あわび)” の例文
その他、鮨の材料を採ったあとのかつお中落なかおちだの、あわびはらわただの、たいの白子だのをたくみに調理したものが、ときどき常連にだけ突出された。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
海女あまあわびを取る時は、水の中に潜って、のみを使うと聞きました。水に潜ってあれだけ鑿を使えるのは、武芸の達人にも出来ませんよ」
お雪さんは、歌磨の絵の海女あまのような姿で、あわび——いや小石を、そッと拾っては、鬼門をよけた雨落あまおちの下へ、積み積みしていたんですね。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東海道の薩埵峠さったとうげの倉沢であわびを食った時からでございますがね、その時から、あいつは無暗に、私にたてをついてみたがるんで、私が三里歩けば
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
内ン中のあわびッ貝、外へ出りゃしじみッ貝、と友達にはやされて、私は悔しがってく泣いたッけが、併し全く其通りであった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
章魚たこあわびが吸いついた時にそれをもいでのけようと思うても自分には手が無いなどというのは実に心細いわけである。
死後 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そして、海辺の渡し口に立っているあわび売りの加山耀蔵ようぞうに何かささやくと、嬉色きしょくをみなぎらして、すぐにまた、羅門らもん塔十郎の宿所へ引っ返して行った。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち、貞女は両夫にまみえずとの意である。これに反してあわびを嫌うのは、貝が対になっておらぬからである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
右の睾丸はゆっくりとあわびうごめくように上り下りの運動をするが、左の睾丸はあまり運動する様子がなかった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かにあわびかき、次々と持って来るのである。はじめはこらえて黙っていたが、たまりかねて女中さんに言った。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
魚を贈る時にはすべて熨斗(紙を一種異様な形にたたみ、中にあわびの乾した肉片を入れたもの)をつけない。
章魚とあわびは人によるとよく塩で揉む事がありますけれども塩で身が締まってどうしても柔くなりません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
蛸を「テンガイ」といったのはお寺の本堂の天蓋から見立てたことばで、あわびを「フセガネ」なぞはうまい。玉子を「御所車」、なかに「キミ」が御座るの洒落である。
符牒の語源 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
縁側には、七輪や、馬穴バケツや、ゆきひらや、あわび植木鉢うえきばちや、座敷ざしきは六じょうで、押入れもなければとこもない。これが私達三人の落ちついた二階借りの部屋の風景である。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
たとい市中にあってもそれが人家の庭園に叢生そうせいする場合には、格別の値いあるものとして観賞されないらしいが、ひとたびあわびの貝に養われて人家の軒にかけられた時
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
磯の岩にはアラメ、カジキ、あわびもあれば藤壺もある。昨夜、たしかに海鳥うみどりの声を聞いた。海鳥を食い、磯魚をせせっても、一年や二年は生きのびられぬことはあるまい。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今まで石の下に隠れていた古来からの迷信が復活よみがえった。家々のかどの柱に赤い紙や、あわびからなどを吊した。まだ花の咲くに間のある北国の、曇った空の下に吹く風が寒かった。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
海へ入ってあわびだの心太草ところてんぐさだの真珠だのを採るばかりでなく、畑の仕事まで一手に引き受けて決して亭主に迷惑を掛けません。それですから私も女房に申すのでございます——
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
唐人敦賀へ来る途上、この島に寄って食物をもうけ、あわびなど取る由を委細に載せ居る、これを以てかんがえると秀郷が蜈蚣を射て竜を助けた話も、話中の蜈蚣の眼が火のごとく光ったというも
杉田は水中深くもぐりこみました。彼はもとあわびとりを業としていたので、なかなかうまいのであります。かれこれ三分ほどももぐっていたでありましょうか、やがて彼はしずかに海面に顔だけを
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二階のふすまに半紙四ツ切程の大きさに複刻した浮世絵の美人画が張交はりまぜにしてある。その中には歌麻呂のあわび取り、豊信とよのぶの入浴美女など、かつてわたくしが雑誌此花このはな挿絵さしえで見覚えているものもあった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……とまれ、こうしたいかにも昔の日本の素町人みたいな、たとうれば窓辺のあわびッ貝に咲く、あの雪の下の花にかも似た感情も、じつは、まだ、我らの感情の、どこかに残ってはいるはずである。
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「君はあわびのとろろってものを知ってるかい?」
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
大変な風説うわさです、地震の前で海があおっと見えまして、この不漁しけなこと御覧じやし、かきあわび、鳥貝、栄螺さざえ、貝ばかりだ、と大呼吸いきをついております。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはあわびを取るためでもなければ、人魚のたわむれといったような洒落しゃれた心持でもない。つまり、風呂へ入る代りに、海で色揚げをするのかも知れません。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれの夫人は、事態を察して、早くも、利家のよろい具足を取揃え、のしあわび、かち栗などを三方に盛り、出陣の水さかずきを、一室の灯に、調ととのえていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるであわびの身のやうに体ぢゆうを引き締めて、固くなつてゐる様が指先に感じられる。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
村の一軒の小さな家の屋根が、あわびの大きな完全な介殻や、烏賊いかの甲で被われていたことを覚えている。これ等は食料として海から持って来たもので、殻を屋根の上にのせたのである。
降魔利生ごうまりしょうの鑿は岩からあわびがすよりも楽に、悪性男をあの世へ引渡してしまいました。これは、良いこととは少しも思いません。御仏に仕える身で、まア、私としたことが、何という大罪を
そのほか鱒、シビ鮪、鮭、カマス等の肉中には真田虫の原虫を含む。殊に鱒と鮭の生肉を長く食しおれば人の腹中に必ず真田虫を生ず。ふぐは卵巣に激毒あり、イナダ、ぶりあわび等は肝臓に毒あり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それから五分間——二人はあわびのように固くなって、教壇の陰にひそんでいた。もうよかろうというのでおそおそる頭をあげて窓の方をみると、窓は明け放しになったままで、もう怪漢の姿がなかった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが一向お芽出度く無い事サ、所謂いわゆるあわびの片思いでネ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
で——その湯口のそばには、江の島のあわび取りみたいに、「法斎きちがい」を商売にしている鼻ッたらしがウヨウヨ居て、湯鳴りがやむと、黒い手を出して
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪い洒落しゃれです。それに、弁慶にあわびを取らせたから、鮑は富来の名物だ、と言います。多分七つ道具から思いついたものだろう、と可心もこれには弱っている。……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まるであわびの身のやうに体ぢゆうを引き締めて、固くなつてゐる様が指先に感じられる。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
又私の食膳には Cynthia属に属する、巨大な海鞘ほやが供され、私はそれを食った。私はちょいちょい、カリフォルニヤ州でアバロンと呼ばれる、あわびを食う。帆立貝は非常に美味い。
「そいつは飛んだ判じ物だね。あわびツ貝か何かなら戀と判ずるが——」
... 煮ましょうか、しかし干瓢はなかなか急にやわらかくなりませんね」お登和「イイエ塩でむと直きに柔く煮えます。章魚やあわびは塩で揉むと堅くなりますが干瓢は反対で大層柔くなります。大原さん、干瓢を ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
島を巡って、あわびとりの海女あまを見ていたのである。——と貝細工を売っている土産物屋の軒先から、じっと、三名の背をながめている若党連れの武家の父娘おやこがあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「馳走をしねえ、聞かしてら。二見中のあわびと鯛を背負しょって来や。熱燗熱燗。」と大手をふった。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まるであわびの身のように体じゅうを引き締めて、固くなっている様が指先に感じられる。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そいつはとんだ判じ物だね。あわびッ貝か何かなら恋と判ずるが——」
あわび 七三・〇〇 二四・五八 〇・四四 一・九八
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
たとえば酢は東京流の黄色いのを使わないで、白いのを使った。醤油しょうゆも、東京人は決して使わない関西のたまりを使い、えび烏賊いかあわび等の鮨には食塩を振りかけて食べるようにすすめた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
手籠の中には、海草だの、はまぐりあわびなどが売れ残っていた。背なかの児が、時々泣くので、籠を下へ置いては、子をあやし、子が泣きやむと、女房たちへ向って、あきないをせがんでいるふうだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼奴あいつが片思いになるようにあわびがちょうど可い、と他愛もない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あわびのフクラ 夏 第百七十九 野菜の功
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
………チッツンチッツン、ツン、チンリン、チンリンやしょめ、やしょめ、京の町の優女やしょめ、………大鯛おおだい小鯛、ぶり大魚おおうおあわび栄螺さざえ蛤子々々はまぐりこはまぐりこ、蛤々、蛤召ッさいなと、売ったる者は優女やしょめ
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あわびか。鮑はいらん。帰りに買ってやる」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわびのトロロ 夏 第百七十九 野菜の功
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)