何等なにら)” の例文
當番たうばん水夫すゐふからは何等なにら報告ほうこくうちけつして信じません。いわんや此樣こんな平穩おだやか海上かいじやう難破船なんぱせんなどのあらうはづい、無※ばかなツ。
私もその家はおとずれてみたことがあるが、嫁のだいが変ってからは何等なにらのことも無いような風である。真箇まったく妙なことがある。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
およそ市中において、自分を呼棄てにするは、何等なにらの者であろうと、且つあやしみ、且つ憤って、目をとがらして顔を上げる。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
当主格之助などは、旧塾に九人、新塾に十余人ゐるひらの学生に比べて、ほとんど何等なにらの特権をも有してをらぬのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
地上ちじゃうそんするものたるかぎり、如何いかしいしな何等なにらかのえききょうせざるはく、また如何いかいものも用法ようはふたゞしからざればそのせいもとり、はからざるへいしゃうずるならひ。
あるひは罪悪かも知れん。けれども、茫々然ぼうぼうぜんと呼吸してゐるばかりで、世間に対しては何等なにらの益するところも無く、自身に取つてはそれが苦痛であるとしたら、自殺も一種の身始末みじまつだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この国は今言うような趣味の材料には、最も豊富な国と言っていい、都鄙とひおしなべて、何か古城趾こじょうしがあるとすればことに妙であるが、其処そこには何等なにらかの意味に於いて、何等なにらかのかいが必ず潜んでいる。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
海面かいめんよりたか白色はくしよくひかり海上法かいじやうほふしたが甲板かんぱんより二十しやく以上いじやうたかかゝげられたる檣燈しやうとうにて、いまや、何等なにらかのふねは、弦月丸げんげつまるあとふて進航しんかうしつゝきたるのであつた。
温泉いでゆ宿やどして、じやうぬまから引返ひきかへ途中とちゆうは、そゞろに、ぐにもはじむべき——いなすで何等なにらそれむかつてはたらく……あらた事業じげふたいする感興かんきようくもるやう、かひなはねつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何等なにらかの知識を女房が得たらしいとは認めても、その知識の範囲を測り知ることが出来ぬので、なんとも云うことが出来ない。末造はみだりに語って、相手に材料を供給するような男ではない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
さては何等なにらの密会ならん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さては先日せんじつ反古ほご新聞しんぶんしるされてあつた櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさその帆走船ほまへせんとの行衞ゆくゑなどがあだか今夜こんやこの物凄ものすご景色けしき何等なにらかの因縁いんねんいうするかのごとく、ありありとわたくし腦裡のうりうかんでた。