停車場ステエション)” の例文
停車場ステエションうしろは、突然いきなり荒寺の裏へ入った形で、ぷんと身にみるの葉のにおい、鳥の羽ででられるように、さらさらと——袖が鳴った。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その手を摩払すりはらひつつ窓より首をいだして、停車場ステエションかたをば、求むるものありげに望見のぞみみたりしが、やがてあゐの如き晩霽ばんせいの空を仰ぎて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そんな風になっては、君方は何をし出すか分からないから、どうもはたで構わずに見ているわけには行かない。僕が今晩にも君方を停車場ステエションまで送って行こう。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
停車場ステエションかたを見ながら言つた、媼がしよぼ/\した目は、うやつて遠方のものにこすりつけるまでにしなければ、見えぬのであらう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今朝けさから御心配あそばして、停車場ステエションまで様子を見がてら電報を掛けに行くと有仰おつしやいまして、それでお出ましに成つたので御座います
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
停車場ステエション前で饂飩うどんで飲んだ、臓腑ぞうふ宛然さながら蚯蚓みみずのやうな、しツこしのない江戸児擬えどっこまがいが、うして腹なんぞ立てるものかい。ふん、だらしやない。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いやさう言れると慄然ぞつとするよ、実はさつき停車場ステエションで例の『美人びじクリイム』(こは美人の高利貸を戯称せるなり)を見掛けたのだ。あの声で蜥蜴啖とかげくらふかと思ふね、いつ見ても美いには驚嘆する。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それからみちを折曲って、草生くさはえの空地を抜けて、まばら垣について廻って、停車場ステエション方角の、新開と云った場末らしい、青田も見えて藁屋わらやのある。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
午後三時を過ぎて秋の日は暮れるに間もあるまいに、停車場ステエションの道には向わないで、かえって十二社の方へ靴のさきめぐらして、ステッキを突出した。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早や壁も天井も雪の空のようになった停車場ステエションに、しばらく考えていましたが、余り不躾ぶしつけだとおのれを制して、やっぱり一旦は宿に着く事にしましたのです。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取違えたんでしょう。お待ちなさいまし、逆に停車場ステエションの裏の方へ戻ってみましょう。いくらかあかりが見えるようです。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まさしくひとに嫁せらるるのである……ばかりでない、次か、あるいはその次の停車場ステエションにて下車なさるるとともにたちまち令夫人とならるる、その片袖である。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
停車場ステエションは、それあすこだからね。柵の中に積んだ石炭が見える、妙に白光しろびかりに光って、夜になるとあおく燃えそう。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大雪です——が、停車場ステエション前の茶店では、まだ小児たちの、そんな声が聞えていました。その時分は、山の根笹を吹くように、風もさらさらと鳴りましたっけ。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
停車場ステエション前の夜のくまに、四五台朦朧もうろうと寂しく並んだ車の中から、車夫が一人、腕組みをして、のっそり出る。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
直ぐにめて、そこへ世話をして、東京から来る時も、私が停車場ステエションへ迎いに行って、案内をしたんだっけが、七月盆過ぎから来ていて、九月の末の事だったよ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このうちは旦那様、停車場ステエション前に旅籠屋はたごやをいたしております、おいのものでもわたくしはまあその厄介でございます。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
停車場ステエションへ入った時は、皆待合室にいすくまったほどである。風は雪を散らしそうに寒くなった。一千年のいにしえの古戦場の威力である。天には雲と雲と戦った。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この畠を前にして、門前のこみちを右へけばとおりへ出て、停車場ステエションへは五町に足りない。左は、田舎道で、まず近いのが十二社じゅうにそう、堀ノ内、角筈つのはず、目黒などへくのである。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ですから、同列車の乗客のうちで、停車場ステエションを離れましたのは、多分私が一番あとだったろうと思います。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
停車場ステエションを出た所の、故郷ふるさとは、と一目見ると、石を置いた屋根より、赤く塗った柱より、先ずその山を見て、暫時しばらく茫然ぼうぜんとしてたたずんだのは、つい二、三日前の事であった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これを片手で、かい退けて、それから足を早めたが、霧が包んで、ひづめの音、とゞろ/\と、送るか、追ふか、停車場ステエションのあたりまで、四けんばかりあわいを置いてついて来た。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
真中に一棟ひとむね、小さき屋根の、あたか朝凪あさなぎの海に難破船のおもかげのやう、つ破れ且つ傾いて見ゆるのは、広野ひろのを、久しい以前汽車が横切よこぎつた、時分じぶん停車場ステエション名残なごりである。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
汽車は津幡つばたで下りた。市との間に、もう一つ、森下もりもとと云う町があって、そこへも停車場ステエションが出来るそうな、が、まだその運びに到らぬから、津幡は金沢から富山の方へ最初の駅。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中空なかぞら冴切さえきって、星が水垢離みずごり取りそうな月明つきあかりに、踏切の桟橋を渡る影高く、ともしびちらちらと目の下に、遠近おちこち樹立こだちの骨ばかりなのをながめながら、桑名の停車場ステエションへ下りた旅客がある。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
樹島は、ただ一目散に停車場ステエションかけつけて、一いきに東京へげかえる覚悟をして言った。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんな風で停車場ステエションへ迎いに行って、連れて来て、うちも案内する、近所で間に合せの買物まで、一所に歩行あるいて、台所のまないた摺鉢あたりばち恰好かっこうまで心得てるような関係になっていたから
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おかしな思出はそれぐらいで、白河近くなるにつれて、東京から来がけには、同じ処でがふけて、やっぱりざんざぶりだった、雨の停車場ステエションの出はずれに、薄ぼやけた、うどんの行燈あんどう
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小児一 やあ、停車場ステエションの方の、遠くの方から、あんなものがつて来たぜ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「何、山田の停車場ステエションから、直ぐに、右内宮道ないぐうみちとある方へ入って来たんだ。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて停車場ステエションへ出ながらると、旅店はたごやの裏がすぐ水田みずたで、となりとの地境じざかい行抜ゆきぬけの処に、花壇があって、牡丹が咲いた。竹の垣もわないが、遊んでいた小児こどもたちも、いたずらはしないと見える。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
停車場ステエションから、震えながらくるまでくる途中、ついこの近まわりに、冷たい音して、川が流れて、橋がかかって、両側に遊廓ゆうかくらしい家が並んで、茶めしの赤い行燈あんどんもふわりと目の前にちらつくのに——ああ
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
停車場ステエションを、もう汽車が出ようとする間際まぎわだったと言うのである。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)