可恐こわ)” の例文
だって、緋だの、紫だの、暗いうちに、あられに交って——それだといなびかりがしているようだもの……そのしとみをこんな時に開けると、そりゃ可恐こわいぜ。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分いろいろ可恐こわい気がした。これだけ所謂筆は立って、三ヵ月近くも実地を知っていて、これのようなつくりごとしかかかないということについて。
それをもって、わしの寝首をこうと神かけていたものだろう。可恐こわいな。尊氏、大軍は何の怖れともせぬが、こういう目に見えぬところの刃には心もすくむ。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「オオ、可恐こわい」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこはてかけものの悲しさですかね。どうして……当人そんなぐうたらじゃないはずです。意地張いじッぱりもちっと可恐こわいようなおんなでね。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(此は気の毒さと、自棄になる人間を見る可恐こわさと相半ばした心持。何故なら、若しAが、よろしい、とずっと進んだ道を進めば、私は安心して自由にするのだから。少し、彼に芝居気がありすぎる)
お蔦 可厭いや。(はげしく再び耳をおさう)何を聞くのか知らないけれど、貴下あなたこの二三日の様子じゃ、雷様より私は可恐こわいよ。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……梅水のものですよ。それで大概、挨拶あいさつをして離れちまいますんですもの、道の可恐こわさはちっとも知らずにいたんです。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もうね、可愛いんだ、——ああ、可恐こわい、と思うと、きまったように、私のたもと引張ひっぱったっけ、しっかりと持って——左の、ここん処にすわっていて
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの、川にります可恐こわいのではありませんの、雨の降る時にな、これから着ますな、あの色に似ておりますから。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御利益ごりやくと、岩殿いわとのかたへ籠を開いて、中へ入れると、あわれや、横木へつかまり得ない。おっこちるのが可恐こわいのか、隅の、隅の、狭いところちいさくなった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百合 水のもとはこの山奥に、夜叉ヶ池と申します。すごい大池がございます。その水底みなそこには竜がむ、そこへ通うと云いまして——毒があると可恐こわがります。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……どうせそうよ、……私は鬼よ。——でも人に食われる方の……なぞと言いながら、でも可恐こわいわね、ぞっとする。と、また口を手巾で圧えていたのさ。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だって、姉さんがおどかすんですもの。私吃驚して遁出にげだしましたけれど、(お竹蔵。)の前でしょう、一人じゃ露地へ入れませんもの、可恐こわくって、私……」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私、斬られるかと思って可恐こわかったわ、ねえ、おしりが薬になると云うんでしょう、ですもの、危いわ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お蔦 (きかけつつ)貴方、見ていて下さいな、石段を下りるまで、私一人じゃ可恐こわいんですもの。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新坊や、可恐こわい処だ、あすこは可恐い処だよ。——聞きな。——おそろしくなって帰れなかったら、い、可い、小母さんが、町の坂まで、この川土手を送ってやろう。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨続きだし、石段がすべるだの、お前さんたち、蛇が可恐こわいのといって、失礼した。——今夜も心ばかりお鳥居の下まで行った——毎朝拍手かしわでは打つが、まだお山へ上らぬ。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(天狗様でしょうか、鬼でしょうか、わたいたちとはお宗旨違いだわね。引込ひっこみましょう可恐こわいから。)居かわって私の膝にうしろ向きにかけていた銀杏返いちょうがえしが言ったのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ねえ、貴郎あなた、そうして、小松原さんのおっしゃる通りになさいよ。何だか可恐こわいんですもの。」
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……私、心配で……ここまで起きて来て、あの、とおりへ出て見ようと思ったんですけれど、可恐こわいでしょう。……それですから、あの、ここにつかまって震えていましたの。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、可恐こわい。……勿体ないようで、ありがたいようで、ああ、可恐こおうございましたわ。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気が着きませんでしたが、それが貴下あなた、片々蠣目かきめのようで、その可恐こわらしい目で、時々振返っては、あの、ほろの中を覗きましてね、私はどんなに気味が悪うござんしてしょう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お蔦 そりゃつまを取ってりゃ、鬼が来てもいけれども、今じゃ按摩あんま可恐こわいんだもの。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんなに可恐こわらしくっても、あわれな話だときに泣くんですもの、きっと承知するわ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
名の上へ、藤の花を末濃すそごの紫。口上あと余白の処に、赤い福面女おかめに、黄色な瓢箪男ひょっとこあお般若はんにゃ可恐こわい面。黒の松葺まつたけ、浅黄のはまぐり、ちょっと蝶々もあしらって、霞を薄くぼかしてある。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
烏瓜からすうり、夕顔などは分けても知己ちかづきだろうのに、はじめて咲いた月見草の黄色な花が可恐こわいらしい……可哀相かわいそうだから植替うえかえようかと、言ううちに、四日めの夕暮頃から、っと出て来た。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
媛神 (廻廊に立つ)——わたしそばにおいでだと、一つ目のおばけに成ります、可恐こわい、可恐い、……それに第一、こんな事、二度とはいけません。早く帰って、そくさいにおくらし。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「拾い手が立派です。……威張っていらっしゃい。そんなに可恐こわがる事は無いわ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えのきの実に団栗どんぐりぐらい拾いますので、ずっと中へ入りますれば、栗もしいもございますが、よくいたしたもので、そこまでは、可恐こわがって、おちいさいのは、おいたが出来ないのでございます。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、かつて美術学校の学生時代に、そのお山へ抜参ぬけまいりをして、狼よりも旅費の不足で、したたか可恐こわい思いをした小村さんは、聞怯ききおじをして口を入れた……むがごとく杯をふくみながら
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「すぐこのあとへ、しののめの鬼が出るんですのね、可恐こわいんですこと……。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうしていきおいがこんなであるから、立続けに死霊しりょう怨霊おんりょう生霊いきりょうまで、まざまざとあらわれても、すご可恐こわいはまだな事——汐時しおどきさっと支度を引いて、煙草盆たばこぼん巻莨まきたばこの吸殻が一度綺麗きれいに片附く時
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それがさ、活きた心地はなかった、というのに、お前さん、いい度胸だ、よく可怖こわくないね、といいますとな、おっかさんに聞きました、かんざしを逆手に取れば、婦は何にも可恐こわくはないと
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「蛇や、蝮でさえなければ、蜥蜴とかげが化けたって、そんなに可恐こわいもんですか。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを可恐こわくは思わぬが、この社司の一子に、時丸と云うのがあって、おなじ悪戯盛いたずらざかりであるから、ある時、大勢がいくさごっこの、番に当って、一子時丸が馬になった、しっ! ったやつがある。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それには、えんでは可恐こわがるだろう。……で、もとの飛石の上へ伏せ直した。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼間も、あの枝、こっちの枝にも、頭の上でふくろが鳴くんです。……可恐こわい。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、欄干ぞいに、姫ぎみ、お寄りなされたが、さして可恐こわくはなさそうで。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
可恐こわい顔をしてにらみはった。それがな、路之助はんのおかみはんえ。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
円くて渋面しぶつら親仁様おとっさんが、団栗目どんぐりめをぎろぎろと遣って、(狐か——俺は天狗だぞ、可恐こわいぞ。)と云うから、(可恐いもんですか。)ってそう云うと、(成程、化もの夥間なかまだ、わはは。)おおきな声なの。
寸分お違いなさらない、東京の小県さん——おきれいなのがなおあやしい、怪しいどころか可恐こわいんです。——ばけものが来た、ばけて来た、畜生、また、来た。ばけものだ!……と思ったんです。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一、三輪坊が、どんなにか、可恐こわがるだろう、と思ってね。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「こんな、さびしい時の、可恐こわいものにはね、鎧なんか着たって叶わないや……向って行きゃ、きえちまうんだもの……これから冬の中頃になると、軒の下へ近く来るってさ、あの雪女郎ゆきじょろう見たいなもんだから、」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そしたら、泊っておくれやすえ、可恐こわいよって。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……美津は、あの、それが可恐こわいのでござります。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あら、一人ずつで行くの、可恐こわいわね。」
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
意気銷沈より脚気衝心しょうしん可恐こわかったんだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「面白くはないよ……可恐こわいよ。」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女童二 可恐こわくはありませんよ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)