同胞きやうだい)” の例文
彼には、同胞きやうだいが成人するにつれて幾分なりとも互ひに遠々しくなるやうな事があつては自分が済まないといふ妙に律気りちぎな心持があつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
四人の同胞きやうだい、総領の母だけが女で、残余あとは皆男。長男も次男も、不幸ふしあはせな事には皆二十五六で早世して、末ツ子の源作叔父が家督を継いだ。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
うつかり、そんな言葉を使つてしまつた彼女は、われながら、ぎよつとしたが、思へば、自分も、その同胞きやうだいの一人ではないか。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「あの絵の上手な鍛冶屋ぢやつたのう。いや御機嫌よう、同胞きやうだい! それはさうと、どういふ風のふきまはしでこちらへやつて来たのぢや?」
私は一人同胞きやうだいなしだから弟にも妹にも持つた事は一度も無いと言ふ、左樣かなあ、夫れでは矢張何でも無いのだらう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかも“無線電話”の著者の、勘弥の口をりて、“情ないものですねえ。”と嘆息した所以の、それほど時運は、かれら同胞きやうだいに味方しなかつたのである。
七代目坂東三津五郎 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
わたしの一家はその頃零落おちぶれたどん底にゐたらしいが、父も母も、またわたしにはただひとりの同胞きやうだいたる兄も、みな綺麗な事では知合ひの間には評判であつた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「してみると、米国から幾ら金を貰つて来たつて少しの差支さしつかへもない筈だ、もと/\同胞きやうだいなんだからな。」
ば取直し何卒力に成て下せへと云ば元益點頭うなづきて然事がらさへわかつた事なら素より同胞きやうだい何を云ふ然し改まつて力に成てと言のは如何どういふ次第だかと問れて庄兵衞はお光が事一一什しじふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼がさう言ふか言はないに、もう一人の方のザポロージェ人が、「まあ、いいから伴れて行つてやらうではないか、同胞きやうだい!」
彼女は、そこで、以前よりも早口に、そして、申訳のやうに、自分以下三人の同胞きやうだいの名が呼び上げられるのを、ぢつと眼をつぶつて聞いてゐた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
わたし一人子ひとりご同胞きやうだいなしだからおとゝにもいもとにもつたこと一度いちどいとふ、左樣さうかなあ、それでは矢張やつぱりなんでもいのだらう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「さあ愈々いよ/\同胞きやうだいの国に着いたぞ。相手は懐中ふところ加減のてあひだ、たんまり土産も出来ようといふものだ。」
それは大勢の同胞きやうだいぢゆうでも、一番Aさんと顔立の似た、気の合ふ弟さんだつた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
『婆さんの理屈で行くと、兄が死ねば弟も死なゝけれアならなくなる。俺の姉は去年死んだけれども俺はうして生きてゐる。うだ。過日こなひだ死んだ馬喰ばくらうさんは、婆さんの同胞きやうだいだつていふぢやないか?』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
兼た飯焚めしたきの男一人在れど是さへも使に出たる後なれば同胞きやうだい如何なる密談みつだんせしや知者しるものたえて無りけり斯て後庄兵衞は翌朝よくあさ五兩の金を調達こしらへ兄元益に遞與わたせしに此方は心得其金もてしちに入たる黒紋附くろもんつきの小そで羽織ばおり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ぢやあ、又あとでゆつくり話さうのう、同胞きやうだい。わしたちは、これから女帝陛下に拝謁のため参内するところぢやから。」
でも、同胞きやうだいのやうに似てゐるといふのは、さうざらにはありませんよ。また、失礼かも知れませんが、小倉つていふのは、奥さんそつくりですからね。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
檀家の中にも世話好きの名ある坂本の油屋が隱居さま仲人といふも異な物なれど進めたてゝ表向きのものにしける、信如も此人の腹より生れて男女二人の同胞きやうだい
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「有難う。」小橋氏は同胞きやうだいに礼をいふ心持で一寸帽子のつばに手をかけて別れようとした。
檀家だんかなかにも世話好せわずきのある坂本さかもと油屋あぶらや隱居ゐんきよさま仲人なかうどといふもものなれどすすめたてゝ表向おもてむきのものにしける、信如しんによ此人このひとはらよりうまれて男女なんによ二人ふたり同胞きやうだい
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「面白い……反対しろ。しかしだぜ、お前は同胞きやうだいつてものを、どう思つてるんだい。死ぬか生きるかの問題なんだぜ、親爺の別荘が大事か、兄貴の命が大事か?」
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
母は安兵衞が同胞きやうだいなれば此處に引取られて、これも二年の後はやり風俄かに重く成りて亡せたれば、後は安兵衞夫婦を親として、十八の今日まで恩はいふに及ばず
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それをみて、義妹の梅代がなんといふかと思ふと、三人の子供たちが同胞きやうだいみたいだと云ふ。
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
かしけれどおまへさまはお一人子ひとりごわたしとてもあにばかりをんな同胞きやうだいもちませねばさびしさはおなじことなにかにつけて心細こゝろぼそ御不足ごふそくかはらねどいもと思召おぼしめしてよとそこにものある詞遣ことばづかひそれは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
同胞きやうだいをもたぬこの二人は、半ば物珍らしげにこれら男子青年の言動に眼をみはり、彼等から対等にあしらはれることを誇りとし、時たま見せられるちよつとした騎士道に頬を熱くした。
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
はてさてどくなとふとまゆせて、おまへにすればたつた一人ひとり同胞きやうだい善惡よしあしともにけてかねばならぬやくわらごとにしてはかれまい、何事なにごと相談さうだんつて樣子やうすたらばからう
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
でも、あなた方御同胞きやうだい三人は、性格的に、まるで極端と極端のやうですね。
沢氏の二人娘 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
おやといふのまして如何いかならん、さりとは隱居樣いんきよさまじみしねがひも、令孃ひめこヽろには無理むりならぬこと、生中なまなかみやこきて同胞きやうだいどもが、浮世うきよめかすをするもらし、なにごとものぞみにまかかせて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
欽蔵 それが間違まちげえだ。手前てめえは、自分のことばかり考へてる。なぜ「殺させない工夫」と云はねえんだ。自分を守るんぢやねえ。同胞きやうだいを守るんだ。帝都を守るんだ。日本といふ国を守るんだ。
悦子 (父のそばへ行き)ねえ、お父さん、同胞きやうだいや親子の間に、何か秘密があるつてことは不幸ぢやない? 秘密つていふと大袈裟だけど、自分だけで苦しまなけりやならないことがあつたら……。
沢氏の二人娘 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「あら、いやだ、かうしてみると、まるで同胞きやうだいね、この三人は……」
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)