内儀おかみ)” の例文
その廻りに、黒ん坊みたいな子供が四人、ウジャウジャと寝て、その向うに腰巻一つの内儀おかみさんが、ふとったしりをこっちへ向けている。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「三輪の萬七親分が、内儀おかみさんを縛つて行きました、——どんな證據があらうと、あの人は、そんな事をする人ではございません」
大きな、ふとった体躯からだをしたよそ内儀おかみさんなぞが、女というものは弱いもんですなんて、そんなことを聞くと俺は可笑おかしく成っちまう……
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
暗い予感が当って、ことによれば、二度と可愛い顔が、見られなくなったかも知れぬと知った、内儀おかみ、もはや、真正の気違いだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
台所には蕗子の妹で十三か四になる艶子つやこが、近所の内儀おかみさんたち二三人に囲まれて、畳に打伏したまま潸々さめざめと泣いていました。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
丸文字屋の内儀おかみは邪推深い、剛慾な女だ。番頭や小僧から買うよりも、内儀から買う方が高い、これは、村中に知れ渡っていることである。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
柳「左様そうでしょう、それに病み煩いの時などは内儀おかみさんがないと困りますから、早くお貰いなすっては何うです、ねえ旦那」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
父は風呂で火照ほてった顔を双手りょうてでなで上げながら、大きく気息いきを吐き出した。内儀おかみさんは座にたえないほどぎごちない思いをしているらしかった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼はまた、春月亭の内儀おかみに侮辱されて、人間の道義というものに絶望しかけていたとき、朝倉先生にきいたミケラシゼロの話を思いおこしていた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
又その内儀おかみさんが猫が大好き、ちんが大好き、生物いきものが好きで、猫も狆も犬も居るその生物いきもの一切の世話をしなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
其室そこにはその内儀おかみさんのペートン(蓮顕れんげん)という女がやはりダージリンから一緒に来て居る。私はじきに知りましたけれども先方では全く知らない様子。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
願くは、今自分の見て居るうちに、早く何處かの内儀おかみさんが來て、全體みんなでは餘計だらうが、アノ一番長い足一本だけでも買つて行つて呉れゝばいゝに、と思つた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
まアこちらのお宅に辛抱してごらんなさい。こちらもあまりパッパとする方じゃないけれど、内儀おかみさんが目を
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
僕の室に入ってみますと、下宿の内儀おかみが普段大事にしている座蒲団が五枚も片隅にうず高く積み重ねられているのを発見した時、僕は万事を直感してしまった。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
いわゆる後家の気丈者らしいここの内儀おかみさんは、かぞえかけていた一円紙幣さつの束をもういちど読み直して
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんなに待ちやァしないでしょ。随分いそいだのよ」と云いながら、今更のように慶三の顔を見て「羽織の襟が折れていない事よ。あなたの内儀おかみさんはじつがないね。」
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ともかく珊瑚が戻ったのだから、今度だけは内済にして、そのうえ別に強談ごうだんもしなかったという。あの内儀おかみがゆうべ自殺したと聞いて、番頭は不思議そうな顔をしていた。
作蔵 その人は内儀おかみさんか。この前来た時のと違ってるから、内儀さんではないと思った。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「今に分りますが、ここの内儀おかみは一流の板前ですよ。その他、サービス満点……」
神サマを生んだ人々 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
むく/\肥つた四十恰好かつかう内儀おかみが何だか言つてゐるのを聞き流して私は取りあへずそこの店さきにある井戸傍に立つた。頭から背から足さきまで洗ひ流して、直ぐ二階に上らうとした。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
大店おおだな内儀おかみさんたちは嫁をそしる。中年になったお嫁さんは、いつまでもしゅうとめが意地わるく生きていると悪口あっこうしあうのを、番僧たちはうまく口を合せていた。そんな時、祖母は口を決してださなかった。
内儀ないぎ一寸ちょっと呼で呉れ下「内儀おかみさんはう出て仕舞いましたよ」目科は驚きたる風を示し「其様な筈は無いよお前先程来た己の顔を忘れたな下「いえ爾では有ませんが、全く内儀おかみさんは出て仕舞たのです、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
こんなこというは婆と呼ばれる酒屋の内儀おかみだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
内儀おかみ、いつも景気がよいな」
善悪両面鼠小僧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
商賣の事ゆゑいとひませんがもし内儀おかみさん承まはるも餘り率爾ぶしつけながらよくきふに金子が出來ました尤も外より御融通ごゆうづうなされたとか仰せなれども金子かねと云ふものは勿々なか/\容易よういには調とゝのひ難きもの最早もはやすみし事ながらすでに流れ買に賣拂はんとする處なりしが彼金あのかね何處どこから御融通なされしにやちと申しにくき事なるが御立腹ごりつぷくなさるな内儀樣おかみさん一文もらひ袖乞そでごひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「飛んだ災難——と言い度いが、実は内儀おかみさん、あの櫓は落ちるように、縄を切って置いたものがあると聴いたら、驚くだろう」
こういう物の言い振からして、お新は大人びて、郷里の方でも指折の大きな家の若い内儀おかみさんらしい、何となくサバケた人に成って来た。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人が風呂から上がると内儀おかみさんが食膳を運んで、監督は相伴なしで話し相手をするために部屋の入口にかしこまった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
願くは、今自分の見て居るうちに、早く何処かの内儀おかみさんが来て、全体みんなでは余計だらうが、アノ一番長い足一本だけでも買つて行つて呉れればいいに、と思つた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
兼「聞きやアしねえが、隣の内儀おかみさんの話に、今朝婆さんが来て、親方が旅に出ると云って暇をくれたから、田舎へけえらなけりゃアならねえと云ったそうだ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お前とこの、子供は、まあ、中学校へやるんじゃないかいな。ぜに仰山ぎょうさんあるせになんぼでも入れたらえいわいな。ひゝゝゝ。」と、他の内儀おかみ達に皮肉られた。
電報 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
豚の如く肥えたここの内儀おかみさんは法華ほっけ信者とみえて、店先から見通しの部屋で、非常に木音のよく響くものをカチカチと懸命にたたきながら、トム公を横目に見て
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこぞの内儀おかみらしい扮装よそおいでまじっているのを見出しても、別に、気にも止めはしなかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
前の離房はなれの二室へは、急に下町の商家の内儀おかみらしい、四十前後の女が、息をぬきに来たという風で入って来た。どこか体に悪いところのあるようなその女は、毎日枕を出してそべっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
帆村は道傍みちばたに立っている人のよさそうな内儀おかみさんにたずねた。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
内儀おかみは、白無垢鉄火しろむくてっかの「知らずのおげん」。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
内儀おかみさんはどんな人だい。別嬪べっぴんか。」
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
答える内儀おかみの声が聞こえた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「私でございました。内儀おかみさんが昨夜から居ないといふのに、藏の戸前の外に、内儀さんの履物はきものがキチンと揃へて脱いでありましたので」
宿の内儀おかみさんは肥つた、丁寧な物の言ひやうをする人だつた。夕飯には吾儕の爲にあはびを用意して、それを酢にして、大きな皿へ入れて出した。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
事務所にはもう赤々とランプがともされていて、監督の母親や内儀おかみさんが戸の外に走り出て彼らを出迎えた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
『東京は流石に暑い。腕車くるまの上で汗が出たから喃。』と言つて突然いきなり羽織を脱いで投げようとすると、三十六七の小作こづくりな内儀おかみさんらしい人がそれを受取つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、茶屋の内儀おかみは、左右太を知っていた。お次は、身のおき場がないように坐っていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うしろから、眉は落しているが、歯の白い、目にしおのある、内儀おかみが顔を出して
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
なに心配しんぺえしねえがいだ、大丈夫でえじょうぶ内儀おかみさんは分ったもんで、それに若旦那がって堅くするし、それに小さいけれども惣吉様も居るから其様そんな事はねえ、旦那は年い取ってるから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
雑貨店の内儀おかみに緒を見せて貰いながら、母は
二銭銅貨 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
内儀おかみさんとお絹さんが一番ひどく、今頃は死んだかも知れません。男達は早く氣のついたせゐか、みんな大したこともなかつた樣子です」
同行の画家B君は外国仕込の洋服を着、ポケットに写生帳を入れていたが、戯れに「お寺さん」に成り済まして一寸ちょっと休茶屋の内儀おかみをまごつかせた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『東京は流石に暑い。腕車くるまの上で汗が出たからなあ。』と言つて、突然いきなり羽織を脱いで投げようとすると、三十六七の小作りな内儀おかみさんらしい人がそれを受取つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
手にるな矢張野に置け蓮華草れんげそういえへ入ると矢張並の内儀おかみさんなれども、女郎に似合わぬ親切に七兵衞の用をするが、二つになるおつぎという女の子に九つになる正太郎しょうたろうという男の子で悪戯盛いたずらざか
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)