口実こうじつ)” の例文
旧字:口實
で、不慣れのゆえをもってこの勅使饗応役ちょくしきょうおうやくを御辞退なされるということは、なんら口実こうじつにならんのです。御再考ありたい。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しか丁度ちやうど日曜日にあたつて夜学校やがくかう口実こうじつにも出来できないところから夕飯ゆふめしすますがいなやまだの落ちぬうちふいとうちを出てしまつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それだから肉をぬすんだのだ。けれどもわたしはそれを口実こうじつとしてゆるすことはできなかった。かれはぬすみをした。
竹童ちくどうは、あわててそれを呼びかえしたが、べつに、どういう口実こうじつもないので、とっさの機智きちを口からでまかせに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくに幕府が最後の死力を張らずしてその政府をきたるは時勢に応じて手際てぎわなりとて、みょうに説をすものあれども、一場いちじょう遁辞とんじ口実こうじつたるに過ぎず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かれは、なにかいい口実こうじつつかったら、田舎いなかへおひまをもらってかえりたいとおもいました。奉公ほうこうつらいなどといったら、きっときびしい父親ちちおやのことだからしかるであろう。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
王はひどく喜んで、すぐ入っていきたいと思ったが、おばの名も知らなければ往復したこともないので、何といって入っていっていいかその口実こうじつがみつからなかった。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
それと申しますのが、わたくしが科学者であるというのを口実こうじつにして、わたくしには関係のない事柄にまで科学的意見をちょうされたことが、随分と多うございますのです
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とうさんは袖子そでこにいさんたち学校がっこうからかえって場合ばあい予想よそうして、むすめのためにいろいろ口実こうじつかんがえた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ことに法文の読みようによっては、義務を忌避きひする道も随分ずいぶんある。ゆえに世に勢力ある人の中には種々なる口実こうじつをもって財産の義務をことごとく負担ふたんしないものがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
電話はある銀行の重役をしている親類がいいかげんな口実こうじつを作ってただ持って行ってしまった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのうち、彼はふと、去年の夏休みに、恭一と俊三とが久方ぶりに母の見舞に来ていたのを、本田のお祖母さんが、いろいろと口実こうじつを設けてつれ帰った時のことを思い起こした。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
で、夜になるといつも、小松屋の店の硝子戸ガラスどの外に来て口笛くちぶえを吹いたり、暗闇くらやみの中に煙草たばこの火をちらつかせたりして私に合図あいずをした。すると私は、何とか口実こうじつをつけては家を出た。
が、内蔵助の叔父小山源五右衛門、従弟じゅうてい進藤源四郎など、義理にも抜けられない者どもまで、口実こうじつを設けて同行をがえんじなかったと聞いては、先着の同志もあきれて物が言えなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
さてロセツが何故なにゆえに浅田を指名して診察しんさつもとめたるやというに、診察とは口実こうじつのみ、公使はかねて浅田が小栗に信用あるを探知たんちし、治療ちりょうに託してこれにしたしみ、浅田をかいして小栗との間に
それはこの船を占領せんりょうして、南アメリカおよびアフリカ諸国に往来して、いまだに秘密に行なわれている奴隷どれい売買をいとなんで、一かく千金をえようとしたのだ。いまその喧嘩けんか口実こうじつができた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それが一種の口実こうじつであることは大抵想像されているものの、何分にも旅さきの事といい、その妻ももう此の世にはいないので、事実の真偽を確かめるのがむずかしく、たがいに捫着もんちゃくをかさねた末に
とか、みな女どものせいにして、一時のがれをいって来たが、もうその口実こうじつも尽き果てて、弱りぬいている次第だが——と、又右衛門は、苦衷くちゅうをもらして
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも、その明くる日いっぱいは、じっと辛抱して宿に残っていた。が、夕方になると、もうたまらなくなって、兄の許へ母親に逢いに行くという口実こうじつもとに、ぶらりと家を出てしまった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
ヤレ/\またしても面百くないしらせだ、ればとてこんないやな事を老母の耳に入れるでもなしと思い、何かつまらぬ口実こうじつつくって、折角楽しみにした上方かみがた見物もめにして、空しく東京にかえって来ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
殿様がお立ちあいくださらば、丹波めは、仕合いを忌避する口実こうじつがなくなりますので、なにとぞ源三郎様のために、御承諾くださいますよう……殿、まッ、このとおり、爺からもお願いいたしまする
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人心じんしん籠絡ろうらくしてその激昂げきこう鎮撫ちんぶするにるの口実こうじつなかるべからず。
口実こうじつはさまざまだが、するところみな国元不安の動揺だった。——はやくも、先帝の隠岐脱出、各地の宮方蜂起——などのことが、誰からともなくつたわっていたらしい。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは口実こうじつにすぎまい。疑わしく思うなら、仲間の誓約を立てさせればよかろう」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)