がん)” の例文
加賀百万石の御用染め屋で、お蘭が加州家奥勤めのお腰元だったら、しごきもここが染め元とがんをつけるなあたりまえじゃねえかよ。
端渓には上層中層下層とあつて、今時のものはみんな上層ですが、是は慥かに中層です、此がんを御覧なさい。眼が三っあるのは珍らしい。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「そこだっ、松さん。お前はなかなかがんが利くのう。彦、蔵から母家から残らず塵を吹いてみろ。飛ん出たら声を揚げろ。怪我しめえぞ。」
みなぎりだした殺念はがんにあらわれてものすごい。月光を吸いきった三尺たらず無銘のわざもの、かつ然と鍔鳴つばなりさせて天蓋の影へ斬りかかった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足が曲った紅毛こうもうへきがんの紳士や、身体中ひだだらけで、馬鹿に顔のふくれ上った洋装美人が、様々の恰好かっこうで、日本流の見えを切っているのだ。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さあ、こうなると、長し短し、面被めんかぶりでござるに因って、がんあかるいが、つら真暗まっくら、とんと夢の中に節穴をのぞく——まず塩梅あんばい
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以上の三がんも更にただせば、また三眼にして一眼なのである。一眼にして三眼なのである。この意味に於て三眼それ自身が「融即」の眼なのである。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
きよくまことなる心、無極の意と相繋がる意、世の雑染を離れて神に達するのがん、是等の三要素を兼有する詩人文客の詞句を聴くは楽しむ可きかな。」
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
なるほど彼の眼は一がん全く濁り、片方のひとみにも雲がかかつてゐた。遍路の話を聴くに、もとは大阪の職人であつた。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
と、急に生きかえったようにはきはきなって、上等のシナ墨をがんの三つまではいったまんまるいすずりにすりおろした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お、平次と言ふか、御苦勞であつた。——飛んだ目に逢つてのう、——醫者は動いてはならぬと言ふが、一がん
その前独逸ドイツ伯林ベルリンがん病院でも、欹目やぶにらみの手術とて子供のとうを刺す処を半分ばかり見て、私は急いでその場を逃出してその時には無事に済んだことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼はおどろいて話をめた。そして両がんを大きくみひらいた。手に持っているハンカチは次第に桃色から赤に変り、それをかざしていた手も同じ様に赤く染って行った。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
佐々は六つのテレビジョンがんをいくどとなく眺めつづけた。だんだんと見ているうちに宙に浮かんでいる自分のロケットがハッキリ見えるような気がしてきた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おそくあるべきのところが早過ぎたり、かとおもうとトントンとゆくべきとこではじれったいほど「間」を持たせたりした。がんの配りもめちゃめちゃだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
次郎が潜ってこれならばとがんをつけた引揚事業で、これまで失敗したのは一つもなかったということだ。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
從ツて慘忍ざんにんを極め辛辣を極めて、殆んど何物なにものがん中に置かず、眞箇まツたくシヤイロツク的人物となツて了ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
然れども吾人詩学的のがんつて之をるときは、キリストと雖も明白なる罪過あるなり。彼はユダヤ人の気風習慣にさかひ、時俗に投ぜざる、時人の信服を買ふ能はざる説を吐けり。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
〔譯〕がんくること高ければ、則ちを見ることせず。
「ホシは仲間だ。絞めたやつのそでにちがいないぞ。おれだってがんのつくことがあるんだ。まごまごとしていねえで、もっとよく調べろ」
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
端渓には上層中層下層とあって、今時のものはみんな上層ですが、これはたしかに中層です、このがんをご覧なさい。眼が三つあるのはめずらしい。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で差出した手首は、ほころびた袖口をわずかにれたばかりであるが、肩の怒りよう、がんの配り、引手繰ひったくりそうに見えたので。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遍路は眼が悪いということをいった。なるほど彼の眼は一がん全く濁り、片方のひとみにも雲がかかっていた。遍路の話を聴くに、もとは大阪の職人であった。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
日本男子鉄面皮てつめんぴなるも、そのがんに映じて醜なるものは醜にして、美なるものは美なるべし。既に醜美の判断を得たり、然らばすなわち何ぞその醜を去って美にかざるや。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「聞いてくれ三遊亭。そりゃ巧え小圓太は。お前のいう通り、たしかに筋もいい、調子もいい、がんもきく、人間も決して馬鹿じゃない。どうしてなかなかの大したものだ」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ほんの暫らくの間、颱風たいふうがんへ入つたやうな、怒る可き沈默が續きました。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
いたちのような鋭さをして、今朝、塀裏町へいうらまち横丁よこちょうを出てきた手先のがん八は、ツンのめるようなかっこうで、牢屋べいの下草へたんつばを吐きかけながら、そそくさと、代官屋敷のほうへ急いで行った。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すると、何も——」と云いながらケイシイ巡査は両がんを働かせてしつの中をくまなく見ていた。やがて彼の視線はエフィの鏡台の上の二個のブラシに注がれたが、別に不審も起さずに他に転じて行った。
目撃者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見ろい。まさしくこいつあ艫肉豆ろだこだ。船頭の証拠だよ。これだけがんがつきゃ騒ぐこたアねえ。自身番の連中、おまえらはどこだ
冠の底を二重にめぐる一ぴきの蛇は黄金こがねうろこを細かに身に刻んで、もたげたるかしらには青玉せいぎょくがんめてある。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこであわてて大阪医科大学の療治を乞うたけれども奈何いかにも思わしくない、そのうち一がんはつぶれてしまった。それのみではなく、片方の眼もそろそろ見えなくなって来た。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
話中幾人かの人物の位置の移動を、がんの配りたったひとつで如実に表さなければならない「噺」の世界では、かかって「芸」の活殺かっさつ如何はこうした目の動かし方ひとつにあり。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
(ど、どうした野郎、)と小腹も立つ、爺どのが恐怖紛おっかなまぎれに、がならっしゃると、早や、変でござりましたげな、きょろん、としたがんの見据えて、わしが爺の宰八の顔をじろり。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今の男は、木戸へ変事をらせに来た、目明しのがん八という者です」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のろい参りしたのは禄持ち藩士だよ、その禄持ちの藩士が切りたくても切れねえ相手とは、——おめえにゃがんがつかねえかい
がん、じゃんかのこわい顔をした男、尺取の十太郎です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この肌合はだあいと、このがんを見て下さい」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
がんの配り。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
かりにそれががんちげえであっても、流儀の流れをうけた内弟子うちでしか門人か、どちらにしても、近親の若い女にちげえねえよ。
がんを読むのははやかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうやら、つじうらは上吉らしいな。珍しく気がきいているようだが、橙までも持ってきて、ホシのがんはついたかい」
如法によはふ暗夜にも一がんあり
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へじゃないよ。新規まき直し、狂ったことのねえがんが狂ったから、出直さなくちゃならねえといってるんだ。まごまごしねえで、ついてきなよ」
如法によはふ暗夜にも一がんあり
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、伝六あにいとんだがんちげえをやったんですよ。ちょっと変なことがあるんですが、だんなはいってえだれが下手人だと思ってるんですかい
すこうしがんがつきかけると、じきにむっつり屋の奥の手を出すんだからね。なにもあっしだって、ひとりごとをいうために生まれてきたんじゃねえんだ。
「へえ。年増とね。がんがちっと狂ったかな。年増もいろいろあるが、おおよそいくつぐらいだよ。三十五、六か」
「せくな! ここまでがんがつきゃ、もうひと息だ。ご後室さま、敬之丞とか申した兄の浪宅はどこでござります」
がんだ、眼だ。白旗金神のほうはおるすでしたがね、やっぱりゆうべ本所四ツ目の生き埋め行者へ出たんですよ」
「ほほう、その方が身のために力を貸すと申すか、がんの配り、向う傷の塩梅、いちだんと胆も据っておりそうじゃ。見事に貸し分取り立てて見するかな」