侮辱ぶじょく)” の例文
あれだけの凶賊を、探偵がとらえようともしないで逃がしてやるのが、どんなひどい侮辱ぶじょくだか、きみには想像もできないくらいだよ。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いやいや、ぼくのお情けの球を打って喜ぶ青木ではない、そんなことはかえって青木を侮辱ぶじょくしかつ学校と野球道を侮辱するものだ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
露出だの猥本などというものは、たちまち、あきてしまうものですよ。禁止するだけ、むしろ人間を、同胞を、侮辱ぶじょくしているのです。
余はベンメイす (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いつも憤然ふんぜんとしておおいいかり、さながら自分の愛人を侮辱ぶじょくされた時の騎士きしのごとく、するど反撃はんげきやりをふるってき当って行った。
侮辱ぶじょくされたとも気まりが悪いとも思わなかった。むしろこっちからも相手になってからかってやろうかと思うくらいに心の調子が軽かった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
中津藩の小士族で他人に侮辱ぶじょく軽蔑けいべつされたその不平不愉快は骨にてっして忘れられないから、今ら他人に屈してお辞儀をするのは禁物である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
康頼 侮辱ぶじょくされながら、しかも自殺できないほどの苛責かしゃくがありましょうか。それは実に一種言いようのないわるい状態です。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
主席、あなたのその態度が改められない以上、あなたは、金博士を侮辱ぶじょくし、そして科学を侮辱し、技術を侮辱し、そして……
などいうは、こんにちの女子に対してははなはだ侮辱ぶじょくげんに聞こゆるも、女学校の設置なかりし時代においてはさもありしなるべしと思われる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
虚栄心をくじくのは修養上一種の方便かも知れぬが、何もおのれの真価以下の顔を見せて、これがあなたですよと、こちらを侮辱ぶじょくするには及ぶまい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だのに、それらの諸将の下に、主君のお名を記し、あまつさえ秀吉の指揮をうけよというに至っては、武門に加えられる侮辱ぶじょくの最大なるものだ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らは新聞記者を以て犬猫同様に思ふが故にこの侮辱ぶじょくの語を吐きたるものならん。しかれども新聞記者は軍中にありてこれを争ふの権利なきなり。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
パリス だまされて、なかかれて、侮辱ぶじょくされて、賤蔑さげすまれて、ころされてしまうたのぢゃ。にく死神しにがみめにだまされたのぢゃ。
「へん、貴さまの出る幕じゃない。引っこんでいろ。こいつが我輩、名誉ある県会議員を侮辱ぶじょくした。だから我輩はこいつへ決闘を申し込んだのだ。」
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ぼくみたいに、弱気な人間には、ひとから侮辱ぶじょくされて抵抗ていこうの手段がないとあきらめ切る時ほど、悲しい事はありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そういう言葉には、ありありと、役者を身分ちがいと見、女がたを片輪ものとさげすむ侮辱ぶじょくがふくめられていた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「おい、そんなに僕を侮辱ぶじょくしないで呉れよ。君がその気ならはばかりながら一臂いっぴの力を貸す決心でいるんだからね」
越年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし先生はもうそれらをば余儀ない事であると諦めた。こんな事をいって三味線の議論をする事が、已に三味線のためにはこの上もない侮辱ぶじょくなのである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
我が夫としてむかえるなど全く己れを侮辱ぶじょくすることだと考えたかも知れぬよろしくこの辺の事情を察すべきであるつまり目下めしたの人間と肉体の縁を結んだことを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし、どうかすると、まったくの話、心の底から、何をっていうふうに、腹を立てることもあるの。で、その侮辱ぶじょくは、もう、どうしたって忘れやしないさ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いたくないから、わないのだよ。」と、きっぱりといいました。かれは、すくなくも侮辱ぶじょくたいする仕返しかえしをしたように、ちいさなかたをぐっとげたのです。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
市五郎にとっては容易ならぬ侮辱ぶじょくですから、ムカッと怒って、ポカリと一つ木戸番の横面よこつらなぐりつけました。
また、君らの奴隷根性がなさけないとさえ言った。こういう言葉は人間に対する最大の侮辱ぶじょくの言葉で、心に愛情をもつものの容易に口にすべきことではない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それに彼は父が、他の者ならともかく、自分を侮辱ぶじょくしようなどと考えるはずがないと、固く信じていた。
「例の士族平民で行き悩んでいるんだそうだ。これぐらい侮辱ぶじょくされゝば僕も諦めるのが本式だろうね?」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その侮辱ぶじょくは、女らしく執拗で、底意地が悪くて、はたで聞いている者も、胸が悪くなるほどだったと言いますから、お雪が小さい胸を痛めたことは言うまでもありません。
が、時間の移るにつれ、だんだん無愛想ぶあいそうな看守に対する憎しみの深まるのを感じ出した。(僕はこの侮辱ぶじょくを受けた時に急に不快にならないことをいつも不思議に思っている。)
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それを聞いて次郎じろうくんはぴくりと耳を動かしました。そしてかんかんにおこってしまいました。こんな侮辱ぶじょくがあるもんか。次郎くんは自分が侮辱されたようにはらを立てました。
決闘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そうしてひどく傲慢ごうまんだ。うん、まだある、厭に気取っている。そうして変にスベスベしていて、自分達ばかりが高等人種で、その他の者を侮辱ぶじょくする。そうしてひどく侵略的だ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「犬だって!」犬だって、これじゃあまりみじめだ! 龍介は誇張なしにそう思って、泣いた。龍介は女を失ったということより、今はその侮辱ぶじょくに堪えられなかった。心から泣けた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
かかる不潔なる仕事をしながら、安い汲取賃の支給を受け、しかも聞くに耐えぬ侮辱ぶじょくを受けなければならぬ道理はない、組合が出来た以上は、も早、市民は協定以外の料金を以て
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「私が帰るというものを、帰してくださらないから、こんな侮辱ぶじょくを受けたのです。」
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
言わば、頭をかきむしるような絶望の気持で——妓を侮辱ぶじょくしたかったのではない。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
動いている群衆の面前で、引揚げられると云うことは、その屍体に対する侮辱ぶじょくのみではなく、人間全体に対する、ひどい侮辱であるように思われて、いきどおりと悲しみの混じったある感懐かんかい
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は生来喧嘩は好きではないし、自分から喧嘩を売ることは殆んどない。親爺こそ私を侮辱ぶじょくしたのである。私には自分を押える余裕がなかったのだ。止むを得ないことだと思っている。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
女教師もこのKの侮辱ぶじょくに対してただちょっと横眼で答えただけで、そのほかは猫にかまいつづけていた。つまり、最初の怒りはKの手に血を流させるという仕置きでおさまったようだ。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
綾麻呂 よし!……くれぐれも我々の受けたあの侮辱ぶじょくだけは忘れないようにしなさいよ。不潔な血を流すことはたやすいことだが、我々はそんな他愛もない復讐はいさぎよしとしないのだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
と言えば相手を充分に侮辱ぶじょくしうるほどの、悪口あっこうの一つになっていたものだ。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
好意からの助言には相違無いが、若崎は侮辱ぶじょくされたように感じでもしたか
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
カピが同じやり方でわたしを侮辱ぶじょくしたならば、わたしの自尊心じそんしんはずいぶんきずつけられたにちがいなかった。けれどもジョリクールがどんなことをしようと、わたしはけっしておどろかなかった。
かれはある恐るべき侮辱ぶじょくを見て取らずにはいられなかった。
けれど、どうしても私はあの侮辱ぶじょくを忘れられなかった。
侮辱ぶじょくだ。立派な挑戦じゃ——。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つねに命令にそむき、侮辱ぶじょくし、反対の行動をとった自分である。それをいま、富士男は一身の危険きけんをおかして一命を救ってくれた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
いうまでもなく、これは生前の福田氏に深き深き恨みを抱く、かの下手人が、死者に最大の侮辱ぶじょくを与える為に案出した、恐ろしき私刑に相違なかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
俊寛 わしは餓鬼がきのように暮らしてきた。どうして生きてきたか自分にもわからない。すべては困苦と欠乏と孤独と、そして堪えられない侮辱ぶじょくだった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
笑われた、は時によって死以上の致命的な侮辱ぶじょくを意味した。ひとり武門ばかりでなく、町人間の借用証文にさえも
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はともかく私の女に最後の侮辱ぶじょくを加えることを抑えている私自身の惨めな努力を心に寒々と突き放していた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
重吉はかつて覚えたことのない侮辱ぶじょくを感じて決然として女の家を出ようと思いながら、またしずかにその身をかえりみると、勤先をしくじってから早くも一年ぢかく
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日々ひび得意先を回る魚屋さかなや八百屋やおや豆腐屋とうふやの人々の中に裏門を通用する際、かく粗末そまつなる木戸きどをくぐらすは我々を侮辱ぶじょくするなりといきどおる民主主義の人もあるまい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)