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卷煙草
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まきたばこ
私は
漸くほつとした
心もちになつて、
卷煙草に
火をつけながら、
始て
懶い
睚をあげて、
前の
席に
腰を
下してゐた
小娘の
顏を一
瞥した。
やがてお
柳の
手がしなやかに
曲つて、
男の
手に
觸れると、
胸のあたりに
持つて
居た
卷煙草は、
心するともなく、
放れて、
婦人に
渡つた。
番町の
旦那といふは
口數少き
人と
見えて、
時たま
思ひ
出したやうにはた/\と
團扇づかひするか、
卷煙草の
灰を
拂つては
又火をつけて
手に
持てゐる
位なもの
其
製作形状等に付ては土器の事を言ふ
折りに
細説すべけれど、
大概を述ぶれば其
全体は大なる
算盤玉の如くにして
横に
卷煙草のパイプを
短くせし如き形の
注ぎ出し口付きたり。
だから
卷煙草に
火をつけた
私は、
一つにはこの
小娘の
存在を
忘れたいと
云ふ
心もちもあつて、
今度はポケットの
夕刊を
漫然と
膝の
上へひろげて
見た。
工學士は、
井桁に
組んだ
材木の
下なる
端へ、
窮屈に
腰を
懸けたが、
口元に
近々と
吸つた
卷煙草が
燃えて、
其若々しい
横顏と
帽子の
鍔廣な
裏とを
照らした。
蒲田屋の
旦那のやうに
角袖外套か
何か
着てね、
祖母さんが
仕舞つて
置く
金時計を
貰つて、そして
指輪もこしらへて、
卷煙草を
吸つて、
履く
物は
何が
宜からうな、
己らは
下駄より
雪駄が
好きだから
といふが
疾いか、ケンドンに
投り
出した、
卷煙草の
火は、ツツツと
橢圓形に
長く
中空に
流星の
如き
尾を
引いたが、
𤏋と
火花が
散つて、
蒼くして
黒き
水の
上へ
亂れて
落ちた。
勞を
謝するに
酒もない。
柳川は
卷煙草の
火もつけずに、ひとりで
蕎麥を
食べるとて
歸つた。