冗談じようだん)” の例文
いくらフロツクに緋天鳶絨ひびろうどのチヨツキを着て由兵衛奴よしべゑやつこの頭を扇子せんすで叩いてゐたつて、云ふ事まで何時いつでも冗談じようだんだとは限りやしない。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
殺して食ひますよ。御用心なさい、御宅のは若くつて太つて居るから丁度いいなんて、冗談じようだんでせうがそんな事をいつて居ましたよ
「まあ御金持おかねもちね。わたし一所いつしよれてつて頂戴ちやうだい」とつた。宗助そうすけあいすべき細君さいくんのこの冗談じようだんあぢは餘裕よゆうたなかつた。眞面目まじめかほをして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其中に、一円の金貨が六ツか八ツも有升ありましたがお祖父ぢいさまはやがて其ひとつをとりいだして麗々とわたしの手のひらのせくださつた時、矢張冗談じようだんかと思ひました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
ゆき子は冗談じようだんで云つたのだが、富岡は、ゆき子の直感にどきりとした。おせいはびくともしないで、冷い手拭を壁のくぎにかけて炬燵こたつにもぐり込んだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
今時分煤払すすはらひがあるのかと思つて、下男の松さんにきくと、お酒好きの剽軽へうきんな松さんは、佐渡ヶ島へ引越しをするぢやがな、などと冗談じようだんをいつてゐたが
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「よくある冗談じようだんだから、あつしはまだ行つてやらなかつたんです、そこで親分を呼出さうといふ惡戯いたづらでせう」
冗談じようだんいつちや困ります。わしも長い間女を抱へて來てやすが、こんなひでえ玉は始めてでさア。」
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
だから、冗談じようだんを云ひかける客には、思ひもつかぬしはがれて太くなつた声で応酬して驚かすのである。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
えへゝゝゝ冗談じようだんつちやアいけません、盲人めくらにからかつちやア困ります。小「盲目めくらだつていたぢやアないか、冗談じようだんなしに月々つき/″\ぐらゐづゝ遊んでおくれな、え梅喜ばいきさん。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
正太しようた一人ひとり眞面目まじめりて、れいたまぐる/\とさせながら、美登利みどりさんは冗談じようだんにしてるのだね、れだつて大人おとならぬものいに、おいらのふが何故なぜをかしからう
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこで彼女は椅子にかけると、ほとんど習慣になつてゐる、愛想の好い微笑を見せながら、相手には全然通じない冗談じようだんなどを云ひ始めた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
左樣さうか」とつたが、冗談じようだんでもなかつたとえて、べつわらひもしなかつた。細君さいくんきんまるにならない樣子やうす
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
祖父ぢいさまは此時冗談じようだん半分に革の大きい金入れを出し、中をあちらこちらとかへして見て居られました。さうして
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「このごろ、ゆきさんはすぐふくれるやうになつたのね。早くお嫁さんにやらなくちや駄目だわ」と冗談じようだんにも、皮肉にもとれるやうな事を云つたりする。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
冗談じようだんぢやありませんよ。明神下の縁側から向島が見えるわけが無いぢやありませんか」
明けて返したつてやうがない、冗談じようだんつちやアいけない、ぢやアそろ/\出かけよう。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼らは小娘のウメ子にふざけたり、彼と冗談じようだんを云つたりした。
反逆の呂律 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
宗助そうすけべつにそれをにもめなかつた。それにもかゝはらず、二人ふたりやうや接近せつきんした。幾何いくばくならずして冗談じようだんほどしたしみが出來できた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
同役は、冗談じようだんだと思つたから、二三人の仲間と一しよに半日がかりで、虱を生きたまま、茶呑茶碗へ二三杯とりためた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
只、眼を開いて、雨戸の隙間すきまから青い空を眺めてゐた。富岡が冗談じようだんらしく、何処にも女はゐるのだと云つた一言にこだはつてゐる。あの男は、このまゝ図太く生き残つてゆくに違ひない。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
それ以来吉原よしはらは、今でもあいつのうはさで持ちきつてゐるやうだ。かくこれで見ても、なんでも冗談じようだんだと思ふのは危険だよ。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
俊吉はすべてに無頓着なのか、不相変あひかはらず気の利いた冗談じようだんばかり投げつけながら、目まぐるしい往来の人通りの中を、大股にゆつくり歩いて行つた。……
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「おい、越後屋さん。いやさ、重吉さん。つまら無え冗談じようだんは云は無えものだ。御前おめえが鼠小僧だなどと云ふと、人の好い田舎者は本当にするぜ。それぢや割が悪からうが。」
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すると、それがまぶしかつたのか、伊留満いるまんはちよいと顔をしかめて、下を見たが、すぐに又、前よりも、人なつこい調子で、冗談じようだんともほんとうともつかずに、こんな事を云つた。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それは冗談じようだんであるけれども、さういふ風に人物なり事件なりが予定とちがつて発展をする場合、ちがつために作品がよくなるか、わるくなるかは一概いちがいに言へないであらうと思ふ。
善くか、悪くかは、場合場合でちがふがね。え、いつはりまことに代へるおそれがある? 冗談じようだん云つちやあいけない。甲が乙に対して持つてゐる考へに、真偽しんぎの別なんぞ、あり得ないぢやあないか。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何でもその晩もあいつは酔つぱらつて薄雲太夫うすぐもだいふの側へ寄つちや、夫婦になつてくれとかなんとか云つたんださうだ。太夫たいふはうぢや何時いつもの冗談じようだんと思ふから、笑つてばかりゐて相手にしない。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
作家 冗談じようだんを云つては困ります。雑誌社が原稿を買ひに来るのは、商売に違ひないぢやありませんか? それは或主張を立ててゐるとか、或使命を持つてゐるとか、看板かんばんはいろいろあるでせう。
売文問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)