中年増ちゅうどしま)” の例文
御覧の通り、まことに下品な、シャクレた顔をした中年増ちゅうどしまで、顔一面に塗りつけております泥は、厚化粧のつもりだそうで御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ヴィール夫人は三十歳ぐらいの中年増ちゅうどしまのわりに、娘のような温和な婦人であったが、数年前に人と談話をしているうちに突然発病して
楽屋へ来たのは洗い髪の中年増ちゅうどしま。色が白くて光沢つやがある。朱羅宇しゅらう煙管きせると煙草盆とをさげて、弁慶縞の大柄おおがらに男帯をグルグル巻きつけて
まえにそう知らせてあったらしく、中年増ちゅうどしまのはきはきした女房が出て、自分でその部屋へ案内をし、着換えも手伝ってくれた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二十四五の中年増ちゅうどしまで、内証ないしょうは知らず、表立った男がないのである。京阪地かみがたには、こんな婦人を呼ぶのにいのがある。(とうはん)とか言う。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つやッぽい節廻ふしまわしの身にみ入るようなのに聞惚ききほれて、為永ためなが中本ちゅうほんに出て来そうなあだ中年増ちゅうどしまを想像しては能くうわさをしていたが、或る時尋ねると
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
向こうには縁台に赤い毛布けっとを敷いたのがいくつとなく並んで、赤いたすきであやどった若い女のメリンスの帯が見える。中年増ちゅうどしまの姿もくっきりと見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
子守ッ子みたいな禿かむろばかりでも五人、中年増ちゅうどしまや婆さんや、男衆など合せると、総勢四十人からの大家族である。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのなかで半七の眼についたのは三十二三の中年増ちゅうどしまで、藍鼠あいねずみ頭巾ずきんに顔をつつんでいるが、浅黒い顔に薄化粧をして、ひと口にいえば婀娜あだっぽい女であった。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天井から番傘がつるしてあるだけを覚えている。眉毛まゆげをとった中年増ちゅうどしま女房おかみさんと、その妹だというひとと、妹の方の子らしい、青いせた小さな男の子とがいた。
「おやお色さん、早々と」女将おかみが驚いて顔を長くした。眉を落とした中年増ちゅうどしま唇から真っ白い歯を見せた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二十七八の色の青い小作りの中年増ちゅうどしまで、髪を櫛巻にしている。昨夜私の隣に寝ていた夫婦者の女房だ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
知らない顔の客のことで、口を掛ければ直ぐに飛んで来るような、中年増ちゅうどしまおんなが傍へ来て、先ず酒の興を助けた。庭を隔てて明るく映る障子の方では、放肆ほしいままな笑声が起る。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見違えるほど血色にうるみが出来て、髪なども櫛巻くしまきのままであった。たけの高い体には、えりのかかった唐桟柄とうざんがら双子ふたこあわせを着ていた。お雪はもう三十に手の届く中年増ちゅうどしまであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大阪のある芸者——中年増ちゅうどしまであった——がその色男を尋ねて上京し、行くえが分らないので、しばらく僕の家にいた後、男のいどころが分ったので、おもちゃのような一家を構えたが
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
{1}『春色辰巳園しゅんしょくたつみのその』巻之七に「さぞ意気な年増としまになるだらうと思ふと、今ツから楽しみだわ」という言葉がある。また『春色梅暦しゅんしょくうめごよみ』巻之二に「素顔の意気な中年増ちゅうどしま」ということもある。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
最後に出てきた女は、まさしくどこかのお屋敷勤めの腰元らしい中年増ちゅうどしまです。
五十六十の老婆もあれば中年増ちゅうどしまの女房もあり、まだうら若い娘などもいる。
蔓細千成つるぼそせんなり、茄子の花、おはぐろつけたて中年増ちゅうどしま
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
一人の中年増ちゅうどしまが出て、僕を一間に連れ込んだ。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「まあ親方」と中年増ちゅうどしまの女が出て来た、このうちの主婦だろう、小さな紙包みを持っていて、それをすばやく男のたもとに入れた
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
中年増ちゅうどしまの女中がちょいと浮腰で、ひざをついて、手さきだけ炬燵に入れて、少し仰向くようにして、旅商人と話をしている。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お定は二十五六で、色のあさ黒い、細おもてのりきんだ顔で、髪の毛のすこし薄いのをきずにして、どこへ出しても先ず十人なみ以上には踏めそうな中年増ちゅうどしまであった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
渡舟わたし待ちの前から、こう話しかけてきた中年増ちゅうどしまがある。身装みなりは地味、世帯やつれの影もあるが、腰をかがめた時下げた髪に、珊瑚さんごの五分だまが目につくほどないい土佐とさだった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辿たどりつくべきところへ辿りついて、やっとほっとした時分には、彼女もすでに二十一、二の中年増ちゅうどしまであり、その時代のことで十か十一でおしゃくに出た時のことを考えると、遠い昔しの夢であった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
◇美人の手……綺麗な、スンナリとした、上品な中年増ちゅうどしま……。
……浅葱あさぎたすき、白い腕を、部厚な釜のふたにちょっとせたが、丸髷まるまげをがっくりさした、色の白い、歯を染めた中年増ちゅうどしま
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこは四帖半の小部屋で、行燈が明るく、手焙てあぶりの側に中年増ちゅうどしまの女が一人坐ってい、千之助を見るとうしろへさがって手を突いた。千之助はあがって、刀を右に置きながら坐った。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この女もその時分はすでに二十六七の中年増ちゅうどしまであり、東京はいたところの花柳界をわたりあるき、信州へまで行ってみて、この世界はどこも同じだとわかり、ある特志な養蚕家に救われてようやく東京へ帰り
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
間に合せの車夫に腕車をひかせ、今や鮫ヶ橋より帰館の途次、四ツ谷見附に出でて、お堀端を走ること十間ばかり、ふとあらわれたる中年増ちゅうどしま、行違いざま
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と尻ッぱねの上調子で言って、ほほと笑った。鉄漿かねを含んだ唇赤く、細面で鼻筋通った、引緊ひきしまった顔立の中年増ちゅうどしま
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
歯を染めた、面長おもながの、目鼻立めはなだちはっきりとした、まゆおとさぬ、たばがみ中年増ちゅうどしま、喜蔵の女房で、おしなという。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と身を横に、おおうたともしびを離れたので、ぎょくぼやを透かした薄あかりに、くっきり描きいだされた、上り口の半身は、雲の絶間の青柳あおやぎ見るよう、髪もかたちもすっきりした中年増ちゅうどしま
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ、私だ。」とすっきりいって、ずッと入ったのは大和屋のねえさんで、蔦吉つたきちという中年増ちゅうどしま
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大熨斗おおのしを書いた幕の影から、色のあおい、びんの乱れた、せた中年増ちゅうどしまが顔を出して、(知己ちかづきのない、旅の方にはどうか知らぬ、おのぞみなら、内から案内して上げましょうか。)
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何だろう、ここの女中とは思うが、すばらしい中年増ちゅうどしまだ。」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)