鼻頭はなづら)” の例文
ハッとけようとなさる。お顔の処へ、もう大きな鼻頭はなづらがぬッと出て、ぬらぬら小鼻が動いたんだっておっしゃるんだよ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人のやりの穂先がしわって馬と馬の鼻頭はなづらが合うとき、鞍壺くらつぼにたまらず落ちたが最後無難にこの関をゆる事は出来ぬ。よろいかぶと、馬諸共もろともに召し上げらるる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お銀様は、その一茎の花を今度は自分の鼻頭はなづらへあてがって、すみれに酔うが如く、むさぼり嗅ぐのでありました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お勢が顔を視ている……このままで阿容々々おめおめ退しりぞくは残念、何か云ッて遣りたい、何かコウ品のい悪口雑言、一ごんもとに昇を気死きしさせる程の事を云ッて、アノ鼻頭はなづらをヒッこすッて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
湯氣をてたるこの鼻頭はなづらは自由に出來る。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
滝太郎は黙ってうなずくとひとしく、駒の鼻頭はなづら引廻ひきめぐらした。ひづめの上ること一尺、夕立は手綱を柳の樹に結えられていなないた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庄太郎は仕方なしに、持っていた細い檳榔樹びんろうじゅ洋杖ステッキで、豚の鼻頭はなづらった。豚はぐうと云いながら、ころりとかえって、絶壁の下へ落ちて行った。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と来り、前途ゆくてに立って、きっと見るより、仕丁を左右へ払いのけ、はた、とにらんで、牛の鼻頭はなづらを取って向け、手縄たづなを、ぐい、とめて、ずかずか我家の前。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ広海ひろうみ荒魚あらうおも、三つ尾のまるも、同じ箱に入れられれば、水族館に隣合となりあわせの友となる。隔たりの関は見えぬが、仕切る硝子ガラスき通りながら、突き抜けようとすれば鼻頭はなづらを痛めるばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同じ生命いのちを、我に与えよ、と鼻頭はなづらを撫でて牛に言い含め、終夜よもすがら芝を刈りためたを、その牛の背に山に積んで、石を合せて火を放つと、むちを当てるまでもない。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車屋の挽子がね、おさん、え、え、ええッて、人の悪いッたら、つんぼの真似をして、痘痕の極印を打った、其奴そいつ鼻頭はなづらへ横のめりに耳をつっかけたと思いねえ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のんきな馬士まごめが、此処ここに人のあるを見て、はじめて、のっそり馬の鼻頭はなづらあらわれた、真正面ましょうめんから前後三頭一列に並んで、たらたらりをゆたゆたと来るのであった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……トタンに額を打って、鼻頭はなづらにじんだ、大粒なのに、むっくと起き、枕を取って掻遣かいやりながら、立膝で、じりりと寄って、肩までまくれた寝衣ねまきの袖を引伸ばしながら
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔面がんめんくろうるしして、くま鼻頭はなづら透通すきとほ紫陽花あぢさゐあゐながし、ひたひからあぎとけて、なが三尺さんじやくくちからくちはゞ五尺ごしやく仁王にわうかほうへふたしたはせたばかり、あまおほきさとつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
媛神 ほほほほ、(微笑ほほえみつつ寄りて、蘆毛の鼻頭はなづらを軽くつ)何だい、お前まで。(駒、高嘶たかいななきす)〔——この時、看客の笑声しょうせいあるいは静まらん。しからんには、この戯曲なかば成功たるべし。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのずんどぎりな、たらたらと濡れた鼻頭はなづらに、まざまざと目を留めると、あの、前世を語りそうな、意味ありげな目で、じっと見据えて、むぐむぐと口を動かしざまに、ぺろりと横なめをした舌が円い。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いずれも鼻頭はなづらにおよそ三間あまりの長綱をつけて、姿形も森の中に定かならず、牛曳うしひきと見えるのが飛々に現れて、のッそり悠々として通っていたのであるが、今くだんの大鷲が、風を起して一翼に谷を越え
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大きな鼻頭はなづらの正面にすっくりと立った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おほき鼻頭はなづら正面しやうめんにすつくりとつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)