がに)” の例文
が、その時の大火傷おおやけど、享年六十有七歳にして、生まれもつかぬ不具かたわもの——渾名あだなを、てんぼうがに宰八さいはちと云う、秋谷在の名物親仁おやじ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
倉地は四五歩先立さきだって、そのあとから葉子と木部とは間を隔てて並びながら、また弁慶がにのうざうざいる砂道を浜のほうに降りて行った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
木像がにの本来のまなこは、暗黙のうちに、自己警戒を油断なくしだしていた。政務、厳令、いよいよ執事の職柄しょくへいを把ってうごかぬものがみえる。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たらばがにのような顔をした宿屋の主人は眼をしばだたいた。進んで同行しようと云うのであった。哀しみは、顧客をうしなったことだけではなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
その、今まで評議ひょうぎをしていた末席に、ジッと畳に両手を突いて、平家がにのように平伏したきり動かない人物がある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ひる過ぎ二時頃イボギンヌの叔母様が大きな眼を開いて、息を切って呼びに来たの。私達は御弁当を用意して半里許り離れた溝へざりがに釣りに来て居たの。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ひげの濃い角ばった顔がいつも酔っているようにあかいので、兄がべんけいがにというあだ名をつけたことがある。
日本婦道記:藪の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「理窟だな。平家がにみたいな野郎ばかり住んでゐるから、向柳原のお前の叔母さんの住んでゐるところは平家長屋さ。あの隣りの研屋とぎやの親爺と、家主のデコボコは凄い顏だぜ」
「……野郎。この事を轟の親方に告口つげぐちしやがったらタラバがにの中へタタキ込むぞ」
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やどりがにの殻の中に、蟹ではない別の生物が住んだようなものである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さゞれがに足はひ上る清水かな 同
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
捕れるのはかれいが多く、あいなめとか、夏になるとわたりがになども捕れるが、蟹の場合はべつに心得があった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その空溝を隔てた、むぐらをそのまま斜違はすかいにおり藪垣やぶがきを、むこう裏からって、茂って、またたとえば、瑪瑙めのうで刻んだ、ささがにのようなスズメの蝋燭が見つかった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、彼はその足で、たらばがにのような顔を役所につきだした。役人から、弁明の言葉をむっちりした顔で聞いていた。聞きおわった彼は、親方らしくぶすりと云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
と、東儀与力の真っ黒に濡れた姿が、木像がにのように、岸へ這い上がった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さゝれがに足はひ上る清水かな 同
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
捕れるのはかれいが多く、あいなめとか、夏になるとわたりがになども捕れるが、蟹の場合はべつに心得があった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時鳥ほとゝぎす矢信やぶみ、さゝがに緋縅ひをどしこそ、くれなゐいろにはづれ、たゞ暗夜やみわびしきに、烈日れつじつたちまごとく、まどはなふすまひらけるゆふべ紫陽花あぢさゐはな花片はなびら一枚ひとつづゝ、くもほしうつをりよ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると、先刻さっきの木像がにのような駕かきが、再び崖の下に、顔を見せ
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひげすする甘酒に、歌の心は見えないが、白い手にむく柿の皮は、染めたささがにの糸である。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言ふ、娘の手にしたびくあふれて、く影は、青いさゝがにの群れて輝くばかりである。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小山夏吉は快くこれを諾して、情景しなに適し、景に応じ、時々の心のままに、水草、藻の花、すすきの葉、桔梗ききょうの花。鈴虫松虫もちょっと留まろうし、ささがにも遊ばせる。あるいは単に署名する。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「むきがに。」「殼附からつき。」などと銀座ぎんざのはちまきうまがるどころか、ヤタいちでも越前蟹ゑちぜんがに大蟹おほがに)をあつらへる……わづか十年じふねんばかりまへまでは、曾席くわいせきぜんうや/\しくはかまつきで罷出まかりでたのを、いまかられば、うそのやうだ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
結び目の押立おったって、威勢のいのが、弁慶がにの、濡色あかきはさみに似たのに、またその左の腕片々かたかた、へし曲って脇腹へ、ぱツとけ、ぐいと握る、指とてのひらは動くけれども、ひじ附着くッついてちっとも伸びず。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てんぼうがにふるえ上って
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)