感ぜずにはいられないだろう。
志賀直哉氏の作品 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もっとも、この村から牧場のあるところへは、更に一里半ばかり上らなければ成らない。案内なしに、私などの行かれる場処では無かった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかるに南蛮宗は一切の施物せもつを受けず、かえつてこれほどこして下民げみん……いや人民の甘心を買ひ、わが一党の邪魔をすることもっとも奇怪なり。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
もっと靴下くつしたもポケットに入ってゐるし必ず下らなければならないといふことはない、けれどもやっぱりこっちを行かう。あゝいゝ気持だ。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
もっともそれが村の不文律を裏切った行為であるというのを知らなかった者である故、あたり前なら一先ず見逃さるべきはずだったが
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
「お前が聞こうという気さえもって居れば、きっと聞えるにちがいないんだ、もっともおまえにその気がなければ仕方がないが……。」
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
もっとも苦しくて物の言えぬ場合がないではなく、僕も初めはそう解釈したが、唖だとして見れば、説明がいかにもはっきりつくのだ。
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
もっとも盗泉ものが幅を利かせている博物館なら、ヨーロッパには珍らしくない。最も甚しいのが大英博物館、それからルーヴル……。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
もっとも血液型の研究には未完成の所があり、絶対性があるとはいえないかも知れませんが、そうなると妻の貞淑にも絶対性はありません。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
もっともセゾンはもう冬かも知れないが、過渡時代には、冬の日になったり、秋の日になったりするのだ。きょうはまだ秋だとして置くね。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
稚き時に父母に従うはもっともなれども、嫁いりて後に夫に従うとはいかにしてこれに従うことなるや、その従うさまを問わざるべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
歓楽のあとの物淋ものさびしさ、とでも云うような心持が私の胸を支配していました。もっともナオミはそんなものを感じなかったに違いなく
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もっとも私はこの寺の歴史と仏像にはさほど心をひかれない。法隆寺や薬師寺や東大寺に比べると格式もちがうし由緒ゆいしょも深いとはいえない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
もっともこの結果がいよいよ個々の小農場の孤立的傾向を促すことになったのもまた事実で、もしこういう新方法が採用せられなかったら
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もっともこの界隈かいわいにはこう云う家も珍しくはなかった。が、「玄鶴山房げんかくさんぼう」の額や塀越しに見える庭木などはどの家よりも数奇すきを凝らしていた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
※を※としておいて書いて行っても興味——極めてお芝居的な興味の多い物語である。もっとも※を吐くのに余り面白くないものはいけない。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
唐獅子の画に註していわく。「現今民国有識階級ニおいテハ華国ハ眠レル獅子ナリト言ヒナサレ覚醒又ハ警世ノ意アリテもっとモ喜バル」
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
こうしないといけない理由は、やっと勘定をすませて慌てて駆出したために自動車にひかれるというもっともらしいことにしたいためである。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もっともこの地方の百姓たちで、もしそれがあきっぽい性格なら、百姓をやめて他国に移住するか、自殺でもするよりか仕方がない。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
もっとも右の琉球語彙は冊封さくほう副使の徐葆光じょほこうが康煕五十八、九年(享保四、五年)即西暦一七一九、二〇年在琉中に自ら蒐集したものではなく
もっとも真面目な話の最中に彼女がいきなり突拍子もなく笑い出したり、家へけ込んでしまったりするような場合もあったけれど。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
右のような一年前に空想に過ぎなかった大計画も、今日は国民にもっともと思わしむるに足る昭和維新原動力の有力な一つとなった。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
もっとも枕は女のもの一ツしか見えなかったけれど、その傍に置いた煙草盆には灰吹から火入まで一ッぱいに敷島しきしまの呑さしが突さしてあった。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夜一しきり明日の下調べが済むと出かけられるので、なるべく目立たぬ服装をして、雨が降っても平気です。もっとも乗物などはありません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
おたがいが、まだ腹のさぐり合いをしている最中だから、浄憲の言葉は、もっともなのだが、他の連中は、何となくしゃくにさわる。
もっとも、甚だしく大陸的な空漠をそなえている彼の顔に、ちッとやそッとの驚きがかすめても、他人には分からないのだろうけれど。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らはそこで、なぜかそろって阿賀妻の方を見た。もっとも、ながくは見てはいなかった。視線をひるがえして含み笑いをして、そして云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
もっともこの店は器物食器を主に売っていました。それから大倉組の処からもう少しき、つまり尾張町寄りの処にもありました。
銀座は昔からハイカラな所 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
便所は勿論、湯殿までが上下二つあって、それで家賃が七十円だというのである——もっとも、物価のまだ安い時分ではあったが。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)