禁物きんもつ)” の例文
とにかく山の手は御存じの如く都の中にても桃隣とうりんが「市中いちなかや木の葉も落す富士おろし」の一句あり冬の西風と秋の西日禁物きんもつに有之候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
するには研究が必要かも知れないけれども、交際に研究は禁物きんもつよ。あなたがその癖をやめると、もっと人好ひとずきのする好い男になれるんだけれども
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほろびた柴田の残臣ざんしんを、まだねらっている者もたくさんあるし、ことに豊臣家とよとみけの者のいるところで、それをいうのは禁物きんもつだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「弟の肩を持って、亭主と喧嘩でもしやあしねえか。ふだんもそうだが、こういう時に夫婦喧嘩は猶さら禁物きんもつだ。仲好くしねえじゃあいけねえぜ」
僕は実は平仮名ひらがなには時時ときどき形にこだはることがある。たとへば「て」の字は出来るだけ避けたい。殊に「何何して何何」と次に続けるのは禁物きんもつである。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鰹船の禁物きんもつは第一は遠島船。第二が讃岐さぬき藍玉船あいだまぶね。遠島船にあうと鰹の群来くきが沖へ流れるといって、たいへんに嫌う。藍のほうはむかしから魚には禁物。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
老人は身体からだを養うために沢山の滋養分を取らなければなりませんが歯の悪いため硬い物は禁物きんもつですし、何の肉でも細かくして食べさせるのに限りますね。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
酒はお師匠さまには禁物きんもつでしょうが、ああして置いたら自然とおからだが弱りはしまいますまいか。いくら御謹慎中でも、すこしはお勧めした方がいい。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、叛乱とか叛軍とかいう言葉は、今のところ絶対禁物きんもつのようです。それをはっきり口に出したら、それだけで、最悪の事態におちいるかもしれません。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ほどよく、いい加減にお茶を濁しておけ、一所懸命になるな、熱心は禁物きんもつだというように誤解を起こしやすいけれども、僕の意は決してそういう考えでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「うんにゃ、駄目だ! その手は食わねえ! また兄妹なら兄妹でもいい、泥棒に情けは禁物きんもつだ。何んと云っても駄目の皮だ! さあソロソロ取りかかろうぜ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おまえが、つまらないことをいったばかりに、ふじのはなくに戦争せんそうをするようになってしまった。このくにでは、ひすいばかりでない。いっさいのあおいし禁物きんもつである。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「この尊い犠牲を生かさねば、われわれの義務は果せませんぞオ。——さあ全員配置について、スピードをあげましょう。ここは丁度、恐ろしい無引力空間の近くです。油断ゆだん禁物きんもつ!」
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「下世話にもやまいは気からと申す。いまの若さに欝気うつけは大の禁物きんもつじゃ。ああ、ええ陽気じゃわい。枯れ木にも花が咲いて、わしがごとき老骨でさえ浮かれ出しとうなるて。わっはっはっは」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一體いつたい童謠どうえう收録しうろくするのに、なまりをたゞしたり、當推量あてずゐりやう註釋ちうしやくだい禁物きんもつなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
支那、馬来マレイ瓜哇ジヤワあたりの売春婦のつうを話した人もあつた。蓄音機が持出されて僕に初めて呂昇ろしようを聴かせてれたよるもあつた。航海中は笑はされるのが何よりい。真面目まじめな話は禁物きんもつである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
余の如きは胸中大に其無礼ぶれい憤懣ふんまんす、然れ共之れれい放言大語はうげんたいご容易やういしんずべからざるをる、何となれば元と藤原地方の人民はみなつねに這般の言語げんごき、深山にけ入るを禁物きんもつとなす者なればなり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ただひと良人おっとにとりての禁物きんもつ三崎みさきはなしでした。
青酸加里せいさんかりだけは、禁物きんもつということにしましてね
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「でも縁談に墓地のお話なんか禁物きんもつでしょう」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
突き通しはくるわ禁物きんもつで、それが知れると面倒であるから、誰袖は病気にかこつけて入谷の寮へたびたび出養生にゆく。そこへ永太郎が忍んでゆく。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで、円座いっぱいにすわりなおして、ひけ目は禁物きんもつ、大いに飲んで、充分、こっちの人間も見せ、かの女の美か否かも、はらをすえて見るべきだと、ひそかに思う。
一 小説かかんと思はば何がさて置き一日も早く仏蘭西フランス語を学びたまへ。但し手ほどきは日本人についてなす事禁物きんもつなり。暁星ぎょうせい学校の夜学にでも行きその国人についてなすべし。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
とうとう来たな! おおよう来た! 涙は人生に禁物きんもつじゃ! 笑って進め笑うに限る! 嵐よ雪よ、すさぶがいい! それを突っ切るのが目的じゃ! ——おお気を付けるがいい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もっとも実際にことにあたるときは他を顧みず猛進せねばならぬが、ことにあたるか否かを考うるあいだはることは禁物きんもつである。しかるに青年の一大特長はものに熱するにある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「いやいや、まだまだゆだんは禁物きんもつだ。X号は、このうえ何を考えだすか、知れないのだから、なんとかして、あいつをこっぱみじんに粉砕ふんさいしてしまわないと、どうしても安心はできないよ」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「勿論知らん。音楽家と犬とは昔から僕にゃ禁物きんもつだ。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
攘夷の軍用金を口実にして、物持ちの町家をあらし廻るのは此の頃の流行で、麻疹はしかと浪士は江戸の禁物きんもつであった。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「大事をもくろむ矢先に立って、気を散らすのは禁物きんもつだ。そんな量見方りょうけんかたなら、この俺は俺で、勝手な道をとるとして、おめえと組むのはお断りだから、そう思って貰いたい」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんのなんのこの四人がたとえ一度にかかったとて、貧乏ゆるぎもすることか、それに第一ここは霊地。軍神荒神あらがみのまします所ゆえ、そんな狼藉ろうぜき禁物きんもつ禁物、神罰のほどがおそろしい」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人目ひとめを忍ぶ身には煙草の火も禁物きんもつである。まして迂闊にしゃべることも出来ないので、二人は無言のぎょうに入ったように、桜の蔭にしゃがんで黙っていた。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「相良さん、これから先は、あまり口数をきかないように。それと、武家言葉は禁物きんもつですぜ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奉行所の白洲しらすの調べもそうですが、わたくし共の調べでも、ぽつりぽつりとしずかに調べて行くのは禁物きんもつです。
半七捕物帳:45 三つの声 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
武術ぶじゅつ酒気しゅきのあるのは禁物きんもつということ、未熟者みじゅくものにとってはことにだいじな試合しあい、もし不覚ふかくがあってはものわらいのたねともあいなるから、まず、おこころざしだけをうけて、おいわいはあとでちょうだいいたす
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「邪教かぜ禁物きんもつな当今、かりにも切支丹屋敷の付近を、尾州家の者がウロついていたなどと風聞されては困る、第一、宗門しゅうもん役人が寄せつけまい。それよりは、この万太郎に一策があるがどうじゃ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いけねえ。燧石ひうちの火は禁物きんもつだ」
なみだのなの字も目明しにゃ禁物きんもつ、一足お先へ押ッ放してお貰い申します
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)