述懐じゅっかい)” の例文
旧字:述懷
私は冬季休暇で、生家に帰り、あによめと、つい先日の御誕生のことを話し合い、どういうものだか涙が出て困ったという述懐じゅっかいに於て一致した。
一灯 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「この暑いのに、こんなものを立てて置くのは、気狂きちがいじみているが、入れておく所がないから、仕方がない」と云う述懐じゅっかいをした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
九州平定のいくさも終ったある日のこと、その大友具簡が、尊氏の侍僧日野賢俊けんしゅんにむかい、つくづく懺悔ざんげして、こう述懐じゅっかいしたというのである。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年とった助産婦さえもそういいます。いまの赤ん坊はその人たちのはじめに見た多くの赤ん坊よりも、なにかにつけて進んでいることを述懐じゅっかいします。
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
十二月に御嶽おんたけの雪は消ゆる事もあれ此念このおもいきえじ、アヽいやなのは岩沼令嬢、恋しいは花漬売とはて取乱とりみだして男の述懐じゅっかい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「既に、我と彼との別、是と非との分を知らぬ。眼は耳のごとく、耳は鼻のごとく、鼻は口のごとく思われる。」というのが、老名人晩年の述懐じゅっかいである。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ある時、かれは両国の橋番の小屋に休んで、番人のおやじにその述懐じゅっかいをすると、おやじも一緒に溜息をついた。
放し鰻 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「全く危いところでしたよ。連日れんじつの努力で、もう身体も頭脳あたまも疲れ切っているのです。神経ばかり、たかぶりましてネ」と理学士もそばへよって来て述懐じゅっかいした。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
攘夷じょうい家の口吻こうふんを免れずといえども、その直截ちょくせつ痛快なる、懦夫だふをして起たしむるにあらずや。述懐じゅっかいの詩にいわく
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
養父の宗十郎はこの頃擡頭たいとうした古典復活の気運にそそられて、再び荻江節の師匠に戻りたがり、四十年振りだという述懐じゅっかい前触まえぶれにして三味線しゃみせんのばちを取り上げた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたしの琴や三味線しゃみせんめる人があるのはわたしというものを知らないからだ眼さえ見えたら自分は決して音曲の方へは行かなかったのにと常に検校に述懐じゅっかいしたという。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この手紙を書いたどこかの女は一知半解いっちはんかいのセンティメンタリストである。こう云う述懐じゅっかいをしているよりも、タイピストの学校へはいるために駆落かけおちを試みるに越したことはない。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、そのなかで、とくに興味深きょうみぶかおもわれたのは、金魚鉢きんぎょばちかんしてのかれ述懐じゅっかいであつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
事件がすっかり落着してから、内閣総理大臣大河原是之おおかわらこれゆき氏は、(同氏もこの事件の被害者の一人であって、大切な一人息子を失いさえしたのだが)ある昵懇じっこんの者に述懐じゅっかいしたことがある。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
然し田舎住居がしたいと云う彼の述懐じゅっかいを聞いて、やゝ小首をかしげてのち、それは会堂も無牧で居るから、都合によっては来ておもらい申して、月々何程かずつ世話をして上げぬことはない
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
宿すに足ったろうという述懐じゅっかいさ。まいまいつぶろという奴は鈍間のろまの表象だからこの際調和が好い。それに一つところに凝っとしていないから、これで鼻の下の寸法が可なり長く現れている
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とおまさが、ことにふれての母にたいする述懐じゅっかいはいつでもきまってるが、どうかすると、はじめは平気へいきに笑いながら、気違いのうわさをいうてても、いつのまにか過敏かびんに人のことばなどを気にかけ
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
獄中ごくちゅう述懐じゅっかい(明治十八年十二月十九日大阪未決監獄において、時に十九歳)
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
七兵衛は述懐じゅっかいめいたことを言う。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
検見けみ役人のように、家康は歩きながらも、田畑の耕作を、よく見ていた。そして、従者に、こんな述懐じゅっかいを聞かせたりした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のさかずきに親しまないのを知ったお兼さんは、ある時こういう述懐じゅっかいを、さもうらやましそうにらした事さえある。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつかの夜、玉村二郎に述懐じゅっかいしたのでも分る様に、明智は賊の娘を恋し始めていた。文代の方でも明智を慕っている気持は、品川沖の怪汽艇での出来事以来、分り過ぎる程分っている。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三右衛門は一言ひとことずつ考えながら、述懐じゅっかいするように話し続けた。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と師匠がつい述懐じゅっかいした。
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
大人おとなしく官吏でいればいいものを、開港場のばか景気にそそられて、健気けなげな発奮をしたため、立志伝の逆をやり遂げてしまったというのが彼の述懐じゅっかいであった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちエリザベス(エドワード四世の妃)が幽閉中の二王子に逢いに来る場と、二王子を殺した刺客せっかく述懐じゅっかいの場は沙翁さおうの歴史劇リチャード三世のうちにもある。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と父親が何か述懐じゅっかいした。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
悠長ゆうちょうなやつ、かような出先でさきにたって、なにを述懐じゅっかいめいたことをぬかしおるか。それがなんといたしたのだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうもうまくかけないものだね。人のを見ると何でもないようだがみずから筆をとって見ると今更いまさらのようにむずかしく感ずる」これは主人の述懐じゅっかいである。なるほどいつわりのない処だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その日ちょうど大雪だったので、雪によせての成政の述懐じゅっかいだったろうが、知らないのは雪ばかりでなく、佐々成政も、移りゆく世の動きを知らない一人だった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母の死んだ時、これから世の中で頼りにするものは私より外になくなったといった彼女の述懐じゅっかいを、私ははらわたみ込むように記憶させられていたのです。私はいつも躊躇ちゅうちょしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
光悦は、草木の精に成り代って、草木がいわんとすることを述懐じゅっかいしてみたいと思うのでございます。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「思い出す事など」は平凡で低調な個人の病中における述懐じゅっかいと叙事に過ぎないが、そのうちにはこの陳腐ちんぷながら払底ふっていおもむきが、珍らしくだいぶ這入はいって来るつもりであるから、余は早く思い出して
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
謙信が、ふと述懐じゅっかいしながら、隣へはいを乞うと、上杉憲政は、甚だしく済まないような顔して
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはもっと後年の人物であるが、東軍流の三宅軍兵衛が人に語ったという直話をしるした或る古書にも、軍兵衛の述懐じゅっかいとして、戦陣に臨むおそろしさをこんなふうに述べている。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、思い止まろう。なるほど君のいう通りだ。人間はすぐ眼前の状態だけにとらわれるからいかんな。——閑に居て動を観、無事に居て変に備えるのは難かしいね」と、述懐じゅっかいして帰った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口もかわき、舌の根ももつれ、なにをさけんだか、あとでは自分でもわからない——というのが、後々、一騎当千なつわものと呼ばれるようになった人々にしても、正直に述懐じゅっかいするところである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
数年まえに彼が述懐じゅっかいした歌である。いま、それを心の奥に口誦くちずさむ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから種々述懐じゅっかいした後、小三郎はすずやかに誓約した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、訊ねたのに対して、彼は初めてこう述懐じゅっかいした。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、正成はほんとの気もちのまま述懐じゅっかいしていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、肚の底から羗軍の猛威を述懐じゅっかいした。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう述懐じゅっかいをしたことがある。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝家は、そんな述懐じゅっかいを洩らした。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、述懐じゅっかいしている程だった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう述懐じゅっかいをもらして
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の述懐じゅっかいに。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)