事件こと)” の例文
ごうを煮やした小太郎は舌打ちして行ってしまった。ただこれだけの事件ことではあるが、いそうで開けないのを不審と白眼にらめば臭くもある。
源吉は何か事件ことがあつても、じつとしてゐた。他の者なら、それについて何か云つたり、云ひあつたりする。源吉にはそれがなかつた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
乳母ばあやは今日の夕刊を見たろう? 事件ことがどうも面白くないんだ。ボーシュレーは書記を殺した下手人げしゅにんがジルベールだと云い張っている。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「ソレソレ。その日田金がドウヤラ今度の振袖娘胴切の事件こと発端おこりらしいケニ、世の中はどう持ってまわったものかわからん」
それでもこのなが星霜つきひあいだにはなにやとあとからあとからさまざまの事件こといてまいり、とてもその全部ぜんぶ御伝おつたえするわけにもまいりませぬ。
議員さんがたは、この事件ことをいっしょけんめいに相談しましたが、さて、男の子をどう処置しまつしていいか、見当けんとうがつきません。
もっともいずれにせい、わしが思うたほどの事件ことでない、とだけは了解したのじゃけれども、医学士などは、出たら目じゃろう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供心にはそうたいした事件ことであろうと思うどころか、覚えていたのが不思議なほどの、かすかな聞きかじりだ。
「何も事件こととてござりませぬが、今日は殿様のお猪狩りでそれで城下まで活気付いて騒がしいのでございます」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかも事件ことはこれきりですみそうもない。祝氏しゅくし李家りけとの同族の仲には大きなヒビが入ってしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし走交はせちがう群集にさえぎられて実は何の事件ことやら一向に見定める事が出来なかったのである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
本國ほんごくでゝから二年間ねんかんたびからたびへと遍歴へんれきしてあるは、折々をり/\日本につぽん公使館こうしくわん領事館りようじくわんで、本國ほんこくめづらしき事件ことみゝにするほかは、日本につぽん新聞しんぶんなどをこときはめてまれであるから
「だって、かれしかれ事件ことさえ起れば、あなたの懐中ふところへお宝は流れ込むんで」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「有難いことに、あっしが乗出すような気の利いた事件ことは一つもねえ」
「おお、お慈悲ぶかい聖母さま、あなた様はこんな事件ことの起るっていうことを、決して決してお許しになりますまい……今にあなた様の御前おんまえに、御礼のおいのりを捧げることの出来まするように……」
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「どんな御用でしょう、この間の事件ことではないでしょうか」
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
それは鎌倉かまくら旧家きゅうかおこりました事件ことで、主人あるじ夫婦ふうふようやく五十になるか、ならぬくらい年輩ねんぱい、そして二人ふたりあいだにたった一人ひとりむすめがありました。
どうも怪訝おかしいと言う近所界隈の取沙汰じゃ……吾々こっちもドウモそこいらが臭いような……事件ことの起りはその辺ではないかと言いたいような気持がするが
その時出て行こうとしていたおめかけふうの粋な女が、供の下女と一しょに引っ返して来て、こういう事件ことができた以上、このまま帰るのは気持ちが悪いから
それが、さうしたのだつた! この事件ことには隨分尾鰭がついて、部落内にひろまつた。勝もそれをきいた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
あんまり事件ことが突然なので、誰も彼もびっくりしたが、岩野氏はあっさりと、荷物を積んだ車と一緒に
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
『オヤッ、不思議。あの女もやはり水晶の栓を探しているぞ。こりゃ事件ことがいよいよ錯雑さくざつして来たわい』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「はじめの夜は、ただその手毬てまりせましただけで、別に変った事件ことも無かったでございますか。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「その斟酌しんしゃくには及ぶまいて。君の方でゆっくりするようなら、僕の方で事件ことを急がせるまでだ!」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
例の黒旋風こくせんぷう李逵りきである。——李逵りきなどは無用な相棒、ヘマは仕出来しでかしても、ろくなしにはならぬと退けられたのだが——事件ことの起りは自分が殷直閣いんちょっかくを殺したことにある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらおもひめぐらすと此度このたび事件ことは、なにからなにまで小説せうせつのやうだ。
もともとこちらの世界せかいのことであるから、さまでかわった事件ことおこらぬ。最初さいしょここへまいったとき蒼黒あおぐろかったわしからだがいつのにかしろかわったくらいのものじゃ。
これはイクラ猪口兵衛どんでも知らっしゃれん事じゃが、私がこの事件ことに限って匙を投げかけておるについては、深い仔細があることじゃ。実を言うとなあ。
だから私を助けたので、そうでなければかえって私の肉を食ったろうということである。こんな恐ろしい事件ことを彼女は率直の手真似をもって一向平然として語るのであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とばかり、都のうちにふみとどまって、都じゅうを馬糞と馬蠅のちまたとなし、大刀、長柄を横たえ歩き、何か、事件ことこそ起れと、物騒な放言や火遊びを持ち廻っている状だった。
いずれそれも、怪しき事件ことの一つであろう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今更いまさら昨夜さくや事件ことかんがへるとまつたゆめやうだ。
ただ月輪殿に会って、談合はなしたい事件ことがあって、それも前々から手紙をよこしたうえで来ているのだ。ところが、なんのかのといって、会わせねえから、ここで当人を捕えたという仔細。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一切のもつれことごとく解き消え、事件こと治まる次第となりました。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「何かあったのかッて。べら棒め、江戸の丑満時うしみつに、事件ことのねえ晩などが一晩だってあるものか。またおれたちの眼を抜きやがって、堀留河岸の呉服問屋へ、五人組の押込がはいったんだ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たんへんな事件ことが起こりましたので」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
事件ことの起りというのは切通しの晩、おれが夜光の短刀の手がかりをつけるため、切支丹屋敷きりしたんやしきのお蝶を捕まえているところを、邪魔したのはあれは誰だ? ——相良金吾と徳川万太郎でなくて何者だ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは事件ことでございますな」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
事件ことの起りはこうである。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)