鳥目ちょうもく)” の例文
銀次が仏の顔を見て又もサメザメと泣いている間に、皆ヒソヒソと耳打ちし合って、いくらかのお鳥目ちょうもくを出し合って包んだりした。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と——うっかり居眠りの頬杖をまして、びっくりしたという顔で、新九郎も鳥目ちょうもくを払い、泥酔した足どりですぐまたそこを出て行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容易たやすいことです、進ぜましょう」麟太郎はたもとへ手を入れたが鳥目ちょうもくなどは一文もない。まして家の内を探したところで金のありよう筈がない。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼らは、ここで小半刻も、峠を登り切った疲れを休めると、鳥目ちょうもくを置いて、紫に暮れかかっている小木曾おぎその谷に向って、鳥居峠を降りていった。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
サア、たんまりお鳥目ちょうもくを投げたり、投げたり! チャリンといいのする小判の一めえや二めえ、降ってきそうな天気だがなア
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その牡丹だの、芍薬だの、結構な花が取れますから、たんとお鳥目ちょうもくが頂けます。まあ、どんなに綺麗きれいでございましょう。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それからこん度島へおやりくださるにつきまして、二百もん鳥目ちょうもくをいただきました。それをここに持っております。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
物慣れた甚太夫は破れ扇に鳥目ちょうもくを貰いながら、根気よく盛り場をうかがいまわって、さらに気色けしきも示さなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
家厳かげんが力をつくして育し得たる令息は、篤実一偏、ただめいこれしたがう、この子は未だ鳥目ちょうもくの勘定だも知らずなどと、あらわうれえてそのじつは得意話の最中に
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところで、今夜お前さんたちがわしの店で一席やれば、村の人を大勢集めてきてお鳥目ちょうもくを貰ってやる。
酒徒漂泊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
鳥目ちょうもくを出そうとして帯の間へ手をやった時は、先ほどから我慢していた恐ろしい眠気が急に襲って来て、しょうも他愛もなく美しい島田まげがガックリ前へ傾きました。
「めずらしい方だな。奉行所へ呼び出して、鳥目ちょうもく五貫文の御褒美でもやるか」と、半七は笑った。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どう見たって腹っからの乞食の子だが、することがちょっと変っている。通りすがりに一文、二文と、かけ碗のなかへ鳥目ちょうもくを落すひとがあると、妙に鼻にかかった声で
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
斯様かように申しますものですから、私が事を分けて、いいえ、ございませぬ、門付かどづけでいただいた鳥目ちょうもくが僅かございましたのを、それで、甲府の町のはずれで饂飩うどんを一杯いただいて
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
じょっちゃんも坊さんも——お内儀さんが、懐から大きな、ちりめんの、巾着きんちゃくを出して、ぐるぐると、巻いたひもを解いてお鳥目ちょうもくをつかみ出して払うのを、家の者に気がつかれないように
たみらしむべし、知らしむべからず、貧しい者には攘夷もなにも馬の耳に念仏であろうぞ。小判、小粒、鳥目ちょうもく、いかような世になろうと懐中が豊であらばつねにあの者共は楽しいのじゃ。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
進退こゝきわまったなア、どうも世の中に何がせつないといって腹の空るくらいせつない事はないが、どうも鳥目ちょうもくがなくって食えないと猶更空るねえ、天草のいくさでも、兵糧責ではかなわぬから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それと同時に太刀一腰と鳥目ちょうもく千疋とを送ってきた。
百城も、鳥目ちょうもくを置いて立上った。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
鳥目ちょうもくを種なしにした残念さ
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「まだお若い普化宗ふけしゅうのお方。あれ、あのように一心に吹いているのに、誰か、お鳥目ちょうもくに気がつく店の者はいないのかしら……」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ以前から髪飾りと代えて、お玉のお吉は三味線を手に入れ、それを弾いて門に立ち、一文二文と貰う鳥目ちょうもくで、二人は今日までくらして来た。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おさよの考えでは、こうして臨時にいただいたお鳥目ちょうもくをためたら、半分にはめのお給金よりもこのほうが多かろう。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さて桁を違えて考えてみれば、鳥目ちょうもく二百文をでも、喜助がそれを貯蓄と見て喜んでいるのに無理はない。その心持ちはこっちから察してやることができる。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鳥目ちょうもくは元より惜しくはない。だが甚太夫ほどの侍も、敵打の前にはうろたえて、旅籠の勘定を
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
絵師は、さっさと紙をべて、縦横に筆を走らせ、見るまに悪魔除けの鍾馗様を作り上げてしまうと、おかみさんは喜んでそれを受取り、いくらかの鳥目ちょうもくを紙に包んで去りました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
茶店の女房は茶代の鳥目ちょうもくを読み乍ら、珍しく気前の良い客に問いかけました。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ついこの前途さきをたらたらと上りました、道で申せばまず峠のような処に観世物みせものの小屋がけになって、やっぱり紅白粉べにおしろいをつけましたのが、三味線さみせんでお鳥目ちょうもくを受けるのでござります、それよりは旦那様
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四万円——現今なら、その位のお鳥目ちょうもくではというのが、新橋あたりにはザラにあるということだが、日露戦役前の四万円は、今からいえば、倍も倍も、その倍にも価するかねの値打があったのだろう。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
町「はい、生憎お鳥目ちょうもくが切れました」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鳥目ちょうもくを十分に置いてやれよ。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と老武士は小手を振ったがこれは鳥目ちょうもくを投げたので、投げたその手で二品を掴むとクルリと老武士は方向むきを変え
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
現にぎっしり詰った鬱金うこん木綿の財布の紐を首から下げて死んでいるのでも目的あて鳥目ちょうもくでないことは知れる。
鳥目ちょうもくをおいて、お通も後から出て来ようとすると、城太郎は彼女を床几しょうぎへ押しもどして
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さざなみや志賀の浦曲うらわの、花も、もみじも、月も、雪も、隅々まで心得て候、あわれ一杯の般若湯はんにゃとうと、五十文がほどの鳥目ちょうもくをめぐみたまわり候わば、名所名蹟、故事因縁の来歴まで
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
掃溜はきだめに鶴の降りたような清純な感じのするのが、幾日かとどこおった日済ひなしの金——といっても、さしに差した鳥目ちょうもくを二本、たもとで隠してそっと裏口から覗くと、開けっ放したままの見通しの次の間に
上官二十六人に白銀二百枚、中官以下に鳥目ちょうもく五百貫を引物ひきものとしておくった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鳥目ちょうもくを。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気の早い江戸っ子の群集なので、大次郎が扇子をひろげて歩き廻ると、ばらばらと鳥目ちょうもくが扇子の上へ飛ぶ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
太平記よみ獣のしつけ師——しがない商売もかずかずあるが、猫にたかっている蚤を取って、鳥目ちょうもくをいただいて生活くらすという、この「猫の蚤とり」業など、中でもしがないものであろう。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
撥捌ばちさばきがあれでまんざら捨てたものではございません、ああしてき出してから、お客様がかおをめあてにお鳥目ちょうもくを投げますると、あの撥で、その鳥目をはっしはっしと受け止めながら
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(さだめし鳥目ちょうもくの束ね縄もみな腐っていよう。一切縄を改めて束ね直して来い)
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鞍馬は、何程かのお鳥目ちょうもくを娘に握らせて、其儘そのまま宿に飛んで帰りました。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そっと居間へ帰って、いくらかのお鳥目ちょうもくを帯のあいだへはさむがはやいか、庭下駄のまま植えこみをぬって、ひそかに横手よこてのくぐりから、夜更けの妻恋坂を立ちいでました。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ちゃんと世間並みの鳥目ちょうもくを払って、小豆と、お頭附きと、椎茸しいたけ干瓢かんぴょうの類を買って行かれた清らかなあまじゃげな——払ったお鳥目も、あとで木の葉にもなんにもなりゃせなんだがな
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なにがしかの鳥目ちょうもくを投げ入れると、暫く黙祷をして居りましたが、何におびえたか、いきなり身をかえしてバタ/\と逃げて行くのを、山門の前で、大手を拡げた八五郎に止められてしまったのです。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「岐阜の御金蔵の鳥目ちょうもく一万六千貫、のこりなくたばね直して参りました」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳥目ちょうもくとてはござらぬが、饑饉ききんのおりから米飯がござる。それもわずかしかござらぬによってわしの分だけ進ぜましょう」——急いでくりやへ駈け込んで湯気いきの上がっている米飯を鉢へ移して持って来た。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たまに木樵山きこりやまがつに、ホンのぽっちりお鳥目ちょうもくを包んで心づけをしてみれば、彼等は、この存在物を不思議がって、覗眼鏡のぞきめがねでも見るように、おずおずとして、受けていいか、返していいか
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ一晩駕籠を担いで歩きさえすれば客があってもなくても朝別れる時には大之進が相当の鳥目ちょうもくを渡してくれるので、怪しいとは思いながら毎夜約束の刻限には誓願寺裏へ出かけて行った。