あば)” の例文
ことごとあばれ出して、雲を呼び雨を降らす——さればこそ竜神の社は、竜神村八所のしずめの神で、そこにこも修験者しゅげんじゃに人間以上の力があり
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兄の留守のまに、お柳は時々あばれ出して、年った母親をてこずらせた。近所から寄って来た人々と力をあわせて、母親はやっと娘を柱に縛りつけた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それはその町に一人の鰥夫やもめの肺病患者があって、その男は病気が重ったままほとんど手当をする人もなく、一軒のあばら家に捨て置かれてあったのであるが
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
猶奴ジュウのやつが自分のあばの戸を閉めきつて、長持の中の銭を一とほり勘定し終つてから、上掛けをかぶつて
学校における成績も中等で、同級生のうち、彼よりもすぐれた少年はいくらもいた。また彼はかなりの腕白者わんぱくもので、僕らといっしょにずいぶんあばれたものである。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこでことわっておくが、ここには、黒死舘風景はないんだぜ。豪華な大画ほうや、きらびやかな鯨骨を張った下袴ファシング・スカートなどが、このあばら家のどこから現われて来るもんか。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
家中いえじゅうの女共も同じ事、れか狐に喰いつかれはしまいか。お狐様はうちの中まであばれ込んで来はしまいか。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
生憎あいにく女の来ようがおそかった。怒った彼れには我慢が出来きらなかった。女の小屋にあばれこむ勢で立上ると彼れは白昼大道を行くような足どりで、藪道やぶみちをぐんぐん歩いて行った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あばら屋中の荒ら屋だ、やがて塔へ上る階段の許まで行くと、四辺が薄暗くて黴臭くごみ臭く、如何にも幽霊の出そうな所だから、余は此の屋敷に就いての一番新しい幽霊話を思い出した
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
寂しいあばら屋で物思いをばかりして暮らす朝夕の生活に飽いていて、深くも考えずに、源氏の縁のかかった所に生活のできることほどよいこともないようにこれまでからこがれていて
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それに満だって和女がこんな好い娘になっている事は知るまいし、いつぞやの夏休みに帰って来た時分和女はまだ男の子と一緒に真黒になってあばれていたからこんなに変ろうとは思うまい。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼の西乃入の牧場をあばれ廻つて、丑松の父を突殺した程の悪牛では有るが、うしたいさぎよい臨終の光景ありさまは、又た人々に哀憐あはれみの情をおこさせた。叔父も、丑松もすくなからず胸を打たれたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
女はその儘あばらな板敷のうえにいつまでも泣き伏していた。……
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「あれはわしの呼んだ客じゃ。汁講は男ばかりと限ってもおるまい。女のなきは、梅の月のないようなもの。面々が余りに虎になってあばれぬよう呼んだ女子おなごじゃ。……しかしその女子がひとりのはずだが、あとは誰かな?」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひてあばれしそのかみの友
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やっている連中を見ると、だらしなく参るのや、勢いこんで猛牛の如くあばれ廻るのや、先後の順も、上下の区別も血迷ってしまっているのが多い。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
所謂いわゆる富岡先生の暴力益々ますますつのり、二六時中富岡氏の顔出かおだしする時は全く無かったと言ってよろしい位、恐らく夢のうちにも富岡先生はあばれ廻っていただろうと思われる。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それはさて、よく祭礼の前夜などに、堅気な人たちがこの蜜蜂飼のあばへお客にやつて来て、卓をかこんで席につく——さうなつたら、ただもう耳を澄まして聴き入るよりほかはないて。
「娘を死なせました母親がよくも生きていられたものというように、運命がただ恨めしゅうございますのに、こうしたお使いがあばら屋へおいでくださるとまたいっそう自分が恥ずかしくてなりません」
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「御亭主殿が気狂きちがいになった、御亭主殿が気狂いになって脇差を抜いてあばれ出した、だれかれの見さかいなく人を斬りはじめた、危ない、逃げろ!」
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その日は日曜で僕は四五人の学校仲間と小松山こまつやまへ出かけ、戦争の真似まねをして、我こそ秀吉だとか義経だとか、十三四にもなりながらばかげた腕白わんぱくを働らいて大あばれにあば
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その光で、あたりの光景がべにを流したように明るくなりました。そこに一箇ひとりの囚徒が阿修羅あしゅらのようにあばれています。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この道場というは四けんと五間の板間いたのまで、その以前豊吉も小学校から帰り路、この家の少年こどもを餓鬼大将としてあばれ回ったところである。さらに維新前はおめん籠手こてまことの道場であった。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あの金蔵という奴があばれ出したな——こうと知ったら、もう少し手厳てきびしくいましめておけばよかったと思いました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あれ、また、あんなに鷲の子があばれ出しました、籠をこわしてしまやしないかしら、友さん、どうかして頂戴、籠をこわして飛び出されては大変ですから」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
相当に馬を譴責けんせきすることでしょう——もし、乱暴の主人でしたなら、危険のおそれあるあばれ馬として、売り飛ばすか、つぶしにすることか知れたものではない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
誰も相手にしないで罵るだけ罵らせ、あばれるだけ荒れさせて、そのめる時までほうっておくのであります。
落武者は十一人と数が知れても、それが死物狂しにものぐるいにあばれる時は危険の程度が測られない、新八郎が惣太に火薬を授けたのは、その辺の遠慮から出た計画と見える。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殿様は生皮いきがわけとおっしゃるが、このくらいの奴にあばれられると、生皮を剥くにはかなり骨が折れる。
濁声だみごえはいよいよ濁り、調子はいよいよ割れ出し、ダンスの足踏みは盛んにあばれ出したものであります。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれども、今宵こよいに限って誰もお危のうございますと言って止める者はありません。あばれ出した神尾主膳は、この手槍で真一文字に庭の石燈籠へ突っかけて行きました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お角はいよいよあばれます。お絹は少しもひるみません。お松がもてあましているところへ折よく
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なんでも一気にこの御番所へあばれこんで、火をつけてしまえ、ということだったそうでございますが、なかに、この御番所には大筒おおづつがある、大筒をブッ放されてはたまらない
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それでは薩摩屋敷のあばものの采配を振っているのは益満という男か、その益満という男は、どんな男であろうと、忠作は益満という名を、しっかりと頭の中へ刻みつけました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いくらあばれても、俯向うつむきに落ちたところを上から押しつぶされたのだから動きが取れないでいるうちに、演芸用の綱渡りの綱を持って来てグルグルと縛って難なくこれも生捕いけどり
お角に抱き留められた神尾主膳は、例の酒乱がきざしてあばれ出すかと思うと、そうでなく
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今は怪我をしねえようにそっと突いていてやるんだ、穂をつけてから、米友がほんとうにあばれ出したら、いちいち突き殺して、この河原を裸虫で埋めるようなことになるからそう思え。
米友の網竿あみざおは恐ろしい、死物狂いになって真剣にあばれ出されてはたまらない、深傷ふかで浅傷あさで槍創やりきずを負って逃げ退くもの数知れず、米友は無人の境を行くように槍を突っかけて飛び廻る。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
熊はさんざんにあばれ、人はさんざんに蹂躙し合って、名状すべからざる混乱状態を現わしているうちに、道庵の姿も、いつのまにか演壇から没して、逃げたのか、つまみ出されたのか
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
またいくら米友があばれてみたところで、かえでの木にゆわいつけられている建具屋の平吉がゆるさるべきものでもなく、かえって米友が荒れれば荒れるほど、平吉の罪も重くなるというものでしょう。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さいぜんのようにあばれ出して始末にいかねえ、なんとか面白い工夫はないか
それより以後におけるムク犬のあばれ方は、縦横無尽というものであります。
急にけだもののようにあばれ出して、わたしの体をおっかぶせてしまいましたから、わたしは声を立てることも、息をすることもできません、けれども、この悪い獣のような奴が誰だかということは
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
動くというよりはむしろ、長持そのものがあばれ出したように見えました。
間毎間毎をあばれ廻って、そうして庭へ下りた、大勢に囲まれた、幾人か切ったに相違ない、血もついている、それから鉄砲という声が聞えたようだ、それを聞くと庭の大きな松の樹にかけ上った
落着いていたがあばれる時は近藤以上に荒れる。怨みはよく覚えていて、根に持っていつまでも忘れない。近藤はぎょやすし土方は御しがたしと有司ゆうしも怖れていた。隊長の芹沢は性質がことにねじけていた。
それとても不思議はない、鼠が中であばれ廻っているからです。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それあばれ出した、怪我をするな」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)