小母おば)” の例文
「坊ちゃんはいい子ですね。あのね、小母おばさんはまだこれから寝なくちゃならないのよ。あちらへいってらっしゃいな。いい子ね。」
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
幸に妙了の女姪めいが一人富田十兵衛とみたじゅうべえというもののさいになっていて、夫に小母おばの事を話すと、十兵衛は快く妙了を引き取ることを諾した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「下駄屋さんの小母おばさんは文六ちゃんの下駄に、ほんとうにマッチをすっておまじないをしやしんだった。まねごとをしただけだった」
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
いつも子供を預って貰う階下した小母おばさんに、それとない別れを告げたりするうちに、少しずつ事態が呑み込めるようになって来た。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
シリアのかみさんはサゲー小母おばさんよりも愛嬌あいきょうがあるだろうが、しかしヴィルギリウスがローマの居酒屋に入り浸ったとするならば
「庄ちゃん小母おばさんとこの子になっておくれな、小母さんが大事にしてそこら面白いところを見せてあげたりなんかするからね。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「私、お腹一ぱいだから、お父さんと小母おばさんに、お土産みやげを届けてもらいたいわ、鰻を二人前ね、車夫くるまやさんに頼んでくださいよ」
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
慢性偏頭痛へんずつうで、いつも首すじとこめかみに膏薬こうやくを貼っている下宿の小母おばさんを思い出した。私は彼女とはほとんど口をきいた記憶もない。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
桑の実の小母おばさんとこへ、ねえさんを連れて行ってお上げ、ぼうやは知ってるね、と云って、阿母おふくろは横抱に、しっかり私を胸へ抱いて
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二つも三つも掛けてもらっていましたが、ぼくが洋装をした田舎の小母おばさん然たるおくさんに、にこにこ笑いながら掛けて貰ったレイの花は
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
あの私が茄子なすを折って叱られているとき——小母おばさん、すみません——とびてくれた、あたたかい心が四十二歳になってもまだ忘れられない。
こんにゃく売り (新字新仮名) / 徳永直(著)
英夫はゆうべから、小母おばさんをせき立てて大急ぎで旅行の支度をした。熱いところへ行くので持ち物もほんのわずかですんだ。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
今年の七月十七日、香椎の球場で西部高専野球の予選を見ているうちに、雇人やといにん小母おばさんが泣きながら電報を持って走って来た。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから庄吉は小母おばさんの側で糊をして内職の封筒をはった。彼が眠むそうな眼をしばたたいていると、小母さんはよく斯んなことをいった。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「小船一せきも見えません、信号もかかげてありましたが、ケート小母おばさんに海蛇うみへびらの話をきいたので、六週間以前におろしてしまいました」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
サンサーンスの妖婦ダリアの『我が心が声に開く』を歌ってさえも、我らに取っては「大好きな小母おばさん」らしさを失わないクルプである。
「周さんが病気だから早く小母おばさんに来てくれいと周さんがいったよ。」と戸口から大声に告げると、彼の兄というのが
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは彼がよく遊びに行く藝者のうちで、蝶吉と小駒の二人が、「小母おばさん」と呼ぶ此女を雇つて萬事の世話を頼んで居る。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
小母おばさんお待ちなすって下さい、あねさまが人さまの妾にはならないと云うのも御尤ごもっともな次第、と云って貴方あんたに返す金はありやせんから、何卒どうぞわし
園は欠席届書を小母おばさんにたくし、不幸というのは父が頓死とんししたのだということを簡単に告げて、座を立つことになった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「真事、そんなにキッドが買いたければね、今度こんだうちへ来た時、小母おばさんに買ってお貰い。小父おじさんは貧乏だからもっと安いもので今日は負けといてくれ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは彼がその家の寝ている主婦を思い出すからであった。生島はその四十を過ぎた寡婦かふである「小母おばさん」となんの愛情もない身体の関係を続けていた。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
たしかとりの町の日でしたろう、お隣の仕舞屋しもたや小母おばさんから、「お嬢さん、面白いものを見せてあげましょう」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
二人はその継母けいぼくなつき、たまに自分達の生みの母が来ても、小母おばさん小母さんと言うが、継母にはおッ母さんおッ母さんとしたい寄って来る有様ありさまであった。
小父おじちゃん、小母おばちゃん、虫の太夫さんにおどらせておくれよ。そして、たんと思召しを投げて頂戴ちょうだいね」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
浅草あさくさ小母おばさんところを早く出て、曲馬団へかけつけたんだけれど、工場の前でうろうろしていると、工場の守衛さんが、あたしのことをおぼえていて、こっちに
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
甲板かんぱんのこと、船の上で知り合いになった小母おばさん達のことなど思い起しますと、今この霧の町を妙な馬車で通っていることさえ、不思議に思われてなりませんでした。
してもらうんだが、君らに、これから小母おばさんとでも呼んでもらえば、よろこぶだろう。……あちらの若い人は、本田君。君らの仲間の一人だと思ってもらえばいい。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「恐いこたあねえよ、あの小母おばちゃんの呶鳴るのは、病気だよ、すぐなおるよ、さあさあ、だまんな。……もいちど、高い高いばーか。……そうら、高い高い高い、ばあ!」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は日頃から親しくしている小母おばさんの家へ裏口から這入はいった。小母さんの家は、雇われて行った家の一軒置いて隣になっていた。小母さんは内職の造花を咲かせていた。
街底の熔鉱炉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
お隣の小母おばさアん。早く梯子はしごを持ってきて——。とうとうムキになって彼は、怒鳴りだした。
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「お早いことねえ。まだ散らかしたまんまなのよ。」と梯子段はしごだんを降りて行くと、清岡は丁度靴をぬいで上ったばかり。戸口を掃いていた小母おばさんも抜目ぬけめのない狸婆たぬきばばあと見えて
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「旅のものだよ、小母おばさん、一晩とめて貰いたいんでね。」と、チチコフが声をかけた。
ある日宅の女中が近所の小母おばさん達二、三人と垣根から隣を透見すきみしながら、何かひそひそ話しては忍び笑いに笑いこけているので、自分も好奇心に駆られてちょっと覗いてみると
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小母おばさん!」と金切声を上げながら、隣りのうちへ駆け込んだのださうである。
ある死、次の死 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
其時の幕間まくあいにいきなり小母おばさんの座つてゐる前にヌーツと立つた人があります。
妾の会つた男の人人 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
「それでは、下の小母おばさんにきいて来て下さい、今の人は何しに来たといって」
被尾行者 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
時間をも、小母おばさまをも、せつやをも、お父さまをも、お母さまをも
わが児に (新字新仮名) / 加藤一夫(著)
小母おばさん、小母さん、小母さんは何処まで歩いて行くのですか」
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「この頃、小母おばさまは些っとも、お歩きにならなくなったわね。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
もっていったら、知らんよその小母おばさんがきとった。マッちゃんおりますか、いうたら、おりませんいうたん。しかたがないから、これマッちゃんにわたして、いうて、その小母さんにたのんできたん
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「坊っちゃん、小母おばさんがいいお土産みやげを持って来ましたよ」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「何だか小母おばさんの身体まで震えて来た」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小母おばさんはどうして帯をしないのウ」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
小母おばさん、周さんは帰ったよ。」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
クレタ生れの小母おばさん。
「左様なら小母おばさん」
反逆 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
しかし人民を作るにはジゴーニュ小母おばさん(訳者注 人形芝居の人物にて、裳衣の下からたくさんの子供を出してみせる女)
小母おばさん、どうかわたしうちかえしておくれ。」と、いてたもとにすがりました。すると、やさしそうなそのおんなひとは、じっとわたしかおていましたが
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
洗い髪かんかで、椎茸髱しいたけたぼ小母おばさん方をめ廻しながら、長局ながつぼねで、八文字を踏む人柄ですが、それが退屈と慢心で毎日の生活を持て余している大膳正を