“児(じ)” の例文
旧字:兒
鳴神(なるかみ)おどろおどろしく、はためき渡りたるその刹那(せつな)に、児(じ)の初声(うぶこえ)は挙(あが)りて、さしも盆(ぼん)を覆(くつがえ)さんばかりの大雨も忽(たちま)ちにして霽(は)れ上(あが)りぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
翻訳だろうが焼き直しだろうが、生きているうちは何処までも遣る覚悟だから、寺尾の方がまだ自分より社会の児(じ)らしく見えた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨日まではとかく家を外(そと)なる楽しみのみ追ひ究めんとしける放蕩の児(じ)も此(ここ)に漸く家居(かきょ)の楽(たのしみ)を知り父なき後(のち)の家を守る身となりしこそうれしけれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
児(じ)は不幸にして未(いま)だ良師を得ません。どうして近業の言うに足るものがありましょう。今伯楽(はくらく)の一顧を得て、奔踶(ほんてい)して千里を致すの思があります。願わくは題を
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
然(しか)れども先生は従来(じゅうらい)他人の書に序(じょ)を賜(たま)いたること更になし、今強(しい)てこれを先生に煩(わずらわ)さんこと然(しか)るべからずと拒(こば)んで許さざりしに、児(じ)竊(ひそ)かにこれを携(たずさ)え先生の許(もと)に至り懇願(こんがん)せしかば
しかしまた黄口(こうこう)の児(じ)でありながら、お尻(しり)に卵の殻がくっ付いているごとき境界(きょうがい)であるのにかかわらず、ほしいままに人生を脱離したごとく考えているというのは片腹痛い感じがして
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
我身ひとつの故(ゆえ)成(な)りせばいかゞいやしきおり立(たち)たる業(ぎょう)をもして、やしなひ参らせばやとおもへど、母君はいといたく名をこのみ給ふ質(たち)におはしませば、児(じ)賤業をいとなめば我死すともよし
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「無理です。それですから白楽天が歌いました、任土貢寧(むし)ロ斯(かく)ノ如クナランヤ、聞カズヤ人生ヲシテ別離セシム、老翁ハ孫(そん)ヲ哭(こく)シ、母ハ児(じ)ヲ哭ス……ある時、その道州へ陽城という代官が来ました」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
翻訳だらうが焼き直しだらうが、生きてゐるうちは何処(どこ)迄も遣(や)る覚悟だから、寺尾の方がまだ自分より社会の児(じ)らしく見えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
児(じ)を分娩(ぶんべん)すると同時に、又も一(いつ)の苦悶は出で来(きた)りぬ。そは重井(おもゐ)と公然の夫婦ならねば、児(じ)の籍をば如何(いか)にせんとの事なりき。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
予また幕末(ばくまつ)の編年史(へんねんし)を作り、これを三十年史と名(なづ)け刊行(かんこう)して世に問(と)わんとせし時、誰人(たれびと)かに序文(じょぶん)を乞(こ)わんと思いしが、児(じ)駿(しゅん)、側(かたわら)に在(あ)りて福沢先生の高文(こうぶん)を得ばもっとも光栄(こうえい)なるべしという。
太平の天地だと安心して、拱手(きょうしゅ)して成功を冀(こいねが)う輩(はい)は、行くべき道に躓(つまず)いて非業(ひごう)に死したる失敗の児(じ)よりも、人間の価値は遥(はる)かに乏しいのである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妾(せふ)は児(じ)の重(かさ)ね/″\龍(りよう)に縁(えん)あるを奇(き)として、それに因(ちな)める名をば命(つ)けつ、生(お)ひ先きの幸(さち)多かれと祷(いの)れるなりき。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
そも一秒時毎に、汝(なれ)と遠ざかりまさるなりなど、吾れながら日頃の雄々しき心は失(う)せて、児(じ)を産みてよりは、世の常の婦人よりも一層(ひとしほ)女々(めゝ)しうなりしぞかし。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
「珊瑚(さんご)の枝は海の底、薬を飲んで毒を吐く軽薄の児(じ)」と言いかけて吾に帰りたる髯が「それそれ。合奏より夢の続きが肝心(かんじん)じゃ。——画から抜けだした女の顔は……」
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
病児を抱えて座食する事は、到底至難の事なれば、自分は甘んじて児(じ)のために犠牲とならん、何とぞこの切(せつ)なる心を察して、姑(しば)らく時機を待ちくれよという。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
自然の児(じ)になろうか、又意志の人になろうかと代助は迷った。彼は彼の主義として、弾力性のない硬張(こわば)った方針の下に、寒暑にさえすぐ反応を呈する自己を、器械の様に束縛するの愚を忌(い)んだ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供のために、枉(ま)げて来り給えなどいと切(せ)めて勧めけるに、良人(りょうじん)と児(じ)との愛に引かれて、覚束(おぼつか)なくも、舅姑(きゅうこ)の機嫌(きげん)を取り、裁縫やら子供の世話やらに齷齪(あくせく)することとなりたるぞ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
活躍の児(じ)は一句にして挨拶(あいさつ)と紹介を兼(かね)る。宗近君は忙しい。甲野さんは依然として額を支えて立ったままである。小野さんも手持無沙汰(てもちぶさた)に席に着かぬ。小夜子と糸子はいたずらに丁寧な頭(つむり)を下げた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)