赤城あかぎ)” の例文
傘をさして散歩に出ると、到るところの桑畑は青い波のように雨に烟っている。妙義みょうぎの山も西に見えない、赤城あかぎ榛名はるなも東北にくもっている。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それからあの、赤城あかぎの、こうずうとたれとる、それそれ煙が見えとるだろう、あの下の方に何だかうじゃうじゃしてるね、あれが前橋まえばしさ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
赤城あかぎ鳳翔ほうしょうが第一で、加賀かが竜驤りゅうじょうが第二。これが海軍の艦上機を、数はちょっといえないが、相当沢山積んで、黄海や東シナ海へ敵を迎え撃つ。
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このへんの名物だという赤城あかぎおろしも、四月にはいるとまったくやんで、今は野も緑と黄と赤とで美しくいろどられた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
処は相州東鎌倉雪の下村……番地の家は、昔何某なにがしとかやいえりし大名やしき旧跡あとなるを、今は赤城あかぎ得三が住家とせり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岸本の船に乗るのを見送ろうとして、番町は東京から、赤城あかぎさかいの滞在先から、いずれも宿屋へたずねて来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
沖の方にかかっているずんべらぼうの怪物は航空母艦『赤城あかぎ』と『加賀かが』だ。『竜驤りゅうじょう』と『鳳翔ほうしょう』は第一戦隊『長門』『陸奥』『山城』等の蔭にかくれている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
赤城あかぎ明神裏門より小石川改代町かいたいまちへ下りる急な坂の如く神社の裏手にある坂をば何となく特徴あるように思い、通るたびごとに物珍らしくそのへんを眺めるのである。
裏門からあの娘が飛び出したから、あわてて追つ驅けて行くと、赤城あかぎ明神裏のがけから轉げ落ちて、足をくじいて動けなくなつて居るぢやありませんか。いやがるのを
湯に馴染なじめそうには見えず、花のしぼむような気の衰えが感じられるのだったが、湯を控えめにしていても、血の気の薄くなったからだに、赤城あかぎおろしの風も冷たすぎ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その頃、赤城あかぎ山の裾から遠くない阿蘇あそしょう田沼に、東山道とうさんどう駅路うまやじを扼して、たちとりでをかまえ、はるかに、坂東の野にあがる戦塵を、冷ややかに見ていた老土豪がある。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
群馬県に入りますと、赤城あかぎ榛名はるな妙義みょうぎの三山が目にうつります。ふもとに高崎や前橋の如き大きな町はありますが、その山間で一番興味のある古い町は沼田ぬまたでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
南向きの障子には一ぱい暖かい日がして、そこを明けると崖下がけしたを流れている江戸川を越して牛込の窪地くぼちの向うに赤城あかぎから築土八幡つくどはちまんにつづく高台がぼうともやにとざされている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それに、女番頭格のお高と、それだけの一家だ。朝は、水道下の水戸みと様の屋根が太陽を吹き上げる。西には、牛込うしごめ赤城あかぎ明神が見える。そこの森が夕陽ゆうひを飲み込む。それだけの毎日だ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
左手に赤城あかぎ榛名はるなの山を眺め、あれが赤城の地蔵岳だの、やれあれが伊香保いかほの何々山だのと語りながら馬を進ませたが、次第に路が嶮岨けんそになって、馬がつまずいたり止まったりすると
そのきびしいおきての目をくぐって、箱根や草津へ湯治にゆくとか、筑波つくば赤城あかぎ、富士などへ山登りをするとか、水戸の浜から鹿島かしま香取かとりに参詣するなど、結構よろしくやっている例も稀ではなかった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ことに赤城あかぎ山の周囲にあるものは注意せられているが、甲の村では畠地の間に挟まった水田の一区がカイトであり、乙の村ではそれと反対に、まわりが水田ばかりの中にやや小高い一かたまりの桑畠
垣内の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
曾遊そうゆう榛名はるな赤城あかぎの山々は、夕の空に褪赭たいしゃ色ににじんでいた。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
妙義みょうぎの山も西に見えない。赤城あかぎ榛名はるなも東北に陰っている。蓑笠みのかさの人が桑をになって忙がしそうに通る、馬が桑を重そうに積んでゆく。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
春の日脚ひあしの西にかたぶきて、遠くは日光、足尾あしお越後境えちござかいの山々、近くは、小野子おのこ子持こもち赤城あかぎの峰々、入り日を浴びて花やかに夕ばえすれば
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
旗艦陸奥むつ以下長門ながと日向ひゅうが伊勢いせ山城やましろ扶桑ふそうが、千七百噸級の駆逐艦八隻と航空母艦加賀かが赤城あかぎとを前隊として堂々たる陣を進めて行くのであった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
流石さすがは露伴だ!』といふ声が彼方此方あつちこつちから聞えた。それにも拘らず、露伴は五六囘で筆を絶つて、飄然として、赤城あかぎの山中に隠れた。『伽羅枕』は百囘近く続いた。
紅葉山人訪問記 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
そしてこの地方の——大利根おおとねのながれと、赤城あかぎおろしと、南は荒い海洋に接している下総境しもうさざかいの——坂東平野をしずかにながめ、ここにまだ、文化のおくれている粗野な人情と
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤城あかぎ』『加賀かが』『竜驤りゅうじょう』——すごいやつがそろっている。まるで鋼鉄の浮き要塞だ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
酒も呑まず賭事かけごとにも手を出さず、十二三歳の時から、馬で赤城あかぎたきぎを採りに行ったりして、馬を手懐てなずけつけていたので、馬に不思議な愛着があり、競馬馬も飼い、競馬場にも顔がきいていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これと対して牛込うしごめの方を眺めると赤城あかぎの高地があり、正面の行手には目白の山の側面がまた崖をなしている。目白の眺望は既に蜀山人しょくさんじん東豊山とうほうざん十五景の狂歌にもある通り昔からの名所である。
やまきよくかんにして、赤城あかぎしたにはとりくのをぽかんといて、うつとりとしてゐると、なゝめさがりのさかした、あまざけやのまちかどへ、なんと、先生せんせい姿すがた猛然まうぜんとしてあらはれたらうではないか。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
午前六時を過ぐるころ、艦隊はすでに海洋とうの近くに進みて、まず砲艦赤城あかぎを島の彖登湾につかわして敵の有無を探らしめしが、湾内むなしと帰り報じつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
雪に光る日光の連山、羊の毛のように白くなびく浅間ヶ嶽のけむり赤城あかぎは近く、榛名はるなは遠く、足利あしかが付近の連山の複雑したひだには夕日が絵のように美しく光線をみなぎらした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
念仏停止ちょうじのため、都を追い払われてから、この先の赤城あかぎふもとに草庵をかまえておりましたが、このほど、恩師法然様が讃岐さぬきよりご帰洛と聞いて、すぐ都へ馳せ上り、そしてまたも
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝夕あさゆうのかすみのいろも赤城あかぎやまそなたのかたにむかでしらるゝ
国庁の兵火を見捨てて、山づたいに、常陸から下野へ逃げはしった貞盛の主従が、秀郷を頼って、やがて赤城あかぎ山麓の田原のたちに辿り着いたのは、十二月に入ったばかりの寒い日だった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋の末になると、いつも赤城あかぎおろしが吹きわたって、寺の裏の森はうしおのように鳴った。その森のそばを足利あしかがまで連絡した東武鉄道の汽車があしたに夕べにすさまじい響きを立てて通った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)